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86 ステフとエレミア

「……道が分かれてるねぇ」


 ジュリア母さんが言った。

 たしかに、俺たちの目の前で、洞窟が二股に分かれている。

 そして、どちらからも魔物の気配がする。


「それなら、二手に分かれよう。僕とジュリアの2人。エド、エレミア、ステフの3人だ」

「了解」


 父さんの案に返事をしてから、俺はエレミアとステフに向き直る。


「じゃあ行こうか」

「うん」「はい」


 俺たちは斥候役のエレミアを先頭に洞窟をしばし無言で進む。

 ステフが声を上げたのは、5分も進んだ頃だろうか。


「またですかぁ」


 洞窟の奥から、梟熊(オウルベア)の群れが現れた。

 数は6……いや、7体か。


「いちいち相手するのも面倒だな」


 このレベル帯の魔物では実戦経験としても微妙だ。

 もちろん悪神の勢力を削ぐという意味はあるから、見逃すわけにもいかないのだが。


「じゃあ、ボクがまとめて片付けちゃうよ?」


 エレミアが言って、腰の鞘から2本の短剣を抜き放った。

 エレミアは〈黒魔術師〉の能力で2本の刀身に「闇」をまとわせていく。


「――【鑑死眼】」


 つぶやくと同時に、エレミアが駆けた。

 梟熊(オウルベア)の群れの中を影から影へと駆け回り、目にも留まらぬ速さで闇色の双短剣を振るう。

 梟熊(オウルベア)はその間、まったく動けずにいた。いや、エレミアの存在に気づくことすらできなかった。


「……〈アサシネイト〉」


 いつの間にか俺たちの前に戻ってきていたエレミアがつぶやく。

 梟熊(オウルベア)たちがぐらりと揺れ――ドドドドッと音を立て、その場へと崩れ落ちていった。

 〈アサシネイト〉。エレミアが【暗殺術】と【精霊魔法】、【闇精魔法】を組み合わせることで編み出した即死の魔技だ。

 せっかくなので、エレミアがこの5年でどのくらい強くなったか見てみよう。


 エレミア・ロッテルート・キュレベル(キュレベル家養女・《昏き森の巫女》)

 12歳

 ダークエルフ


 レベル 43(↑22)

 HP 71/71(↑41)

 MP 3654/3864(3774+90、↑3797)


 クラス

 〈アサシン〉C(NEW!)(「殺す」ことに特化した戦闘技術者。クラスランクの上昇に伴い、身体運動能力、身体操作能力、気配察知、隠密技術に補正がかかる。暗殺に有用なスキルの習得に小補正。)

 〈黒魔術師〉D(NEW!)(闇の魔力・精霊力の操作に特化した魔術師。クラスランクの上昇に伴い、闇を生み出し、支配する能力に補正がかかる。クラスランクが上昇するごとにMPに+30のアッドがつく。)

 〈楽器奏者〉D(NEW!)(楽器の演奏に魔力を乗せることで、さまざまな支援効果を付加することができる。クラスランクに応じて乗せられる魔力の量が増える。クラスランクが上昇するごとにMPに+15のアッドがつく。)


 スキル

 ・伝説級

 【疲労転移】-

 【精霊魔法】5(NEW!)

 【念話】5(NEW!)

 【鑑死眼】3(NEW! 致死的ダメージを与えられる箇所を見破ることができる。対象のレベル、魔力、スキル等によっては見破ることができない場合もある。)

 【双魔短剣術】2(NEW!) 


 ・達人級

 【雷撃魔法+1】4(NEW!)

 【光精魔法+1】1(NEW!)

 【射撃術】2(NEW!)

 【狙撃術】1(NEW!)


 ・汎用

 【銃技】9(MAX、NEW!)


