57 女神様への質問 その2(スキル)
ここからは、スキル関連の質問だ。
「状態異常に対する耐性系スキルはないのか?」
「魔族や竜、魔物の一部がアビリティとして持っているわ。
スキルも、あることはあるのだけれど、人間で習得できる人はほとんどいないわね。
毒を飲んで、解毒剤なしにそれを克服するなんて、普通は無理でしょう?
あなたはわたしの加護によってスキルの習得条件が開放されているから、きっかけさえあれば習得できる可能性はあるけれど、難しいでしょうね。
あなたの場合は今回取得した【危険察知】で事前に危険を回避する方が簡単でしょう。
あるいは、あなたが手に入れていた耐性薬を服用するか、魔物のアビリティの宿った魔物素材のアクセサリーを身につけるか、ね。
耐性スキルがアッドされている悪神の使徒を倒してくれたら、浄化して優先的に授けてあげられるけれど」
「【調理】スキルを手に入れたんだが、戦いに関係のないスキルもあるってことか?」
「いえ、基本的には、スキルは戦いに関連する領域の技術に限られているわ。
生産系のスキルも、最終的には戦いを有利にするものを生み出すためのものね。
【調理】スキルは例外で、過去に功績のあった勇者パーティの1人が私に【調理】スキルを作るよう要望して、それを叶える形で作ったものよ。
だから、材料次第で、一時的なステータス賦活効果を得るようなことも可能になってるわ。
いきさつからすると、伝説級に分類されるべきスキルなんだけど、当人の希望で汎用スキルとして多くの人に習得の道を開くことになったの。
といっても、あとからできた上に、ステータス賦活効果までつけてしまったから、適性の持ち主があまりいなくて、当人が望んだほどには広められなかったのよね……」
何気にレアスキルだったのか。
料理でステータスが賦活されるってのも原理は謎だが、適性があるようならステフにでも覚えさせたら便利かもしれない。
「【飛剣技】って、どういう経緯で作られたんだ?
剣をいくつも浮かせるような膨大なMPがあるなら素直に魔法を使えばよさそうなのに」
「古代に、そういうスポーツがあったのよ。
魔法を使って剣を操り、勝敗を決める、というね。
魔法より小回りが利くから、魔物狩りにも使われていたわ。
飛剣は体重が載せられないから、薄くて鋭利な専用の剣を用意するのがいいみたいね」
なるほど。心のメモ帳に記しておこう。
「スキルの統合ってできないのか?
正直、持ってるスキルが多すぎて、とっさに使い分けられる気がしない」
「それに関しては、わたしのお願いを聞いてくれるなら、いいものをあげるわ」
「お願い? 珍しいな」
「ええ。お願いというのは、使わないスキルをリサイクルしてほしいということなの」
「リ、リサイクルって」
「スキルの半分がギフトから構成されていることは、もう説明したわね。
要するに、仮に使っていなかったとしても、スキルを持っているだけで、ギフトを死蔵していることになるの。
だから、習得したはいいけど、使いどころがなかったり、今ひとつ好みに合わなかったり、他のスキルの下位互換にしかならなかったりするスキルに関しては、『封印』してほしいのよ」
「封印?」
「ええ。
スキルレベルという情報と、肉体側のスキルに関する経験は残したままで、ギフトだけをわたしのもとに送ってほしいの。
それが、封印する、ということよ」
「封印したスキルはもう使えないのか?」
「もし必要になれば、短いリハビリ期間で再習得できるわ。
スキルの封印をやってくれるのなら、スキルの整理や統合ができる魔法スキル【スキル魔法】を授けてあげる。
【スキル魔法】を使えば、同じ等級の似たスキルを水平統合したり、同じ系統のスキルを上位の等級のスキルに垂直統合したりできるから、スキル欄の整理にもなるはずよ」
「スキルの整理や統合ができる魔法スキル【スキル魔法】」とはややこしいが、要するに、スキルエディタのようなものをくれるってことか。
水平統合とはつまり、【火魔法】【水魔法】【風魔法】【地魔法】を統合して、たとえば「汎用魔法」というような、ひとつのスキルにできるということだろう。
垂直統合は、【火精魔法】に【火魔法】を統合できるというようなことか。
ほとんど使ってないスキルはたしかにいくつかある。
たとえば、投槍の検証で覚えた【投斧技】とかだな。
この先斧を投げる機会があったとしても、そのために【投斧技】のレベルを上げておくよりは、【投擲術】で代用する方がいいだろう。
