98:サタのとっておき
本日は5話更新となります。
こちらは五話目です。
「我が名はサタ・コモン・セーテクス・L・セイリョー。虹銀泡界の主にして、新しき宙の主。新たなる法の支配者。未熟なりし改変の徒」
『私の名はヴィリジアニラ・エン・バニラゲンルート・P・バニラシド。バニラ宇宙帝国を治めるバニラ帝室の末席に名を連ねるものの名において、試作外部制御mod-サタンの金環を起動します』
廃棄されたガイドコロニーから光の速度で数分かかる程度の距離で『パンプキンウィッチ』は停止。
それとほぼ同じくして、亜光速航行を解除したメーグリニアがガイドコロニーに突入し、その内部で活動を開始する。
と同時に、俺の本体がエーテルスペースからリアルスペースへと移動。
八つの足、八つの目、二本の角、一対の蝙蝠の翼を持った、コロニーサイズの蛸に似た姿を持つ宇宙怪獣が、Sw対策としてmod無効化の墨を纏いながら姿を現す。
そして、『パンプキンウィッチ』の中でヴィリジアニラがセイリョー社から受け取ってきたmodの起動をする中、人形の俺も本体の頭上に移動して、口頭による特殊なmodの製造及び使用の制限解除と生成を開始する。
「我は帝蘭の法に恭順を誓いしもの。帝蘭の法と代行者に咎無き限り、共に在る事を選びしもの。帝蘭の法の下に繁栄する万華を慈しみ、愛し、称えるもの」
『起動完了。制御を開始。攻撃対象外とする存在のリストアップを開始します』
メーグリニアがこちらの姿を認識できていないのはほぼ確実だ。
此処から廃棄ガイドコロニーまで光の速さで数分かかるという事は、超光速の知覚手段を有さない限り、俺たちがここに居るという情報を得れるまで数分かかる事に他ならないのだから。
対してこちらは『異水鏡』による超光速知覚で、メーグリニアが廃棄ガイドコロニーに居ることをはっきりと認識している。
だから、この差を生かして、確実に仕留められる手段で以って攻撃する。
「我が敵は帝蘭の法に反するもの、違えしもの。己が法が為に万華摘み取らんとするもの。此度は華を捨て、他の華を己が華とし、見えざる手の法の猛威を振るう邪天」
『フラレタンボ星系の星々、恒星フラレタンボF1、惑星フラレタンボ1、惑星フラレタンボP1よりP6、小惑星帯を認識。第一プライマルコロニー及び無数のサブコロニー群、ガイドコロニーを認識。正規シグナルを放っている衛星各種、宇宙船各種を認識』
そう確実に仕留められる。
相手がどんな軌跡を自分の在り方と定義していようと、これが直撃したならば、確実に殺せ……いや、滅ぼせる。
むしろ問題なのは滅ぼした後で、その余波の問題があるからこそ、俺はこれまで、この攻撃手段を使ってこなかったのだ。
「異法にして帝蘭の法に反旗を翻すならばそれは違法。異法なれど帝蘭の法に準ずる我にとって見逃せぬ悪法。故に我が意の下に汝が軌跡を無法と帰さん」
『フラレタンボ星系内の全生物、フラレタンボ星系外の周辺宙域に存在する同様の存在を認識。サタ、メモクシ、ジョハリス、ヴィリジアニラ、『パンプキンウィッチ』を認識』
本体にある漏斗部分に生成された特製modが充填されていく。
漏斗部分から狙いを定めるように、螺旋状に足を束ねて筒にする。
軽度の事象破綻が発生して、嗅げるほどの空気がない宇宙空間であるにもかかわらず、悪臭が立ち込めていく。
「蹂躙せよ、殲滅せよ。我が意、我が威。崩壊せよ、破滅せよ。我が敵の機、敵の軌。解放せよ、発露せよ。法に囚われし虚無の世界の獣よ」
『宇宙怪獣メーグリニア・スペファーナ、廃棄ガイドコロニーを……除外、成功。サタとの認識リンクを成立、同期完了。準備完了しました。サタ』
力が高まっていく。
宇宙怪獣として独自のOSを保有すると共に、セイリョー社にてmodの研究を半端であっても修めた俺だからこそのとっておきが、この世に顕現しようとしている。
それに合わせて、俺がこれからしようとしている事から逃れられるものへの徴を付け終わったというヴィリジアニラの言葉が飛ぶ。
見れば確かに、俺の人形にも、本体にも、『パンプキンウィッチ』にも、青緑色の燐光を纏った金色の輪のようなものが浮かび上がっており、直感的にこれなら大丈夫であると俺は理解させられた。
「事象破綻砲・500・エラーセピア。発射!!」
『事象破綻砲・500・エラーセピア。発射!!』
故に俺は全力で放った。
本体の漏斗から漆黒色の光線が放たれて、廃棄ガイドコロニーとその内部に居たメーグリニアを貫く。
そして、貫いた一点を起点に光が満ち溢れていき……。
「『!?』」
フラレタンボ星系を横断する規模の光が生じる。
光の速度を超えた光が満ち溢れる。
重度の事象破綻、世界を成立させる法則が虚無へと帰り、それに伴って莫大と言うもおこがましいエネルギーが生じた上に、法則が連鎖崩壊を起こして破壊を連続させる。
仮に自らの死をなかったことに出来る軌跡を自分の在り方として定義していようとも、この光に満たされた範囲では意味がない。
その軌跡も、定義も、根こそぎ破壊しつくすのが、事象破綻砲と言う、任意の対象に重度の事象破綻を強要する攻撃なのだから。
それこそ、本来ならば、周囲一光年程度に存在しているものは、『バニラOS』も含めて全て蒸発し、消滅するのである。
「っう……ふぅ……上手くいったみたいだな」
『そう、みたいですね』
『『異水鏡』の反応を確認中。メーグリニアの反応は……ありませんね』
『ううっ、『異水鏡』のノイズ除去で死にそうっす……』
そう、本来ならばだ。
現実には、吹き飛んだのは廃棄ガイドコロニーとメーグリニアだけであり、俺たちはもちろんのこと、フラレタンボ星系の各地にも影響はない。
なぜそうなったのか。
決まっている、ヴィリジアニラの起動した『試作外部制御mod-サタンの金環』の効果だ。
これは発動者が攻撃の対象外として認定したものを、俺の事象破綻砲による影響の対象外に一時的にする事が出来るmodだ。
ただ、俺自身は事象破綻砲の準備で使えず、俺と認識を共有するためには俺との契約が必須、そしてかなり高密度の情報処理能力が必要となるため、ヴィリジアニラ以外には使い物にならないmodでもある。
なんにせよ、これで、攻撃の対象を絞った結果が、今目の前に広がっている光景……跡形もなく吹き飛んだ廃棄ガイドコロニーだ。
「とりあえずはガイドコロニー跡の監視をしつつ、一時休憩だな。流石に疲れた」
『そうですね。そうしましょうか』
俺の本体はエーテルスペースへと戻り、人形の俺は『パンプキンウィッチ』の中へと帰投した。
なお、サタより強い宇宙怪獣相手だと、事象破綻が上手く進まず、威力の軽減~無効化、吸収まで効果が落ちる可能性がある模様。
この世界の上位層の危険度がよく分かりますね。