 《昏き森の祝福》


 エレミアはなんと3つものクラスを獲得してしまった。

 獲得したというか、俺が【スキル魔法】で合成したわけだが、合成できる条件を満たしたのは紛れもなくエレミアの努力によるものだ。

 【暗殺術】や近接戦闘、斥候関連のスキルは〈アサシン〉に、【闇魔法】や魔法技術関連のスキルは〈黒魔術師〉へと統合され、見た目にもかなりすっきりとしたステータスになっている。


 エレミアはその後も、出くわした魔物の群れを〈アサシネイト〉で片付けていく。

 疲れを知らず、MPが切れることも(あまり)ないエレミアの、殺戮のダンス。当初は【暗殺術】を捨てようとしていたエレミアだが、エレミア自身の適性と【暗殺術】の相性はかなりいい。結局エレミアは自分の過去と折り合いをつけ、〈八咫烏(ヤタガラス)〉で身につけた忌まわしい技能を、自身の魔法的才能と組み合わせて魔技へと昇華させる道を選んだ。

 それは、今も罪悪感に苛まれているエレミアにとって、とても苦しい道だっただろう。しかしエレミアは、弱音をこぼすこともなくそれを成し遂げてしまった。その一点だけでも、俺はエレミアのことを心から尊敬している。


 それにしても、


「エレミアお嬢様がいらっしゃると楽ができますねぇ」


 ステフが前髪の枝毛を気にしながらのほほんと言った。

 うん。というか、


「……ヒマだな」

「ですね~」


 出くわす魔物をエレミアがさくさく片付けていってしまうので、俺とステフの出番がない。索敵もエレミアに任せているから、俺とステフは完全にエレミアのお尻を追っかけているだけなのである。


「じゃあ、ガールズトークしませんか?」

「俺はガールじゃないぞ」

「まぁまぁ。わたしが聞きたいのは、エレミアお嬢様のことです」

「エレミアの?」

「――坊ちゃまは、エレミアお嬢様のことを、どう思ってらっしゃるんです?」


 ガシャン! と物音がした。

 見れば、エレミアが手にした短剣を取り落としている。

 俺とステフが10メートルくらい先にいるエレミアを見ると、


「あ、あれぇ……疲れてるのかな?」


 わざとらしくつぶやきながらエレミアが短剣を拾う。

 その視線は前を向いているが、こっちに聞き耳を立てているのがまるわかりだ。

 エレミアは感覚が鋭いから、戦いながらでもこれだけ離れた俺とステフの会話を拾うことができるのだろう。

 ……ていうかそもそも、エレミアも疲れないだろ。


 俺は冷や汗を浮かべながら考えて――


「こ……」

「子どもだからわからなんていうのはナシですよ? 転生者なんですよね?」

「う゛……」


 ステフに心を読まれた……だと?


「だ、だいたい、なんでいきなりそんなことを聞くんだよ?」

「だって、エレミアお嬢様も、もう数年も経てば結婚適齢期ですよ? 養女とはいえ貴族であるキュレベル家のご令嬢なのです。結婚の申し込みも当然出てくることでしょう。今、キュレベル侯爵家は王都中の注目の的ですし」


 それは……その通りだな。


「その気があるなら、ちゃんと捕まえておかないと、あとで後悔しますよ?」


 ステフの正論に、俺は言葉に詰まる。

 そこに、邪巨人(スプリガン)の群れを片付け終えたエレミアが戻ってきた。


「エドガー君は……ボ、ボクのことをどう思ってるの?」


 エレミアが、上目遣いに俺を見ながらそう聞いてくる。


「えーっと……手のかかる妹?」

「うっ……ボクがお姉さんのはずなのに……」


 誤魔化すようにそう返すと、エレミアが落ち込んだ。


「じゃあ、わたしはどうですか、エド坊ちゃま?」


 ステフは現在20歳。童顔は相変わらずだが、少し背が伸びて心持ちシャープな印象を与えるようになっている。〈魔法戦士〉としての訓練を積んでいるせいで、所作が洗練され、メイドとして働いている時でもどこか凛として見えるようになってきたから驚きだ。しゃべり方からもふわっとしたところが少しとれて、見ようによってはデキるメイドに見えなくもない。

