93:変貌したメーグリニア
「念のために確認いたしますが、サタ様の本体は現在『クールコカトリス』の上空、衛星軌道に居ますね」
「あ、ああ。居るな。探査の邪魔にならないようにって事で一応」
「見えないはずのサタの本体が居る場所も分かるとは……凄い性能ですね、『異水鏡』は」
「サタさんの本体大きいっすね。ビックリしたっす」
まず前提として、『異水鏡』はエーテルスペースからリアルスペースを覗いている俺の位置が分かるように、ハイパースペースなどの異相空間に居る宇宙怪獣……より正確に言えば、異なるOSを保有している存在の位置をある程度感知できるらしい。
そして感知できる範囲はリアルスペース限定なら0.01光年程度……とりあえず同じ星系内ならば感知出来るだけの射程を持っている。
まあ、細かいところは試作品という事もあって、色々と怪しいらしい。
だが、そんな試作品であっても確実に言えることがある。
「ではやはりメーグリニアは海底に居ると考えていいでしょう。惑星フラレタンボ1の地図と合わせて……此処ですね。海面とされる高さからおおよそ500メートルほど潜ったところに、サタ様ではない宇宙怪獣の反応があります」
それは惑星フラレタンボ1内に俺以外の宇宙怪獣が存在しているという事。
メモクシとジョハリスは『異水鏡』によって、その反応を捉えたらしい。
「サタ」
「向かわせる」
「わわっ、『異水鏡』に凄いノイズが走ってるっす」
「記録しておきましょう。貴重なデータです」
『異水鏡』によって捉えられた位置は海のど真ん中だ。
そして深海500メートル前後。
周囲は積み重なった水と空気によって圧縮された水球が犇めいており、mod込みであっても容易には立ち入れず、調査も一筋縄ではいかない位置。
なるほど、耐える手段があるのであれば、潜伏するには絶好の位置かもしれない。
が、エーテルスペースに居ることで、リアルスペースにある物体や法則を無視して移動し、目視できる俺にとっては何という事もない位置だ。
広大な海の中から探し出せというなら別だが、ある程度の位置が分かっているなら、目的のものを見つけ出すことは出来る。
ましてや、異なるOSを保有し、隠してもいないのなら、異質な存在となって周囲から浮かび上がるのだから、見逃すわけがない。
「座標合いました。サタ様」
「居た。たぶんメーグリニアだ」
「たぶん?」
「お茶会で見かけた時や、捕縛に向かった部隊のカメラに写ってたものとはだいぶ姿が違っている。待ってくれ、今書く」
ただ、見つけたメーグリニアと思しき存在の姿は、俺が知っているものとはだいぶ違っている。
衣類を一切身に着けていないのは……まあ、どうでもいいとして。
何か真珠のような煌きが体の各部にあるな。
それと、念動力によって弾かれているのか、水球がメーグリニアの体に触れないようになっているな。
「そう言えば、サタさんの存在を向こうが察するという事はないっすか? 後、メーグリニアがウチたちの探知を逆探知するとか」
「それならたぶんもう反応してる。今のメーグリニアは俺の目には休んでいるようにしか見えないな。それと、宇宙怪獣の中には逆探知が出来る個体が居る可能性は否定しない。俺が言うのもなんだが、何でもありだからな。OSが違うってのは」
「なるほど。そういう意味でも『異水鏡』は試作品という事なのですね。覚えておきます」
「メモ、ジョハリスさん。今後の『異水鏡』の使用については、基本的には私の許可の下で、と言う事にしておきましょうか」
「分かりました。ヴィー様」
「分かったっす。ヴィリジアニラ様」
メーグリニアが今ここに居るのは……スペファーナ男爵家を破壊した後に、下水道を伝って郊外か河川に移動し、そこから海へと移動した感じか。
念動力を自分にも使えるなら、それぐらいは容易だろう。
で、夜になるまで深海で待機し、夜になったらヴィリジアニラまたは他の人間を襲うために陸に上がる、と言う狙いだろうか。
俺も今使っている暗視modのように、完全な暗闇であっても活動に支障をきたさなくなるmodは色々とあるが、それでも夜は夜。
基本的には休息の時間であり、警備も警戒も難しくなる時間だ。
そこを狙って来るのは理にかなってはいるな。
「書けた」
「……。サタ」
「裸なのは向こうが服を着てないからだぞ。後、俺は普通のヒューマン相手に欲情しない」
「いえ、それは今はどうでもいいです。それよりも、サタの書いたこの絵は正確なのですよね?」
「ん? んー……俺はプロじゃないからな……。正確かと言われたら、多少の誤差があると思うが……」
「そうですか」
とりあえずメーグリニアと思しき宇宙怪獣の三面図は描けた。
本体の目で見たものを人形の手で書いているので、細かい部分……目や口などには手が回っていないが、ボディラインの類はそんなにズレていないはずだ。
で、その辺をヴィリジアニラに伝えたところ、こんな返答が来た。
「ではやはりメーグリニアと考えてよさそうですね。私が記憶しているメーグリニアの骨格や体の各部の比が、サタの絵とだいたい一致しますから」
「流石はヴィー……」
「ヴィー様の目だからこそですね」
「ちょっと怖いっす」
どうやら、俺の絵でも読み取れる範囲で以って、『異水鏡』で見つけ、俺が観察している相手がメーグリニアであるかどうかを判別したらしい。
まあ、ヴィリジアニラの目の精度を考えれば、信頼は出来るな。
「ジョハリスさん。フラレタンボ伯爵に連絡を」
「分かったっす」
「メモ。諜報部隊にも連絡を」
「かしこまりました」
「サタ。そのままメーグリニアを見張っていてください」
「了解。もうメーグリニアのOSの感じは覚えたから、通常の航行速度なら追えるはずだ」
では、目標を見つけたところで、確保のために動き出すとしよう。