専用の投擲系スキルとしては、手裏剣、ナイフ、槍があるし、【鋼糸術】もある。
また、投擲物としては剥落結界の砕片が便利すぎて、わざわざ投げ斧を選ぶ動機がない。
「それからもうひとつ、注意があったわね。
魂が保持できるスキルの量には限界があって、限界に迫るほど新しいスキルの習得が難しくなっていくわ。
具体的には、スキルの数が百を超えると、新規習得の難易度が、ゼロの時の倍になるくらいね」
「おいおい、めちゃくちゃ大事な情報じゃないか!」
俺は【鑑定】を使ってステータスを開き、習得済みのスキルの数を数えてみる。
ええっと……64個か。
まだ百までは余裕があるが、増えるほどに新規習得が難しくなるのだったら、今からでも数を圧縮したいところだ。
習得したスキルも、封印してアーカイブ化できると思えば、せっかく覚えたのに忘れるなんてもったいないという葛藤もなくて済む。
「わかった。
俺の側にデメリットはなさそうだしな」
むしろメリットしかないと言っていい。
「ありがとう。
ただし、【スキル魔法】は輪廻神殿の祭壇か、それに準じる場所でしか使えないから、注意してね」
「わかった。
……あれ?
でもソロー司祭の託宣を受けた時は、輪廻神殿じゃなかったな。
【託宣】と【スキル魔法】で条件が違うのか?」
「【託宣】は、対象に紐付けされたステータス情報を託宣者に引き込んで書き出すものだから、神殿じゃなくてもできるわ。
【スキル魔法】はスキル情報のインタラクティブなやりとりが必要になるから、どこでもというわけにはいかないの。
大きなデータのやりとりは携帯端末では難しい、というような話ね」
女神様が身も蓋もない例えを持ち出して説明した。
「輪廻神殿の司祭さまに見てもらった限りでは、俺にはそんなに高い適性はないって話だったんだが、そのわりにはスキルの上がりが早くないか?
少年班の子どもたちや他の御使いに【雷魔法】を教えた時も、思ったよりだいぶ時間がかかった。
あんたの加護があることを考えても、ちょっと差が大きいような……」
「それこそ、【不易不労】の効果よ。
前世のことを考えてみて。
あとちょっとでコツがつかめる、というところでイライラしたことはないかしら?
そういう、極度の集中力が必要な作業を休まず続けられるんだから、普通の人が休み休みやる場合よりも、単位時間あたりの能率はいいわけよ。
普通の人の一時間は、集中力にムラがあっての一時間だけれど、あなたの一時間は集中力をずっと維持したままの一時間なのだから」
そう言われればそうかもしれない。
集中しすぎて我を忘れることは前世でもあったが、転生してからはとくに多くなってるような気がする。
「【鑑定】が、伝説級の割に簡単に習得できた気がするんだが、それも同じ理屈か?
同じ伝説級スキルの【念話】や【精霊魔法】はけっこう苦労したんだが……」
「それは別の要素が大きいわ。
あなたは転生直後で少しでも情報がほしいという心理状態だった。
そのうえ、暗かったせいで月以外は見られない状況で、意識がそれだけに集中していた。
さらに、あなたは前世の知識によって、月というものがどういうものか、マルクェクトのほとんどの者が知りえないような具体的な知識を持っていた。
もちろん、わたしの加護によって、全スキルの習得制限が開放されていたことが、大前提ではあるけれど」
女神様は言わなかったが、習得済みのスキルの数も関係しているかもしれない。
【鑑定】の時はゼロ、【念話】や【精霊魔法】の時は既に数十個はスキルを持っていた。
「そういや、ソロー司祭が、わしでも注目止まりなのに、って嘆いてたぞ。
長年あんたに仕えてるんだし、加護をあげられないのか?」
「加護はどうしても、戦闘職の人が優先になってしまうのよね。
でも、ソローさんも本当に献身的に働いてくれているから、ギフトに余裕ができたら加護をあげなきゃって思ってはいたわ。
今回あなたが回収してくれたカースと、これまでの貯金を合わせて何とか近日中にはあげられると思うわ。
お誕生日が近かったから、その時のサプライズプレゼントにさせてもらおうかしら」
そう言っていたずらっぽく女神様が笑う。
いろいろ変な人だけど、こういう表情をされると、こっちの頭が蕩けそうになる。
「そういえば、前回教えてもらった【祈祷】スキルなんだが、神殿に寄る機会がなくてな。
カラスの塒でも、ちょくちょく祈ってはみたが、スキルは習得できなかった」
そう言うと、女神様は少し呆れた顔をした。
「あのね……スキルでも魔法でもなく、ただ祈ったって効果はないわよ?