 とはいえ、


「うーん……目の離せない妹みたいな感じ?」

「同じじゃないですか!」「同じじゃないか!」


 2人が揃ってつっこんでくる。

 〈魔法戦士〉としてもメイドとしても格段の成長を見せているのに、どこか危なっかしくて、放っておけない感じなんだよな。


「それに、目が離せない点では、坊ちゃまだって相当ですよ?」

「あー、たしかに! 戦闘能力じゃボクもステフさんも足元にも及ばないのに、エドガー君はどこか抜けてるんだよね。スキル上げに熱が入ると時間を忘れちゃうし」

「坊ちゃまはいかにも男の子って感じですよね」

「そうそう! なんていうか、放っておけない弟みたいな?」


 ステフとエレミアが人を肴にして盛り上がってくれる。

 ステフにはメイドだからって遠慮するなとここ数年言い続けてきたせいもあって、最近はすっかり歯に衣を着せない感じになっている。


「エレミアとステフって仲がいいよね」


 性格的には水と油な感じがするが、2人は不思議と気が合うようで、屋敷でもおしゃべりしているのをよく見かける。


「ですねー。坊ちゃまの世話役同士、話が合うみたいです」

「……エレミアは俺の世話役じゃないだろ」

「でも、パートナーとして動くことが多いから、ボクはエドガー君の世話役みたいなものじゃない?」

「いや、エレミアはエレミアで世話が焼けると思うけどな。すぐ無理するし、何でも我慢しようとするし」

「う、それは……で、でも、年齢から言っても、ボクはエドガー君のお姉ちゃんなんだよ?」

「そうですよー。エレミアお嬢様、エドガー坊ちゃまが『お姉ちゃん』って呼んでくれないって落ち込んでましたよ?」

「お、落ち込んでなんかないよ! そういうことさらっとバラさないでくれるかな!?」

「うふふ。メイドの目のあるところでぶつぶつ言ってるからいけないんですよ」

「うぅ~、でも、ステフさんってメイドの仕事してる時も気配消してることがあるし」

「エレミアお嬢様が本気で警戒すれば、わたしなんてすぐに見つかるじゃないですか。……ははぁ、ひょっとして、エドガー坊ちゃまに見つけてもらって優しく慰めてほしいんじゃ……」

「な、ななな……! そ、そんなことないし!」


 ステフにからかわれ、顔を真っ赤にするエレミア。

 かわいそうに、エレミアは俺たちの中ですっかりいじられキャラが確立してしまって、俺やジュリア母さんはおろかメイドであるステフからすらこうしていじられてしまっている。

 ……でもま、最初は俺たちに捨てられないようにと過剰に気を使ってるようなところがあった。それくらいなら今のほうがずっといい。前世の学校ではキャラを演じることに疲れ果ててしまうようなタイプの人もいた。が、無理のない範囲でなら、キャラがあるというのは周りから受け入れられている証拠でもある。ちなみに、俺が前世の学校や会社でキャラがあったかというと……いや、この話はやめておこう。人からあだ名を付けてもらったことがなく、いつまで経っても「加木君」だった過去なんてどうでもいい。


「それにしても、わたしたちって、坊ちゃまにとっては2人の妹なのに、わたしたちにとっての坊ちゃまは弟なんですね。お姉ちゃんはいないんですか?」

「お姉ちゃんってことなら、メルヴィがいるだろ。今日はいないけど」


 メルヴィは今日は妖精郷に出かけているためこっちにはついてきていない。

 というのは、剥落結界の解除作業をいよいよ再開することになったからだ。


 剥落結界解除作業機自体は、製作開始から1年ほどで十分に実用的な機械を作り出すことに成功していた。その過程で俺は〈機工術師〉というクラスを手に入れ、これによって機械工作の精度が格段に向上した。その上、〈機工術師〉の効果で、目にしたことのある機械の作動原理をなんとなく理解できるようになっており、前世で目にしたあれこれの機械の仕組みを組み合わせて、かなり安定して動作する機械を組み上げることができた。


