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56 女神様への質問 その1(全般)

FAQのような企画です。

感想欄で聞かれたこと・聞かれそうなこと等、主に設定関連の話です。

4話続きます。

人によって興味の有る無しがあるかと思いますので、4日連続投稿(月火水木)で一気に終わらせます。

 さて、質問はどっさり用意してある。

 情報は力、というのは、現代人にとっては常識だからな。

 今回は自重せず、聞ける限りのことを聞いていこうと思う。


 まずは、いちばん気になってたことからだ。


「なあ、俺は本当にジュリア母さんとアルフレッド父さんの子どもといえるのか?」


「言える、と答えたと思うのだけれど、心配なのはわかるわ。

 あの二人は、種族的相性の問題で、もともと子どもができにくいの。

 胚まではできるのだけれど、その胚が気難しくて、そこに宿るべき魂の種類をかなり選り好みしてしまうのよね。

 マルクェクトに循環するすべての魂のうち、彼らの胚に適合するものは百万に一つ。

 あなたは、その百万分の一に適合する魂の持ち主なの。

 あなたが普通の子どもと異なるのは、前世の記憶を持ち越していることだけれど、死んだ魂が輪廻するという基本は外していないわ。

 ふつうの人が記憶をなくして転生するのに対して、あなたは記憶を保ったまま転生した――それだけのことよ。

 肉体と精神の遺伝的特性は完全に二人から受け継いだものだから、魂から前世の記憶が取り除かれていないだけで、二人の子どもであることに違いはないわ」


「……わかったような、わからんような感じだが、あんたがそう言うならそうなんだろう。

 ところで、精神と魂ってのは違うのか?」


「ああ、そこからよね。

 違うわよ。

 そうねえ、あなたに分かりやすく説明するなら、肉体をハードウェア、精神をソフトウェアとすると、魂はそれらを操作するユーザーということになるわ。

 魂は物質的な方法では生成できないから、たとえ神であっても、再利用することしかできないの。

 ちなみに、あなたの元いた世界で、機械が自我を持つか? という議論がなされていたけれど、その答えはノーよ。

 機械には魂が宿らないから、機械は、たとえ精神と呼べるほどに発達したとしても、自我を持つことはできないことになるわね。

 わたしが神の力で機械に魂を宿らせれば、話は別だけれど。

 人が輪廻の力を手にすることも、不可能とは言わないけれど、科学では霊魂は原理的に認識できないから、今の科学の延長線上では無理でしょうね」


 ……ちょっと整理してみよう。

 父さんと母さんは子どもができにくい組み合わせで、異世界人である俺の魂がようやく適合したため俺が生まれることになった。

 だから、生まれるはずだった子どもの魂を上書きしたわけでもなければすり替わったわけでもない。

 そして、どんな人間もかつて生きた人間の魂を再利用しているのだから、俺の転生だけが特別なわけじゃない……ってことか。

 もちろん、前世の記憶を残している点を除けば、だけどな。


「あれ? でも父さんは前の奥さんとの間に、3人も子どもを設けてるじゃないか。

 前の奥さんも人間だったと思うが……」


「あなたの転生前のことについては、わたしにはわからないのだけれど、遠い祖先にでもエルフの血が入っていたのかもしれないわね。

 エルフの血は特別で、エルフとエルフ以外をかなり厳しく区別しようとするから」


「じゃあ、今後俺に弟か妹ができるのは望み薄か?」


「そうでもないわ。

 アルフレッドさんは、《軍神の注目》を獲得してたわよね?

 マルクェクトで広く信じられている神話では、軍神マルスラートは好色な神としても描かれていて、千人を超える女に子どもを産ませ、自分の子どもだけで軍団を作った、というエピソードがあるわ。

 そのマルスラートの注目を得ているのだから、副次的効果として子どもができやすくなっているはずよ」


「そりゃすげえな」


 帰ったらアルフレッド父さんに教えてあげよう。


「でも、それだったら男の子の方ができやすいのか?

 ジュリア母さんは女の子がほしそうだったけど」


「それはどうかしら……?

