96:滅びぬメーグリニア
本日は5話更新となります。
こちらは三話目です。
「ヴィー。攻撃の手を緩めるなよ。正確な原理までは掴めていないが、メーグリニアはミンチになっても戻って来た。限度はあるかもしれないが、普通に殺した程度では死なない」
『分かっています。先ほどから戦艦の攻撃を直撃させ続けていますが、メモが『異水鏡』で観測する限り、メーグリニアを起点とする別OSは消滅していないのを確認しています』
海上ではヴィリジアニラの指揮下で、帝国軍やらなにやらの宇宙船たちがメーグリニアを包囲し、宇宙船用のブラスターmodで攻撃を仕掛け続けている。
このブラスターmodの出力は当然ながら個人用のブラスターmodとは比較にならないほどに高い。
具体的には、最低グレードのものであっても、普通の人間がシールドmod無しで受ければ確実に蒸発するし、そもそもよほど高グレードのシールドmodでなければ防げないくらいである。
それを浴びせ続けている事は、進行方向から爆発音と衝撃波が連続して放たれ続けている点から分かる。
が、そのような攻撃を受けても死んでいないのだから、やはり宇宙怪獣は頑丈であり、確実に殺したと断言できるまで攻撃を止めることなど出来ない。
『それでサタは何を?』
「メーグリニアを吹き飛ばした軌道に沿うようにしつつ、海上へと向かってる。転移した結果、何かを見逃したら事だからな。最悪、そのせいで仕留めきれなくなるかもしれない」
『そうですか。海上に上がる際は気を付けてください。流れ弾も少なからずありますので』
「分かった」
俺は水球から水球へ、あるいは水球から水球間の空間へと、素早く泳いで海上へと進んでいく。
高気圧の環境から急速に低気圧の環境へと移動するのは普通の人間なら極めて危険な行為だが、環境安定modに加えて、そもそもの肉体を極めて頑強に作ってある俺にはそんなものはどうとでもなるので、既に生物が残らず逃げていった海をスピード重視で進み続ける。
『っ!? これは……総員、一時攻撃中止! 煙幕を展開した上で回避行動に移ってください!』
「ヴィー!?」
どうやら海上で何かあったようだ。
本体で見れば、焦りを含んだヴィーの言葉と共に全ての船がスモークを炊いてその姿を隠し、その上で高速機動を開始している。
と同時に、止んだ攻撃の中から姿を現したメーグリニアが腕を一振り。
その一振りだけで煙幕が海面に叩きつけられ、数百メートルの高さにまで及ぶ水柱が立ち上る。
「ふふっ、あははははっ! これが世界の敵になるという事なんですね。愉快ですけど痛くて、守りの中から狙いを定めていたのに外されて歯がゆくて、面白いけど気に食わなくて。ああ、指揮をしているのはヴィリジアニラ様かしら? フラレタンボ伯爵様では、あの攻撃の雨中に居た私を正しく見るなんて出来るはずもないですものね。ええはい、学びました。観測しました。スモーク程度で防げると思っているのなら……」
なるほど、念動力を殻のように纏う事で、砲撃から身を守って見せたらしい。
言うは容易いが、行うは難しだぞ、それは。
そして、最初から出来たとも考えづらい。
それなら俺の攻撃が初撃以降通用していたか怪しくなってくる。
まさかとは思うが、殺す度に念動力の出力が上がっているのか?
だとしたら、やはり取り逃がすわけにはいかないな。
なんにせよだ。
「させるか」
「っ!? サタ様ぁ!」
海面から飛び出した俺はそのまま空中を駆け上がると、念動力によって自分の体を浮かしていたらしいメーグリニアへと蹴りかかる。
が、それはガードされ、メーグリニアは何故か喜色に塗れた声を上げる。
「あははははっ! おかげさまで私の力は加速度的に強まっています! サタ様! 宇宙怪獣様! もっと私の瞳に貴方のお力をお見せくださいませ! そうすれば、後は贄次第で私はもっと高みへと昇る事が出来る! より深く宇宙怪獣様の事を知れるようになるのです!」
「気色悪い!」
追撃で最初にも放った不可視四連の衝撃も叩き込む。
周囲に轟音と共に爆風と熱波が広がる。
が、その攻撃はメーグリニアを三度殺して見せたが、四度は叩き潰すまではいかず、半死半生程度の傷しか負わせられなかった。
恐らくは念動力の防御殻。
けれど、内側に攻撃を発生させられたら為す術の無い最初の球形ではなく、体の表面にぴったりと沿わせる形で展開している。
そのような形ではどこかに構造的欠陥が生じて、その一点から叩き潰されてお終いだったはずなのだが、そうならないほどにメーグリニアは力を増している。
「アハハVaハハッ! 見てくださいませ! 耐えました! 耐えられました! 死ぬほど痛いけれど経験と観測こそが私の力になるのDeす! 最初は為す術もなく肉片になるだけだった攻撃にだってもう対処でGiる!!」
「っ!?」
メーグリニアが腕を振る。
俺の体を念動力が襲い、人形が粉砕される。
だが所詮は人形だ。
俺自身へのダメージはないし、むしろ利用できる。
「だったら……こうだ!」
「っ!?」
俺はメーグリニアの背後に天地を逆転させた状態で新しい人形を出すと、直ぐにメーグリニアに頭を掴む。
そして、俺にとっての下、メーグリニアにとっての頭上に向かって全力で投げ飛ばす。
「この程……ドビュ!?」
「追加のストンプでも喰らっとけ!!」
さらには追撃として不可視八連の衝撃……要するにエーテルスペースに居る俺の本体による全力のストレートパンチを叩き込んで、メーグリニアをはるか上空……大気圏を超えて、宇宙空間まで吹き飛ばす。
「ヴィー!」
『攻撃……放て!!』
「!?」
そこへ叩きこまれるのは大気圏外武装と言う、惑星への影響を鑑みて、大気圏内では使用できない武器による攻撃のラッシュ。
特に強烈だったのは大型軍事衛星から放たれた特大ブラスター砲であり、俺の本体にも通用するような衛星砲の一撃がメーグリニアに直撃する。
「これでも殺しきれないか。やっぱり回数制臭いな、これは。だが、回数制だというなら後何回だ? 少なくとも二桁はミンチにしてやったはずだぞ」
だがそれでもまだメーグリニアは生きている。
『バニラOS』とも俺のOSとも異なるOSの気配が残っている。
「っ!? 拙い!」
そして厄介なことに、メーグリニアが動き出す。
惑星フラレタンボ1へと戻ってくるのではなく、衛星砲の攻撃による勢いに乗るように、夜が始まる方向へ向かって、フラレタンボ星系の外へ向かうような軌道で以って。
念動力を自身の体に行使する事で逃げ出す。
『サタ! 追って下さい! メーグリニアが逃げます!』
「もう本体は追いかけてる! こっちの俺は『パンプキンウィッチ』に戻るぞ! 状況次第だが、まとめて飛ばす!!」
俺の本体は直ぐにメーグリニアを追いかけていく。
人形の俺も『パンプキンウィッチ』の中に居るヴィリジアニラの髪飾りを目印に転移した。
「ヴィー様、許可取れました。大気圏外への離脱可能です」
「ジョハリス!」
「分かってるっす! 『パンプキンウィッチ』、全力飛ばすっすよ!」
そして、『パンプキンウィッチ』もメーグリニアを追いかけて、惑星フラレタンボ1を脱出した。