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67 キュレベル家戦力増強作戦会議改めエドバイス・1

「――キュレベル家」

「戦力増強……」

「作戦会議ぃ?」


 チェスター兄さん、アルフレッド父さん、ジュリア母さんが首を傾げながら繰り返した。


「うん。今回、俺は〈八咫烏(ヤタガラス)〉に逆らわずに攫われることで、なんとか全員無事に済むことになったけど、これははっきり言って運が良かっただけだ。

 今後このようなことをなくすためにも、俺だけじゃなくて全体の底上げが必要だと思う」


「それはそうだけど……そんなにすぐに強くはなれないだろう?」


 とアルフレッド父さん。


「そうでもないと思うよ?

 強く、というと語弊があるけど、いくつか死角を補うようなスキルを習得できればかなり違ってくると思う。

 ――父さん、俺は今、いくつくらいスキルを持ってると思う?」


「ソロー司祭に見てもらった時には、たしか26個じゃなかったかい?

 それでも十分多いけど、〈八咫烏(ヤタガラス)〉でも習得したはずだから……30くらいかな?」


「さ、30だって!?」


 モリアさんが驚きの声を上げた。

 ハフマンさんも無言のまま目を見開いている。


「いや、驚くのはまだ早いですよ。

 いつの時点で、どう数えるかにもよるけど、一般的な数え方をするなら71個ありますから」


「なっ……!」


 絶句するモリアさん。

 居合わせた他のメンツ――ジュリア母さん、チェスター兄さん、エレミア、ドンナ、ミゲル、ベック、ガナシュ爺も目を丸くしているようだ。

 驚いてないのはメルヴィくらいだな。


「そんなわけで、俺の持ってるスキルについてなら、習得のコツがアドバイスできると思うんだ」


「71個か……一流の冒険者や騎士でも、20を超えるものは限られるというのに、エドはこの一年――いや、この半年でその3倍以上のスキルを習得してしまったわけだ」


 アルフレッド父さんが呆れたように言う。


「たしかにそれだけスキルがあるんだったら、僕たちに必要そうなスキルをアドバイスすることもできるだろうね。

 うん、ありがたい提案だよ、エド」


「じゃあ早速――」


 父さんの承認を得て、俺は早速会議を始めようと思ったのだが、


「ち、ちょっと待った!

 あたしらはキュレベル家の人間じゃない。

 信用してくれるのはありがたいが、スキルのことは家族以外にうかうか話すもんじゃないよ!」


 モリアさんがそう言って待ったをかける。


「……俺は、モリアさんたちやエレミアたちにも強くなってもらいたいんですが……」


「そりゃ、魅力的な提案だけど、まずは家族を優先することだね。

 その上で、あたしらの相談にも乗ってくれるってんなら、それぞれがあんたとサシで話をするべきだ」


 モリアさんの言うことは正論のような気がする。


「うーん……じゃあ、どうしましょう?」


「それなら、こことは別に部屋を用意するから、1人ずつ順番にパーティを抜け出してもらって、エドが面談するといいよ。

 ……まあ、エドの誕生日会なのにエドがここにいないのはちょっとどうかとは思うけど」


「それしかないか……」


 というわけで、キュレベル家戦力増強作戦会議は中止になり、急遽俺が個別面談をすることになった。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 面談場所は屋敷の応接室を使うことになった。

 面談一人目はアルフレッド父さんだ。


「【鑑定】していい?」


 と一応断ってから父さんを【鑑定】する。


 アルフレッド・キュレベル(子爵・サンタマナ王国第三方面軍司令官・《城落とし》・《名将》)

 39歳

 ハーフエルフ


 レベル 40

  HP 94/94

  MP 81/81


 スキル

  ・達人級 

   【統率】7(↑1)

   【槍術】5


  ・汎用

   【指揮】9(MAX)

   【槍技】9(MAX)

   【乗馬技】7(↑1)

   【剣技】5

   【風魔法】4

   【地魔法】4

   【弓技】3

   【格闘技】3

   【水魔法】3

   【短剣技】1


 《軍神の注目》


 以前【鑑定】した時とレベルは変わらないが、【統率】と【乗馬技】のスキルレベルが上がっている。


「父さんは、戦闘で何か困っていることとかない?」


「困っていることか……そうだな、弓が苦手で、魔法のスキルレベルも低いから、遠距離の敵に対する攻撃手段が弱いことかな」


「弓は適性があまりないって言ってたけど、魔法は?」


「ああ、水と風を中心に、それなりに高い適性があるよ。

 火属性だけは適性がまったくなくて使えないんだけど。

 せっかく魔法に適性があっても、【火魔法】がダメなんじゃ魔法使いにはなれないから、早くから槍一本に絞ってきたんだ」


「え? 水と風が高いのに、魔法使いになれないの?」


「おや、知らなかったかい?

