68 エドバイス・2
「次はジュリア母さんだけど、父さんはどうする?」
「僕は会場に戻るよ。ホスト側の夫婦が2人ともいないのはちょっとね」
そう言って父さんが会場に戻り、ジュリア母さんを呼んでくれる。
「うふふ。どんなアドバイスがもらえるのか、楽しみだねぇ」
そんなことを言いながらやってきた母さんに、断りを入れてから【鑑定】をかける。
《
ジュリア・キュレベル(キュレベル子爵夫人・冒険者(Aランク)・《炎獄の魔女》・《
21歳
レベル 52(↑1)
HP 91/91(↑2)
MP 366/366(↑96)
スキル
・達人級
【火精魔法】8(↑2)
【魔力制御】5(↑1)
【無文字発動】1(NEW!)
【気配察知】1(NEW!)
・汎用
【火魔法】9(MAX)
【魔力感知】7(↑1)
【魔力操作】6(↑1)
【同時発動】6(↑2)
【風魔法】5(↑2)
【光魔法】4(↑1)
【水魔法】3
【念動魔法】3
【地魔法】2
【短剣技】2(NEW!)
【夜目】2(NEW!)
【遠目】2(NEW!)
《火精の加護+1》(火の精霊の加護を得られる。火属性魔法の効果・範囲に補正、火属性魔法スキルの習得・成長速度上昇、火属性魔法の発動速度小向上。)
》
……なんか、だいぶ強くなってない?
「えっと……レベルが上がった?」
「うん、ワイバーンを狩ってたら自然に」
二つ名に《ワイバーンスレイヤー》がつくくらいだからな。
そりゃ、レベルも上がるか。
「冒険者から『元』がとれたのは……」
「エドガーくんを探すために現役復帰したからだねぇ」
「最大MPも上がってるね」
「エドガーくん秘伝のMP拡張法を毎晩やってるからだよぉ」
例の、魔法系二つ名の持ち主はMPを使い切ることで最大MPが1上がる、という裏技のことだ。
「【無文字発動】、覚えたんだ」
「エドガーくんがやってたのを真似したらできちゃった」
俺は汎用スキル【同時発動】のカンストボーナスで覚えたはずだが、母さんはどうもダイレクトに覚えてしまったらしい。
「【気配察知】まであるし」
「〈
必死だったからねぇ」
あれは【聞き耳】のカンストボーナスだったかな。
エレミアが【聞き耳】をカンストさせずに【気配察知】を覚えていたが、まさか母さんにもできるとは。
本人の言うように、それだけ必死で探してくれていたんだろう。
ていうか、ジュリア母さんには【無文字発動】と【気配察知】を勧めようと思ってたんだけど、まさかもう覚えてるとは思わなかった。
「母さんの適性は? いや、火属性がすごいのは知ってるけど」
「火はもちろんだけど、光も適性が高いらしいんだよねぇ。
その代わり、闇は全然。
どちらかというと、【光魔法】より【闇魔法】の方が使い道が多いんだけどなぁ」
なんでも、【光魔法】は灯りを生むくらいにしか使われていないらしい。
パーティ内に1人、スキルの持ち主がいれば、いないよりは便利かな、という程度の扱いを受けているという。
対して【闇魔法】は、以前火竜の巣でエレミアがやっていたように、闇を纏って姿を隠す、という使い方ができる他、追ってくる魔物を撒くための煙幕としても使われるとのことだ。
水、風に続いて光まで不遇とは……この分では【地魔法】ですら「穴を掘るだけの魔法」とでも思われていそうだ。
魔法以外についても母さんからヒアリングを行った結果、母さんの適性は以下のような感じになっていることがわかった。
S:火、光、魔法技術、魔法感覚
A:風、近接戦闘(短剣、格闘など)
B:地、弓、知覚
C:水、偵察、剣、槍
Z:闇
……うん、ジュリア母さんが天才と呼ばれる理由がよくわかった。
「母さん、近接戦闘もできるの?」
「できないよぉ? 適性はあるらしいけど、魔法を教えてもらったお師匠さまが、浮気せずに専心しろって言ってたから」
「最近習得した【短剣技】は?」
「今回、〈
付け焼き刃だから使うつもりはなかったけど、場合によっては必要かなと思って」
……ジュリア母さんには本当に苦労をかけてしまったらしい。
「棍とか爪とかも向いてるらしいんだけど、マイナーすぎて教えられる人が少ないねぇ」
棍を振り回したり、爪で引っ掻いたりしている母さんを想像したが……ハマってるのか、これ?