あなたの元いた世界でもそうでしょう」
「い、いや、そりゃそうだけど……」
まさかファンタジー世界の神様に常識を説かれるとは思わなかった。
「各地にある輪廻神殿は、ギフト分配のためのハブでもあるから、その場所で魂を祭壇に接続することを、【祈祷】と呼ぶのよ。
具体的なやり方は、司祭に聞くのが手っ取り早いと思うけれど、あなたなら試行錯誤で体得できるかもしれないわ。
【スキル魔法】とコツは似ているはずだから、先にそっちから試した方がいいかもしれないわね」
なるほど、戻ったら早速試してみよう。
「アビリティって何だ?
スキルとはどう違うんだ?」
「アビリティは、魔物や魔族の持つ、生まれつきの能力のことよ。
効果としてはスキルと似たものもあるけれど、生まれつきのものだから、後から習得することはできないわ。
また、スキルと違って、わたしではなく魔を司る神オージャの管轄になっていることも特徴ね」
「オージャとやらは、魔物にも力を貸すのか?
魔物は悪神の影響を受けてるんじゃ?」
「狂った神であるオージャに善悪の区別はないわ。
魔族も、もともとは善神側といえるのだけれど、魔族の守護神だったオージャが狂ったせいで、魔族は人間以上に悪神の影響を受けやすくなっているの。
それでも、理性を持ち、素朴な生活を営む魔族たちはまだマシね。
魔物に関しては、もはや善神側に立ち返る余地すらないのだから。
オージャはそんな魔物に対してもアビリティの恩恵を授けてしまっているわ」
「そのオージャとやらを討伐することはできないのか?」
「オージャは魔族たちの集合的無意識と深い相互依存関係にあるから、オージャを倒せば魔族たちが全滅してしまうわ」
放置するしかないってことか。
「成長眠って、ダンジョンでは危険じゃないか?」
「基本的に、探索中に眠気は出ないようになってるわ。
正確には、うっすら眠気は感じるけど、脳の機能は落ちないようになってるの。
それによって、安全に眠れる場所を本人に探してもらうわけね。
そして、ダンジョン内の安全地帯に辿り着いて気が緩むと、眠気が強くなって、成長眠が始まるというわけ。
マルクェクトでダンジョンを探索する際には、成長眠を見越して余剰人員を抱えることが一般的ね。
でも、余剰人員がいることは、副次的効果として、ダンジョン探索の生還率を高める効果を持つわ。
仮にレベルアップがなかったとしても、余剰人員がいることで、多少の事故では全滅しにくくなるのね。
冒険者には無謀な人も多いから、結果的に一定の歯止めにはなっているはずよ。
それから、成長眠は、レベルが上がって強くなるという以外にも、HPやMPを回復する効果もあるから、あながち悪いことばかりでもないのよ」
「じゃあ、もう少しでレベルが上がりそうなメンバーを抱えて潜れば、途中で回復ができるってことか」
「理屈としてはそうなるわね。
レベルアップのタイミングがばっちり合えば、ではあるけれど」
「経験値……じゃないが、レベルアップまでに必要なギフトの量は、定量的に把握できないのか?」
「ギフトによる強化は有機的なものだから、難しいわね。
本人の魂の状態にもよるし、それまでにどう強化されてきたかによっても変わるわ。
レベルが高いほど、強化済みの部分が多いことになるから、残りの強化しにくい部分を強化することになって、レベルが上がりにくくなるの。強化済みの部分とのバランスを取る必要もあるから、なおさらね。
それに、魂の保持できるギフトの総量にも限界があるから、人の身のままではこれ以上レベルが上がらない、という状態もありうるわ。
……まあ、これまで見てきて、そんな人はほんの数人だったけれど」
「もう少しでレベルが上がりそう、とかわかれば便利だと思うが、どうにかならないか?」
「うーん……レベルアップはギフトの再配置なのだから、予兆のようなものがないでもないのだけれど、今のところそれを察知できるスキルはないわね」