 軍でも冒険者でも、最も需要があるのは【火魔法】なんだ。攻撃魔法として強力だからね。なにせ、人は火に炙られただけでも火傷を負い、戦闘力を失ってしまうから」


「水や風の攻撃魔法はないの?」


「水をいくらぶつけたってダメージなんかないだろ?

 風は、スキルレベルが高ければ相手を吹き飛ばしたり動きを止めたりできるし、矢に向かってかけることで飛距離を伸ばすようなこともできるから、戦闘支援には使えるけど、攻撃魔法とは呼べないね。

 もちろん、魔法で水を生み出せるのは軍人や冒険者にとっては有益だし、毒霧を吐いてくるような魔物との戦闘では【風魔法】は必須だけど、それだけならスキルレベルが2から3もあれば十分だ」


 ううん……水でパッと思いつくのは、高圧をかけて射出する方法だが、【水魔法】それ自体は圧力をかけるための魔法じゃないから、他の魔法文字と組み合わせる必要があるだろう。必然的に二文字発動以上になるから、敷居が高い。

 いや、そもそもこの世界の人々は「圧力」という概念自体を知らないだろう。

 結果、【水魔法】は「飲み水魔法」と化してしまう、というわけだ。


 一方、【風魔法】といえば、思いつくのはかまいたちだが、かまいたちが真空の刃であるというのは俗説らしいと聞いたことがある。

 風で砂利を巻き上げて攻撃する? 地味に有効かもしれないが、攻撃魔法というよりは相手の動きを妨害するための魔法という感じだ。


 そう考えると、一文字発動でもダメージを与えられる【火魔法】は攻撃魔法としては取っ付きやすくしかも優秀だ。

 以前、父さんが退けた〈八咫烏(ヤタガラス)〉の御使いたちも、攻撃には【火魔法】を使っていたな。

 というより、この世界で意識を取り戻してから半年、よく考えてみれば火属性以外の攻撃魔法を見たことがない。


「でも、俺の前世知識を元に試行錯誤したら、何かいい手が浮かぶかも」


「それなら、期待してみようかな?

 エドは使い道がほとんどないと言われてた【念動魔法】で〈黒狼の牙〉の団長とやりあっていたからね」


「……本当はひとつだけ、水と風でできることが思いついてるんだけど、これをやるには最低限【風魔法】だけでも達人級まで持っていかないと難しそうなんだ」


「達人級まで、か。

 言っとくけど、達人級の魔法が使える魔法使いなんて、宮廷魔術師かトップクラスの冒険者くらいなんだからね?」


 父さんが呆れたように言う。


「でも、俺がもうコツをつかんでるから。

 ついでに、最近手に入れた【魔導】っていうスキルをうまく使えば、相手の体内の魔力の動きにも干渉できそうなんだ。

 このスキルを使って、父さんに直接、魔法の扱いを教えてあげることができるから、あとは時間と練習量の問題だと思うよ。

 ――ちょっと手を貸して」


 父さんが差し出してきた手に、俺の手を重ねる。


「【水魔法】――じゃ水浸しになるから、【風魔法】を使ってみて」


「あ、ああ……λ(ウィンド)


 父さんが俺に差し出してない方の手を使って魔法文字を描き、λ(ウィンド)を発動する。

 母さんほどではないが、手慣れた発動だった。


 そのλ(ウィンド)の魔力の動きに干渉して、俺はλ(ウィンド)を小さなつむじ風に変えた。

 それも、外に出た魔力に干渉するのではなく、父さんの体内を巡る魔力を直接いじった。

 いわば、父さんに魔法を「使わせた」感じだ。

 つむじ風は俺と父さんの重なった手の上でくるくると回ってからふっと掻き消えた。


「……ね?」


「こ、こりゃすごい!

 しかも、今のでどうやら長年つかめなかった感覚がつかめたみたいだ!