 だから、本来であれば、剥落結界はとっくに解除できていなければおかしいことになる。

 ではなぜ、いまだに剥落結界が解除されていないのかというと――ジュリア母さんの反対に遭ったからだ。


「伝説上の存在である始祖エルフを封じてしまった結界なんだよ? 術者が何か細工をしていて、結界が解除されたら術者に連絡が行くとか、強力な魔物が召喚されるとか、その場ですごい爆発が起こるとか……とにかく、何かが起こる可能性があると思う。

 だから、エドガー君が大きくなって、そういう事態に対処できる自信が持ててから解除してほしいの」


 母さんの言い分はもっともだった。

 結局、キュレベル家でメルヴィを交えた家族会議を行い、剥落結界の解除作業に取り掛かるのは俺が6歳になってからということになった。

 そして、今日こそが俺の6歳の誕生日である。メルヴィは昨日からそわそわと落ち着かない様子で見ていられなかったので、今日ここに来る前にゲートで妖精郷に飛んで、解除作業機を起動してきた。起動すれば、後は作業機が一定の間隔で次元ノミを結界に叩きつけていくだけなのだが、メルヴィはしばらく見ていたいと言って妖精郷に残っていた。

 作業機が動き出した以上、結界の解除はもはや時間の問題だ。妖精郷の外の時間で3週間もあれば、剥落結界を削り切ることができるだろう。

 とはいえ、母さんの気にしていた警報装置の問題があるので、剥落結界は残り1メートルを切った所でいったん作業を中断することになっている。解除作業機には、結界が回復しないギリギリのペースで現状を維持するためのモードがつけてあるから、放っておいても結界が回復してしまうおそれはない。

 そして、戦力を整え、不測の事態にできる限り備えた上で、剥落結界を完全に解除する、という手はずになっている。


「メルヴィにとっては千年越しの悲願だからな。今はそっとしておいてやりたい。ずっとがんばってきたメルヴィに、俺なんかがかけてやれる言葉なんてないと思うし」

「ですねぇ」


 とステフが頷く。


「……それにしても、エドガー君とメルヴィちゃんは、お互いのことをすごくよく理解しあってる気がするよ」

「そうかな……メルヴィには嘘がつけないからね」

「嘘がつけない相手からそれだけ信頼されてるってのはすごいことだと思う。ボクなんかは……きっと無理だよ」

「エレミアも嘘をつく方じゃないと思うけどな」

「嘘をつくかどうかじゃなくて、疑われたらどうしようって思っちゃうっていうか、すべてお見通しみたいで怖いことがあるよ……あっ、べつにメルヴィちゃんが嫌いとかじゃないよ?」

「エレミアは気を使う方だからな。メルヴィは、あれで人生?経験豊富みたいだから、慣れちゃえばすごく気楽だよ。こっちの汚いところを、うまく見て見ぬふりをしてくれるというか」


 メルヴィは、嘘を見破れるくせに潔癖なところがなく、清濁併せ呑むことができる器の大きな妖精なのだ。


「でも、嘘をつくとバレちゃいますよ? わたし、以前にお屋敷の壺を割ってしまったことがあったんですけど、メルヴィさん、『悪いこと言わないから素直に謝っちゃいなさい』って……」

「いや、それは謝れよ」


 嘘を見通すメルヴィだが、そんな風に相手のメンツや立場を考えてそれとなく気を回してくれるので、お屋敷の使用人たちからも受けがいい。使用人たちの中にはメルヴィを「お姉ちゃん」とか「姉御」とか呼んでいる者もいるくらいだ。最近では、【妖精の歌】や【催眠術】を使ったカウンセリングのようなこともやっていて、おかげさまでうちのお屋敷の離職率は他の貴族のお屋敷に比べて極端に低いという。

 その上、屋敷の主人であるアルフレッド父さんとジュリア母さんも(基本的には)温厚な人物だ。そのせいもあって、キュレベル邸の使用人は王都で最も人気の高い求人となっているらしく、優秀な使用人が選びたい放題になっていた。俺の秘密のこともあって、口の堅い人物を厳選する必要がある我が家にとっては、大助かりな状況だ。しかも、メルヴィは相手の嘘がわかるため、機密保持という面でもものすごく頼りになる。ついでに、メルヴィを見ることができない「悪い人」を弾くこともできるので、能力のみならず人柄の面でもキュレベル家使用人のレベルは高い。


