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95:深海でぶつかる宇宙怪獣

本日は5話更新となります。

こちらは二話目です。

「……」

 不可視四連の衝撃の正体は俺の本体による攻撃だ。

 エーテルスペースで八本の足を全力で動かし、先端を叩き合わせる瞬間に先端だけをメーグリニアの体表上に出現させる。

 ただそれだけの行動だが、俺の本体のサイズは宇宙コロニーサイズであり、足の先端の速さはmod抜きでも1気圧下での音速など話にならないほどに速い。

 つまり……。


『サタ。多少の混乱はありましたが、こちらは大丈夫です』

「そうか」

 打ち合わされた部分には膨大な量の熱と衝撃波が発生。

 周囲の水球は一瞬で蒸発し、弾き飛ばされ、動いた水球に押されて他の水球も動き、大爆発を起こしたかのように周囲の水球と空気が動いて、海底も僅かにだが赤熱し、事象破綻に伴う甘ったるい匂いが微かにだが漂う。

 事前に体の仕様を変更していなければ、人形の体では到底耐えられなかった事だろう威力だ。

 まあ、きちんと使えば軍艦相手でも簡単に沈められる攻撃なので、当然の結果だが。


『ただ、メーグリニアの消滅をメモは確認していません』

「だろうな。俺も殺せた感じがしてない」

 吹き飛んだ水球が転がりつつ戻ってくる。

 あるいは大気圧で圧縮されてSwの範囲外となり、分解、ただの水となって降ってくる。

 俺は落ちてくるのに任せて水に飲み込まれるが、水圧も空気無しも事前に対応済みなので何も問題ない。


「ふぐ、げほっ、ごほっ……ああ、酷い目にあいました……」

 対するメーグリニアの周囲には水球も水も降っては来ない。

 恐らくだが、念動力を自らの周囲へ球形の膜のように張り巡らすことによって、大気圧などの調整をしているのだろう。


「そうか。この程度で酷いというなら、とっとと諦めて死ね」

「ーーーーー!?」

 であれば対処は容易。

 俺はmod無効化の墨を放ち、メーグリニアの念動力に揺らぎを生じさせる。

 わざわざ膜を球形にするという事は、最も圧力を分散させられる形にしなければ、この場の環境に対処できないと言っているも同然。

 そこへ揺らぎが生じれば……その一点から膜は破綻し、暴力的な大気圧はメーグリニアを文字通りに押し潰す。


「……」

 さて、これで二度だ。

 少なくとも二度、俺は確実にメーグリニアを殺した。


 今のメーグリニアは俺が絵に描いたように、大まかには裸の女と言っていい姿をしている。

 だが、人間サイズの人形の目を通してみれば、メーグリニアが既に人間ではなく宇宙怪獣であることは明らかだ。

 なにせ、全身各部に真珠のような膜に包まれた人間の目が埋め込まれていて、その全てが視神経が通っているように瞳孔と光彩を動かしているのだから。


 他の品は何も身に着けていない。

 つまり、今のメーグリニアが発動しているmodは全て自身の身一つで発動しているという事であり、それで人間サイズのものではあり得ない規模の事象改変を行っている事になる。

 それは明確な人間ではない証拠だ。

 人間ではどうやってもエネルギーが足りないのだから。


「ふうぅー……ああっぁぁ……」

 つまり、メーグリニアは宇宙怪獣であることは間違いない。

 そして、宇宙怪獣であるならば、だいたいの理不尽はそう言うOSだからで成立させてしまえる。

 だから、二度倒れたメーグリニアが二度立ち上がる事は何もおかしくはない。


「ふ、ふふっ、ふふふふふ。理解しました。なるほど。ヴィリジアニラ様は契約したから宇宙怪獣様の力を使えたという事で納得していました。けれど、どうしてただの人間でしかないような貴方が宇宙怪獣様の力を使えるのか不思議でならなかったんです。でも、ええ、ええ! ええっ! 理解しました! 貴方様こそが! 貴方様こそが宇宙怪獣様だったのですね! ああ、我が身の不見識を呪うばかりとはこのことです! そう! 偉大なお力をお持ちの宇宙怪獣であるならば、人間の身を模倣する程度なんという事もないのは当然の事だったのですね!」

「気持ち悪い」

 メーグリニアが早口でまくし立ててくる。

 全身に付いている50を超える瞳が全て俺へと向けられている。

 その口も瞳も喜びに満ち溢れている。


「そしてなんという幸運! レンズ越しに眺める遥か彼方の宇宙怪獣様たちに今の私が遠く及ばない事は理解していました。けれど、貴方はきっと私と同じで宇宙怪獣としてはか弱く、人間としては圧倒的な部類。理解が及ぶ、納得がいく、人間としては非常識であれども、宇宙怪獣としては常識的な……そびゅ!?」

「潰れろ」

 何度叩き潰せば死ぬか分からない。

 相手のルールを把握する必要がある。

 だから俺は躊躇いなく、再び本体による不可視の一撃を放って、叩き潰す。

 メーグリニアを文字通りのミンチに変える。


「ふふっ、痛いですね……」

「再生、人形……いや、どちらでもなさそうだな。自己定義か? そういう存在であると自身の軌跡を定義しているから、ただの破壊では通じない? いや、無対価で発生させられる改変じゃないな。となれば、何処かに限界はあるか。なんにせよやる事は単純だな」

 メーグリニアのミンチを観察する。

 するとミンチが虚空に消えて、傷が無いように見えるメーグリニアが虚空から出現する。


 触れた一瞬で舐め取った感じでは、人間であると同時に貝などの軟体動物に近い感じもあったが、そこはたぶんルールには関与してない。

 俺のようにエーテルスペースのような異相空間に本体が存在している感じでもない。

 ここはメーグリニアの拠点ではないから、此処でならずっとと言うわけでもないだろう


 となれば、何を使っているかは分からないが、その何かが尽きるまで死なずに復活する事が出来るタイプと考えるのが妥当だろう。


「お返しです!」

「っ!?」

 メーグリニアが念動力を放つ。

 俺の全身を押し潰すように念動力が放たれるが、より正確には血液を含む水分を中心に圧縮する事で、細胞を破壊しつつ潰しているようだ。

 どうやら深海の水圧に耐えられる程度のシールドでは、メーグリニアの絞った念動力相手には出力不足であるらしい。


「なんてな」

「ごぼっ!?」

 が、人形が押し潰されると同時に俺は新たな人形をメーグリニアの懐に出現させ、メーグリニアの腹を殴り飛ばす。

 それもただ殴るのではなく、体を突き破らない程度に威力調整した本体でのパンチを拳の先から出現させ、深海から海上まで一気に跳ね上げるように殴る。

 俺の転移は想定していても、前の俺を倒した瞬間に次の俺が出てくるのは想定外だったのだろう。

 メーグリニアの体は幾つもの水球を突き破りながら、海上に向かって一気に突き進む。


「ヴィー! 送ったぞ! 確実に死ぬまで叩き込み続けろ!!」

 そして海上に送ったところで本体の腕をエーテルスペースに戻し……。


『総員、撃てぇ!』

 直後、深海に居る俺にも伝わるような音と衝撃がまき散らされた。

サタ本体の攻撃。

人間で言うなら、両手で勢いよく叩くだけなのですが、速さと重さが桁違いの為、威力も桁違いになっております。

これまで使ってこなかった理由?

余波で護衛対象を傷つけるわけにはいかないじゃない。

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