 ――λ(ウィンド)


 父さんが、今度は単独で魔法を使う。

 さっきと同じ、つむじ風が父さんの手のひらの上に現れて踊った。


 まさか、と思って父さんを【鑑定】してみる。


《アルフレッド・キュレベル。【風魔法】5(↑1)。》


 うん、一発でスキルレベルが上がってるね。


「父さん、スキルレベルが上がってるよ」


「本当か! ここ最近は練習しても全然上がらないから、ここまでが限界だとばかり思ってたんだが……」


「女神様に聞いた感じだと、地道な練習だけじゃダメで、時には訓練方法を変えたりして何かを『つかむ』ことが大事みたいだよ」


「ううん……なるほどね。

 これは大変なことを聞いてしまった……」


「とにかく、父さんには【槍術】はもちろんだけど、【水魔法】と【風魔法】を鍛えてほしいんだ。できれば、達人級の【水精魔法】や【風精魔法】を覚えられるところまで」


「エドが手伝ってくれるなら、できるかもしれないね」


「それだけじゃなくて、父さんはエルフの血を引いてるんだから、きっと【精霊魔法】も習得できると思うんだ。

 【適性診断】ではどうだった?」


「ああ、ソロー司祭によれば――」


 父さんの説明を要約すると、以下のようになる。


S(適性がすごく高い=天賦の才レベル):槍、指揮

A(適性が高い=十分恵まれているレベル):水、風、馬術、知覚、精霊

B(適性がまあ高い=努力次第でそれなりになるレベル):地、剣、弓、近接戦闘、偵察

C(適性が一応ある=努力しても一定以上は無理):光、闇

Z(適性がない=スキルが習得できない):火


「たしかに【精霊魔法】に適性はあるらしいけど、エルフは【精霊魔法】を秘伝にしているからね。覚え方が見当もつかないんだ」


「それは大丈夫。俺もメルヴィから習って習得したから」


「本当かい!?」


「うん。……ただ、かなり修行感があるというか、精神的にキツい面があるけど。

 まあ、父さんは適性が高いから大丈夫かな」


「でも、どうしてそこまで【精霊魔法】を推すんだい?」


「理由はいくつかあるけど、精霊に頼んで魔法現象を起こす関係上、自分で魔法を使うのとは違って発動地点がかなり自由に選べるんだ。

 ふつうの魔法は基本的に手元発動だけど、【精霊魔法】は離れた場所にいる精霊にお願いすれば離れた地点で魔法を発動できる。その分、多少発動に手間がかかるけど、そこは慣れ次第で短くなるよ。

 それから、これはまだ俺にもできてないんだけど、適性の高い人だとわざわざ頼まなくても精霊がある程度気を利かせて動いてくれることがあるらしい。

 槍で戦いながら使うことを考えると、父さん向きでしょ?」


「なるほどね……」


「知覚系スキルに適性があるなら、【見切り】というスキルも覚えたらいいと思う。

 敵の攻撃がかわしやすくなるスキルで、格闘や短剣を武器にする人が習得してるけど、いったん習得したら他の武器でも発動するよ。スキルレベルが上がれば背後からの攻撃すら『見切る』から、前衛をやるならぜひ覚えておいてほしいスキルだね」


「それは便利そうだね」


「他にも、知覚系なら【聞き耳】か、できれば【気配察知】がほしいかな。

 でも、父さんは基本的には守られる側だから、配下の人にその手のスキルの持ち主を育てた方がいいかもしれない。

 槍と魔法を同時に修練してたらそこまで余裕はないだろうしね」


「まぁね……。というか、水でも風でもいいけど、達人級の魔法を習得するだけでも普通なら十年単位の修行が必要なはずだよ」


「魔法と言ったら、魔法系の二つ名もほしいよね。

 ジュリア母さんにも教えたけど、MPを使い切ることで最大値を上げることができるようになるから」


「二つ名って……そう簡単につくものじゃないだろ」


「一応、二つ名を管理するカヌマーンの加護も受けたから、ちょっとはつけやすいはずだけど、俺1人じゃ無理だね。

 あ、そうだ、神の加護といえば……」


「なんだい?」


「父さんの《軍神の注目》ってあるじゃない。

 その軍神アルスラーンは子沢山でも有名な神だから、子どもができやすくなるらしいよ」


「なんだって!」


「もともとジュリア母さんとは子どもができにくいらしいんだけど、《軍神の注目》があればできるだろうって女神様が言ってた」


 だから頑張って励んでね、と言ったら、頭にげんこつを落とされた……。

次話、水曜(4/15 6:00)掲載予定です。

今週は週3(月水金)で更新致します。

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