「チート妖精なんだよなぁ」


 思わずそうつぶやくと、


「前々から思ってたんですけど、チートってなんですか、エド坊ちゃま」

「ああ、ズルいくらいすごいっていう意味だよ。もともとはズルいって感じだけど、俺はすげーなくらいの感じで使ってた」


 そう答えると、ステフとエレミアが微妙な顔になった。


「あの……坊ちゃま。それはどう考えても坊ちゃまのことではないですか?」

「だよね……エドガー君こそ、『チート』の最たるものでしょ」


 うん、まあ、そうだよな。

 今の俺のステータスをちょっと見てみようか。


 エドガー・キュレベル(キュレベル侯爵家四男・サンタマナ王国貴族・《赫ん坊ベイビー・スカーレット》・《底無しのオロチ》・《交渉者(ネゴシエーター)》・《竜を退けし者(ドラゴンバスター)》・《妖精の友》・《精霊魔術師》・《阿弥陀様の遣い》・《導師(グル)》・《びっくり箱野郎》・《悲劇の英雄》)

 6歳


 レベル 59(↑19)

 HP 213/213(153+60、↑59)

 MP 32699/32699(32439+230、↑26698)


 クラス

 〈錬金術師〉B(NEW!)

 〈機工術師〉C(NEW!)

 〈シューター〉B(NEW!)

 〈サイキック〉C(NEW!)

 〈エレメンタルマスター〉C(NEW!)

 〈仙術師〉C(NEW!)


 スキル

 ・神話級

 【不易不労】- 

 【スキル魔法】-

 【真理の魔眼】1(NEW!)


 ・伝説級

 【電磁魔法+2】7(NEW!)

 【付与魔法】7(NEW!)

 【次元魔法+1】6(NEW!)

 【幻影魔法】3(NEW!)

 【極火魔法】2(NEW!)

 【魔槍術】2(NEW!)

 【闘槍術】2(NEW!) 

 【データベース】-


 ・達人級

 【槍術+1】9(MAX、NEW!)

 【鋼糸術+1】7(↑2)

 【格闘術+1】4(NEW!) 

 【治癒魔法】3(NEW!)


 ・汎用

 【指揮】7(↑5)

 【祈祷】6(↑5)


 《善神の加護+1(アトラゼネク)》

 《善神の加護(カヌマーン)》


 ……うん。いろいろつっこみどころがあると思うが、まずはわかりやすいところから説明しよう。

 長らくお世話になった【インスタント通訳】は満3歳を迎えると同時に消滅した。そのため、俺は現在マルクェクト共通語を使って周囲とコミュニケーションを取っている。前世では英語が得意だった……などということはないのだが、赤ん坊の柔軟な脳みそと【不易不労】のおかげで言語の習得はかなりスムーズに行った。


 さて、スキルがクラスに統合されたおかげで全体的にすっきりしたと思うが、人様に見せられないステータスであることに変わりはない。

 何よりヤバいのは、6つも見つけてしまったクラスだろう。

 ヘルプ情報によれば、


〈錬金術師〉(魔力を使って万物を加工することができる。また、目にしたものの組成を直感的に把握することができる。クラスランクの上昇に伴い、加工技術や直感把握に補正がかかる。ランクが上昇するごとにMPに+20のアッドがつく。)

〈機工術師〉(機械製作のプロフェッショナル。あらゆる機械の製作に補正がかかる。また、目にした機械の機構や作動原理を直感的に把握することができる。クラスランクの上昇に伴い、製作技術や直感把握に補正がかかる。)

〈シューター〉(投擲・射撃のプロフェッショナル。弾道を描くすべての投擲物・発射物の扱いに補正がかかる。補正はクラスランクの上昇に応じて大きくなる。)