「剣とか槍とか、扱いの繊細な武器は苦手みたいだねぇ。
知覚系はできなくもないけど、自分自身の気配を殺したりするのはあんまり。
モリアに言われて【忍び足】を取ろうとしたことがあったんだけど、結局覚えられなかったなぁ」
「……要するに、コソコソするのは苦手で、正面切ってデカい魔法を撃ち込むか、単純な近接武器で殴り合うかの二択なのか」
ジュリア母さん脳筋説がにわかに浮上してきたぞ。
「それで、アドバイスはぁ?」
そうだった。
「ええっと、【無文字発動】と【気配察知】はもう覚えたみたいだからいいとして。
せっかく適性があるなら【光魔法】を使いたいね」
「えぇ~。でも、【光魔法】は『明かり魔法』ってバカにされてるくらいだし……」
「まあ、ちょっと見ててよ。
たとえば、これかな?
俺はガゼイン戦で使った、光を屈折させる魔法を使ってみせる。
「わっ、エドガーくんがブレた!」
母さんが、俺の一歩分隣の空中を見ながら目を丸くした。
光の屈折によってその位置に俺の像が見えているはずだ。
「人間の目は、光を使って周囲の情報を得ているから、光を屈折させればこういうことができるんだ。原理としては蜃気楼と同じだよ。
母さんは偵察系のスキルが苦手だって言ってたけど、これならできるでしょ?」
「なるほどぉ。【光魔法】にこんな使い道があったなんて」
「攻撃魔法も、工夫次第でできると思うよ。
俺は、ポケットから取り出した布片――クラッカーの布吹雪のひとつに、収束させた光を当てて穴を開ける。
加減を間違えて「あちっ」と手を振ることになったのはご愛嬌。
「わわっ、これはどうやったの?」
「光を集めて高熱を発生させたんだ。太陽光をレンズで集めても同じことができるよ」
「……れんずって何?」
あれ、この世界にはレンズはなかったのか。
ということは、ルーペや眼鏡もない?
俺はこの情報を心のメモ帳に記録する。
「光は集まると熱になるから、【火魔法】との相性もいいと思う。
実際、火竜のフレイムブレスを見たんだけど、火の精霊だけじゃなく、光の精霊も騒いでたみたいだから、あれは火と光の複合魔法みたいなものなんじゃないかな。
だから火と光に高い適性がある母さんなら、ふたつを組み合わせて光熱波みたいな魔法が作れるんじゃないかと思う。
というか、俺と一緒に開発しない?」
「うんっ! 面白そう!」
ジュリア母さんが満面の笑みを浮かべてそうはしゃぐ。
「後は、父さんと一緒に【精霊魔法】の習得にもチャレンジしてもらいたいのと、父さんの槍の攻撃力を上げるために【付加魔法】を覚えてもらいたいことかな?」
「【精霊魔法】に【付加魔法】!
どっちもすごく珍しいスキルだねぇ」
「【精霊魔法】は修行が大変だけど、【付加魔法】はなんとかなると思う。
コツは俺がつかんでるし、最近覚えた【魔導】ってスキルで母さんの魔力を操作して手順を教えられるから、母さんならすぐに覚えられると思うよ」
ゆくゆくは、メルヴィと開発予定の魔力障壁(仮)も覚えてもらいたいが、まだ開発の目処すら立ってない。
「楽しみだねぇ~」
幸せそうに微笑む母さんに頼んで、次はチェスター兄さんを呼んでもらうことにする。
◇◆◇◆◇◆◇◆
「やあ、エドガー。よろしく頼むよ」
そう言って現れたチェスター兄さんに断り、【鑑定】させてもらう。
《
チェスター・キュレベル(キュレベル子爵家次男・冒険者(Bランク)・《二の矢いらず》・《ハーピーキラー》)
17歳
エルフ
レベル 34
HP 72/72
MP 169/169
スキル
・伝説級
【視覚強化】3
・達人級
【弓術】5
【気配察知】2
・汎用
【弓技】7
【遠目】7
【風魔法】5
【水魔法】4
【忍び足】4
【道具作成】4
【弩技】3
【地魔法】3
【短剣技】3
【魔力感知】3
【槍技】2
【火魔法】2
【光魔法】2
【夜目】2
【魔力操作】1
》
チェスター兄さんのステータスは、前回塒の外で【鑑定】した時と変わっていないようだ。
「兄さんの適性は?」
「適性かい? 弓は言うまでもないけど、種族がエルフだから、魔法感覚や知覚系の適性は高いらしいよ」
いろいろ聞いてみると、次のような感じになるらしい。
S:弓、精霊、知覚、魔法感覚
A:風、偵察、水、魔法技術、投擲
B:地、光
C:火、槍、剣、近接戦闘
Z:闇
エルフというだけで、ずいぶんと恵まれているような気がする。
いや、【火魔法】以外は攻撃魔法に数えられない現状、接近戦が今ひとつな分、攻撃力不足と言われる可能性もあるな。
魔法について、父さん、母さん同様、火以外の属性でも攻撃魔法が開発できそうという話を繰り返すと、
「それは朗報だよ。これまで【風魔法】は弓の補助くらいにしか使ってなかったからね」
チェスター兄さんはそう言って白い歯を見せた。
エルフの面目躍如のイケメンぶりにたじろぎつつ、気になったことを聞いてみる。
「弓っていうのは、弩を含むの?
