閑話・アレクセイ7
「僕も彼女に会いたかったな〜」
「私が出会ったのは偶然だ。しかしリューク…本当にこのままで良いのか?」
「ん?何が?」
「とぼけるな。彼女の…ベルの事だ」
「そうだね。彼女には悪いけど、もう始まっちゃったものは仕方ないでしょ?それに悪い様にはしないよ」
「しかし……」
真面目なアルフレッドは渋面を作って唸る。コイツは珍しくも彼女の事を気に入った様子だった。まさか惹かれているのだろうか。
「それにアレクの腕輪があるじゃないか。大丈夫だよ。ね?」
問われて自身の指輪を確認する。これはあの指輪の対になる物であちらに何かあればすぐに分かる様になっているのだ。しかし…
「何か問題でも?」
アルフレッドに問われて頷く。何かがおかしいのだ。
「あれから問題なく作動していたのだが、彼女が帰って暫くしてから様子が変なんだ。どこか掴みきれない何かに邪魔をされている気がする」
「…それは良くないんじゃない?」
「俺もそう思ってずっと意識を飛ばしているんだが…問題はないんだ。彼女の身に危険は無い。しかし何かが変だ…」
不安定な何かが周りを覆っているような感覚。それが近頃強くなっている気がする…。
そしてこの嫌な予感は何だ?
「一度彼女の元へ飛ぶ」
「う〜ん…でも相手に気付かれるかも…」
「そんなヘマはしない」
俺の言葉にアルフレッドも頷いた。
「そうだな。確認するに越したことは無いだろう…」
「じゃぁ僕も行くよ。彼女に会ってみたいし」
リュークを伴って彼女の元へ飛んだ俺が見たのは、床に倒れて男に馬乗りにされている彼女の姿だった。
俺は反射的に男を蹴り飛ばし、意識が無い男を殴り続けた。
「ちょっ……アレクセイ!!!」
リュークに羽交い締めにされた時には男の顔は原型を留めていなかった。…チッ、まだ生きていやがる。
「殺しちゃダメだ!!」
「分かってる」
そう言ってから彼女の元へと走ると、頬を腫らしてぐったりとするベルを抱き上げる。
「戻るぞ」
「ま、待ってよ!!コイツも連れて行かなきゃ!!」
「早くしろ!!」
怒鳴る俺に驚きながらも、男の足を掴んで走って来たリュークと共に王宮へと戻った。
彼女を寝台に寝かせて医者を待つ。
俺は治癒術が使えない。それがこんなにも腹立たしい事だとは思わなかった。
医療術者は彼女の頬の腫れを癒し、その他に負った傷も治してくれたが彼女は目覚めない。何故だ!?何故目覚めない!!
「精神的ショックが原因だと思われます。ベル様がいつ目覚められるかは分かり兼ねます」
クソッ!!そんな事分かってるよ!!!
それを治すのがお前らだろ!?
俺は何も出来ないんだ!!!
あれから毎日彼女の元を訪れている。
彼女に変化はない。
眠る彼女の頬に触れてみた。
とても柔らかく、温かい。
「ベル…」
名前を呼んでもその瞳は開かれない。
あの良く動く紫水晶は俺を見てくれない。
「…ベル……すまない…」
俺はまた傷付けてしまった。
こんなにも小さく、弱い彼女を守れなかった。
「ベル……起きて…笑ってくれ…」
何の反応もしない彼女の左腕を持ち上げて手の甲に口付ける。
俺は今度こそ誓うから。
「ベルは俺が守るから…」