〈サイキック〉(超能力を用いて、知り得ないことを知覚し、起こりえない現象を起こすことができる。クラスランクが上昇するごとにMPに+20のアッドがつく。)

〈精霊魔術師〉(精霊や属性魔力を自在に操作し、望む現象を引き起こすことができる。クラスランクの上昇に応じて扱える精霊や属性魔力の量が増大する。クラスランクが上昇するごとにMPに+30のアッドがつく。)

〈仙術師〉(『気』と呼ばれる生命エネルギーを自在に操作することで、身体強化、運動能力向上、気配の察知・遮断などさまざまな支援効果を得ることができる。クラスランクの上昇に応じて扱える『気』の量が増大する。クラスランクが上昇するごとにHPに+20のアッドがつく。)


 ……というような感じになっている。

 それぞれ、その系統のスキルをあれこれと組み合わせて合成したりスキルレベルを上げたりしていたら、いつの間にか合成可能な条件を満たしてしまっていた。

 どれも便利極まりないクラスだが、ひとつひとつ説明しだすとキリがないので、出番があった時に説明しよう。

 えんえんと増える一方だったスキルがかなり整理できたと思うが、【不易不労】で新しいスキルを追求することは今後も続けていこうと思うので、ちょっと経ったらまたごちゃごちゃしてくるだろう。エレミアのすっきりとしたステータスが羨ましい。いや、すっきりということならステフがいちばんか。なんてったって、〈魔法戦士〉一本槍なのだから。


 ともあれ、俺のステータスはこんな感じで、あいかわらず他人に見られないように注意しなければならない状況が続いていた。


「でも、ステフの〈魔法戦士〉だって相当だぜ? 本来なら勇者が使ってるような技能だし」


 適性の関係か、俺はいまだに〈魔法戦士〉の合成可能条件を満たせていない。

 エレミアが獲得している〈アサシン〉や〈黒魔術師〉といったスキルについても条件を満たせていないので、クラスはスキル以上に人を選ぶのかもしれない。


「それもこれも、坊ちゃまの【スキル魔法】のおかげですけどね」

「エレミアの【疲労転移】だってすごいだろ?」

「たしかに他の人が持ってるのを見たことがないけど、エドガー君の【不易不労】と比べると見劣りするような」

「そんなことはないだろ。エレミアの場合は戦っている相手に疲労を転移できる。【不易不労】じゃそれはできない」

「でも、転移する相手がいない時は普通に疲れるし。味方にまで転移しちゃってたのは、少しはコントロールできるようになったけど」


【疲労転移】の使い方をあれこれと模索した結果、エレミアは疲労の転移先を絞ることができるようになった。たとえば、俺が一緒にいる時なら、俺だけに疲労の転移を集中させることができる。こっちは【不易不労】のおかげで疲れないため、こうすることで実質的にエレミアの疲労を消去できるわけだ。が、誰にも転移させないということはできないので、俺以外の誰かと一緒にいる時は、その誰かに疲労が転移してしまう。要するに、相変わらず俺とセットで運用しなければ他のメンバーに迷惑がかかってしまうスキルだということだ。

 今も、俺に疲労を転移することでエレミアは疲労せず、また俺に疲労を集中しているおかげで同行しているステフに疲労が転移しないという状況を作り出している。


「エドガー君はステフさんの方を頼りにしてるような気がする」

「えっ……そうかな?」


 どちらかというと危なっかしいと思ってるはずだけど。

 でもたしかに、エレミアは頼りすぎると期待に応えようとして潰れてしまいそうってのはある。頼りにしているというより、辛くなったらぶーたれてくれるステフの方が、安心してこき使えるという感じだ。