 細かいことは本人(マルスラート)に聞かないとわからないわね。

 子どもが男の子ばかりだったという神話はないから、たぶん大丈夫だと思うけれど。

 もちろん、あくまでも神話なのだけど、そのような神話が、神に力を与えるのよ」


「ん? 神に力があるから神話になるんじゃないのか?」


「神話は事実ではなく、あくまでも人々の作った物語よ。

 そうでなかったら、マルスラートの血を引く神人が、地上に溢れていることになってしまうわ」


 そりゃそうか。

 架空の物語ってことでは、元の世界における神話と大差がないらしい。


「でも、【鑑定】の説明にはそんなのなかったぞ?」


「【鑑定】の情報に現れる神の加護は、ほんの一部……とは言わないけれど、半分くらいでしょうね。

 とくに戦いに関係のない部分については、【鑑定】では分析しきれないことがあるわ。

 スキルと違って、加護の内容は多少流動的でもあるし……」


「そういえば、マルクェクトの人たちに転生のことを話してもいまいち通じない感じだったんだが、何でなんだ?

 この世界には輪廻を司る神であるあんたがいるっていうのに」


「この世界における輪廻というのは、魂を浄化して再利用する仕組みのことをさすわ。

 それは、あなたの元いた世界における生まれ変わりへの信仰とは別の、もっと現実的なシステムの問題よ。

 死んだ生物の身体が微生物に分解されて植物の栄養となり、その植物が動物の栄養となって……というのと同じことね。

 つまり、この世界の人々は、魂が輪廻していることを信じているのではなく、単に知って(・・・)いるの。

 記憶を持ったまま生まれ変わることはありえないと思っているのね。

 ましてや、マルクェクト以外にも世界が存在して、そこで生きていた異世界人がこの世界に転生してくるなんてことは、この世界の人々の想像をはるかに超えた事態なのよ」


「輪廻は常識だが、転生はオカルトだってことか」


「そういうこと。

 付け加えるならもうひとつ。

 この世界には神がいるから、宗教の幅が自ずと狭い範囲に収斂するのよね。

 だから、所によって、天国や地獄の概念くらいはあるけれど、転生という概念は、ごく限られた数の、特殊な宗教の専門家にしか知られていないと思うわ。

 そのままで生まれ変わるという意味での転生は、異端でなければ妄想と片付けられてしまうでしょうね」


「なるほど……神様がいるからこそ、神様の信じ方も決まってくるってことか」


「あなたの元いた世界には神がいないから、信じる人さえいれば、どんな宗教でも成り立つわね。

 とても逆説的なのだけれど、神のいないあなたの元の世界の方が、神のいるマルクェクトよりも、宗教的想像力という点では自由なのよ。

 その自由な想像力で生み出された宗教思想が、信仰を失った〈八咫烏(ヤタガラス)〉の御使いたちの救いになったというのは、大いなる皮肉というべきかもしれないわね。

 ……今回の件では、私も無力を痛感させられたわ」


 少し暗い顔をする女神様。

 そういう見方もあるかもしれないが、ちゃんと現世利益のあるこの世界の神様の方が、俺には信じがいがあるように思えるけどな。


 次。


「〈八咫烏(ヤタガラス)〉の連中が、魔物を狩ってレベルを上げてたんだが、あれは共食いみたいなものなんじゃないのか?」


「ああ、魔物も悪人もカースによってステータスを強化されているから、ということね。

 たしかにそういう見方もできるけれど、より強い個体にカースを集中させるという点では一定の合理性があるわ。

 そうすることによって、善神側の者にやられてカースを奪われる事態を防げるしね。

 あなたの元いた世界でも、似たようなことは起こるでしょう?

 我が社の方が、貴社の所有する経営資源をより効率的に運用してより多くの利益を生み出せる、だから貴社は我が社に買収されるべきだ……みたいな。

 もちろん、〈八咫烏(ヤタガラス)〉の御使いたちは、自分たちがやっていることの意味を理解しているわけではないでしょうけれど」


 弱肉強食ってわけか。


「前々から思ってたんだが、どうしてこの世界のシステムはこんなにも前世のゲームに似てるんだ?」


「べつに、ゲームに似せたわけじゃないのよ?

 あなたの元いた世界で電子ゲームが誕生するずっと前から、マルクェクトは今のシステムだったのだから。

 わたしが思うに、人がやりがいを感じてがんばってくれる仕組みを突き詰めていくと、結果として『ゲーム的』なシステムに収斂するんじゃないかしら」


「HPやMPといったステータスの数値は?」


「それも、生命力や魔力を数値として把握しようと考えれば、自ずと辿り着く最適解のひとつなのではないかしら。

 あと何回攻撃を受けても大丈夫、あと何発魔法を使える、といったことを正確に知りたいと思えば、生命力や魔力を数値で把握しようと考えるものね」

次話、明日投稿です。

今週は月火水木投稿し、金曜はお休みさせていただきます。

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