スキルでは別々みたいだけど」
「ああ、僕の場合は含んでいるよ。というより、投擲も含めて、射撃という括りにした方が正確かもしれない」
「……ということは、銃も使えそうだね」
「銃、というのは見たことがないけど、たしか、古代遺物にある射撃武器だよね?
射撃ということなら、使えるんじゃないかな」
「兄さんは目もいいみたいだし、偵察系スキルも覚えられそうだから、スナイパー向きかも?」
「スナイパー……?」
「狙撃手、かな。相手から発見できない離れた地点から、銃を使って狙い撃つ者のことを、元の世界ではそう呼んでいたんだ」
「……エドガーの元いた世界というのは、ずいぶん物騒な世界だったんだね」
「銃は、なんとか作ってみようと思ってるところだから、出来たら兄さんにもあげるよ。
まあ、問題は銃自体よりも、弾薬を安定して供給できるかどうかかもしれないけど……」
「よくわからないけど、古代遺物の銃も、何か大事な部品が年月とともに劣化してしまうらしくて、ただの複雑なガラクタ扱いされてると聞いたことがあるよ」
「硫黄と硝石と木炭だったかな……? 俺も詳しくないから、いろいろ実験して確かめるしかないね。
……あ、そうだ。投擲が得意なら、これをあげるよ」
そう言って俺は、腰に吊るした専用の革ポーチから剥落結界の砕片を取り出し、兄さんに手渡す。
「……これは?」
「どういうものかはよくわからないんだけど、とにかくすごい切れ味なんだ。
いざという時の投擲用武器に便利だよ。対応スキルは【手裏剣技】だから、暇があったらそれを投げて習得を目指してみるといいかもしれない。せっかく投擲の適性もあるわけだし」
「助かるよ。敵に近づかれると打つ手がないことがあるからね」
「偵察系スキルに適性があるなら、【忍び足】や、ゆくゆくは【隠密術】が覚えられたら便利だよね」
「たしかに。これまではパーティで行動してたから、あまり必要がなかったんだ。
そもそも弓使いはあまり単独行動をしないからね」
「そうなの?」
「だって、盾となってくれる人がいなかったら、すぐに近づかれてしまうだろう?
弓だけで仕留められない魔物はいくらでもいる」
そう言われればそうだ。
「やっぱり、弓の火力を上げたいね」
「それができればありがたいけど、そんなことできるの?
強い弓を使うとかは、体力の関係で厳しいよ?」
「【付加魔法】を矢に載せればいいんじゃないかな。
コツは今度教えるよ」
チェスター兄さんにも【魔導】の説明をして、後日【付加魔法】を教える約束をする。
「あとは、父さん、母さんと一緒に、【精霊魔法】の習得を目指してもらいたいかな。
エルフなら二人よりも早く習得できるかもしれない。
今度、【精霊魔法】の習得会を開くから、後で予定を調整してくれる?」
「【精霊魔法】か。エルフの秘伝だね。まさかエドが使えるとは思わなかったよ」
その他、【光魔法】の《ミラージュ》を見せて火以外の属性の可能性を力説してから、チェスター兄さんとの面談を終えた。
次話、金曜(4/17 6:00)掲載予定です。