「ふふ~、もっと頼りにしてくれてもいいんですよ、エド坊ちゃま?」


 ステフが身体を寄せながらそう言って笑う。

 ……歳とともにさらなる成長を遂げたステフの胸の先が、俺の肩にふにょんと当たる。

 うん、ヤバい。これでまだ成長しているというのだから恐ろしい話だ。


「……まあ、前衛としては頼りにしてるよ」


 俺は6歳だし、エレミアもまだ12歳だ。前衛はやはりステフに任せることになる。

 といっても、相手の攻撃を受け止めて味方の攻撃を待つようなことはほとんどない。ステフ自身が高火力のため、ステフが魔法剣で切り込んで、敵が混乱したところを俺とエレミアで仕留めていくというスタイルになる。だから、前衛と言ってもいわゆる盾役的な危険とは無縁だ。

 でなければ、さすがに女の子を盾にするような真似はしなかっただろう。

 もっとも、ステフからすれば、お付きをしている見た目8、9歳の坊ちゃまを盾にするなんてとんでもないということになるだろうが。


 そんな話をしながら、俺たち3人は洞窟を進んでいく。

 途中何度となく戦闘があり、その大半はエレミアが片付けたが、何回かは俺とステフも戦った。


「……だけど、本当にどういうことだ?」


 俺は使い終えた槍を次元収納にしまいながらつぶやいた。

 ここまでに、鎧亀(よろいがめ)が既に3匹も現れている。皇帝スライムや邪巨人(スプリガン)の群れとも遭遇した。

 地味に面倒だったのは地獄狼(ヘルハウンド)の群れとケイブバットの群れが同時に襲いかかって来た時だ。ステフの魔法剣は魔物に合わせて属性を切り替えてこそ真価を発揮するし、エレミアの〈アサシネイト〉は一度に一種類の魔物にしか対応できない。

 だから、いろんな種類の魔物が一度に湧くというのは、この2人にとっては結構面倒な状況なのだ。結局、俺が次元収納から槍を取り出して、父さんが〈氷槍結閃晶〉と名づけた魔技を使って、魔物を群れごと凍らせた。

 わりと身も蓋もない攻撃なので訓練にはならないが、今は父さん母さんチームと先を争ってる状況だ。俺はゲームとなると自重せずに死力を尽くす主義だからな。


「本当に違う種類の魔物が一緒になって襲いかかってくるんだね」


 エレミアが言う。

 そう。普通なら、一度に相手する魔物は一種類の場合がほとんどだ。魔物が混在している場合でも、種族間の連携なんてあるはずもなく、それぞれが勝手に襲いかかってくるだけだった。また、だからこそ冒険者のパーティは、自分たちより強いはずの魔物を狩ることができる。


「実際、ボクたちだからなんとかなってるけどさ。普通の冒険者だったら、とっくに全滅してるか、入口にもたどり着けずに撤退してるところだよ」

「ですね~。古代火竜の廃巣窟の深層でも、こんなにたくさんの魔物がいたことはないですよ。ここがダンジョンなら、間違いなくSランク指定されて一般の冒険者の立ち入りが禁止されるレベルですね」

「魔物自体はCからBランクが中心だけど、連携してくるってだけで相当危険度が上がってるよな」


 この魔物の群れは、Aランク冒険者のパーティでも裸足で逃げ出すような陣容だ。

 大丈夫だとは思うが、途中で分かれた父さんと母さんが少し心配になってくるな。


「――念のため、先を急ごう。父さんと母さんでも対応できないような魔物がいるおそれもある」


 そう考えると、二手に分かれたのは早計だったか?

 まあ、外で航空戦力を引きつけている竜騎士団のことも気がかりだから、時間節約のために二手に分かれたのは間違った判断ではなかったと思うが……。


 俺たちは気を引き締め直して、洞窟の奥へと進んでいった。

剥落結界はどうなったの? と気をもんでおられた方もいらっしゃると思うのですが、今回ようやく説明できました。

次話は一週間後(7/20)を目処に掲載する予定です。


昨日活動報告の方で書籍版第1巻の書影を公開致しましたので、まだの方はぜひ覗いてみてください。


追記151204:

エレミア・ロッテルート→エレミア・ロッテルート・キュレベル に修正致しました。

書籍版、現時点で2巻まで発売となっています。どうぞよろしくお願い致します。


追記151210:

〈精霊魔術師〉→〈エレメンタルマスター〉に修正しました。

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