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91:セイリョーコロニー

「さて、此処に帰ってくるのも久しぶりだな」

 転移は無事に完了。

 俺はセイリョー社がコロニー内に用意してくれている専用の部屋に現れる事が出来た。


「……。大きくなってる?」

 さて、セイリョー社は星系間宙域……つまりは何処の星系にも属していない宇宙空間に、衣食住の全てを賄える大型のコロニーを建造し、拠点としている。

 これはメインの業務であるmodの検査と研究で何かしらのミスがあって、事象破綻が発生した時の被害を最小限に抑えるためだ。

 そのため、最も近いヒラトラツグミ星系でも1光年以上離れているし、ガイドビーコンを利用しなければ辿り着く事もまず出来ないだろう。


 で、そんなセイリョー社の本社でもあるセイリョーコロニーなのだが……本体で見る限り、俺が離れた一年ちょっと前よりも大きくなっているように思える。

 いや、確実に大きくなってる。

 前は俺の本体と同じくらいのサイズだったはずだが、今は俺の本体よりも少し大きくなっている。

 それだけ業務が順調という事か?

 まあ、問題が無いなら、それでいいか。


『あーあー、転移者に告ぐ。一応だけど、名前と用件を話すように』

「と、来たか。サタ・コモン・セーテクス・L・セイリョーです。用件は現在俺が関わっている案件についての支援を求めに来ました。ミゼオン博士に取り次いでいただけますか?」

 俺が今居る部屋は外からロックがかけられていて、中に入ったら外から開けてもらわなければ脱出できない造りになっている。

 これは俺以外の転移能力持ちが居ないとも限らないからだ。

 ちなみに、セイリョーコロニー周辺で人間サイズの物体が転移してくると、その原理に関わらずこの部屋へ飛ばされるようになっているのだが、この技術は宇宙怪獣()を研究する事で得られた成果の一つだ。


『支援? 君が?』

「ええそうです。確実を期すためには必要だと判断してきました。このまま事情説明に移っても?」

『いや、そちらに顔を出そう。マイクを挟むと盗み聞きの危険性が一応あるからね』

「分かりました」

 少し待つと、部屋の扉が開いて、白衣を着た女性……ミゼオン博士が姿を現す。

 ミゼオン博士は人造人間の製造と教育に関係するmodの研究と検査をやっていた女性だ、俺が生まれるまでは。

 俺が生まれて以降はサタと言う名の宇宙怪獣の研究と教育、そこから考案されたり製造されたりしたmodの研究と開発がメインになっている。

 まあ要するに、ミゼオン博士は実質的に俺の母親と言っても過言ではない訳である。


「久しぶりだね、サタ。ヴィリジアニラ殿下の護衛になったと聞いてるよ」

「お久しぶりです。ミゼオン博士」

 ミゼオン博士は最後にあった時からほとんど変わらない姿で明るく朗らかに声をかけてくる。

 対する俺は距離を保つように硬く返事をする。

 なぜかって?


「なるほど。緊急らしいね。事情を訊こう」

「はい」

 それだけでミゼオン博士なら、急ぎの用事であると察してくれるからだ。

 なので俺は直ぐにフラレタンボ星系で現在起きている事件……メーグリニアが宇宙怪獣となってヴィリジアニラの命を狙っている事、メーグリニア討伐の為ならば惑星を犠牲にすることも厭わないような状態である事、確実にメーグリニアを討伐できるような手段がないかを尋ねに来た事を話していく。


「ふむふむなるほど。人間が宇宙怪獣にか……。まあ、サタの例があるから、異常ではないね」

「一般的には異常ですから。それで汎用的な宇宙怪獣対策のようなものはありますか?」

「あるわけがない。君が一番よく知っている事だろう? OSが違うという事は、基本となるルールが違うんだ。絶対確実に通るような対策なんてない。ましてや人間サイズとなれば、セイリョー社が把握している範囲では三例目。急に言われても無いって」

「まあ、そうですよねぇ……」

 やはり汎用的な宇宙怪獣対策はなかったか。

 まあ、それについては俺も望み薄だとは内心では思っていたが。


「ん? 三例目?」

「先日、宙賊と言う名の資材のデリバリーがあって、そこに紛れ込んでいただけの話。まあ、モドキって感じだったし、撃滅済みだけどね。それよりもだ」

「あ、はい」

 さらっと流されてしまったが、愚かにもセイリョーコロニーを襲ったギガロク宙賊団の生き残りが居たようだ。

 南無三。

 残念ながら、このコロニーの防衛力は一年前の時点でも俺の戦闘能力よりも上だったんだ。

 宙賊如きが敵うはずないのです。


「確実に倒す手段なら、君は自前で持っているだろう? それを使ったら駄目なのかい?」

「駄目に決まってますから。アレは俺より少し大きい宇宙怪獣や艦船向けの攻撃手段であって、人間相手に使うものじゃないです。それに反応次第じゃ、本末転倒な結果になりかねない」

「ふうん……そこで切らない辺り、サタはヴィリジアニラ殿下もフラレタンボ星系も気にいっている感じなのかな?」

「前者については否定しません。ヴィーはなんと言うか、キラキラと輝いている感じなんですよ。見ていて守りたいと言うか。で、そんなヴィーが守ろうとしているものを、俺が不用意に傷つけるわけにはいかないでしょう」

「なるほどなるほど」

 ミゼオン博士は手元の端末を弄りながら、俺との会話を重ねている。

 話を切り上げてこないという事は、何かはあるようだ。


『ミゼオン博士。頼まれていたものをお持ちいたしました』

「分かった。置いておいてくれ」

「早い……」

「まあ、君が逃げてくるのではなく尋ねてきていて、しかも急ぎだっていうなら、その時点で用事の内容についてはだいたい察しがついているからね」

 部屋の中に運び込まれてきた物は二つ。

 一つはお盆のような形をした機械。

 もう一つは、昔俺が提供した本体の一部で作ったらしい輪っかだ。


「と言うわけで、最新式の携行可能な宇宙怪獣探知レーダーと君のアレの範囲を制御する腕輪だ」

「前者は前々から研究してたんでしょうけど、後者はよくそんな物を作ってましたね……」

「前者も後者も必要だったから研究していたものだよ。君の為にわざわざ作ったわけじゃない。それに……」

「それに?」

「どちらもまだ研究と開発の途上にあるものだ。正確性、安定性に難がある事は否めない。特に、後者については二回以上の使用は絶対にしないように。最悪、もっと派手に弾ける」

「……。分かりました。それでも嬉しいです」

 どちらも必要な物なのは間違いない。

 前者はメーグリニアの位置を探るのに使えるし、後者はアレの欠点を補えるのだから。

 なので俺は二つのものを受け取ろうとして……。


「あ、勿論タダじゃないからね。使用後には必ずレポートを書いて送る事。後、本体から吸盤、墨、皮膜を少量採取させてくれ」

「はい」

 制された。

 採取はともかくレポートはなぁ……普段書いているレベルのだと、セイリョー社の研究員からは質問が飛んできたり、追試を求められたりして……。


「後、サタがセイリョーコロニーを出てから今までに各企業宛てに送ってたmodの簡易検査の添削もしてあるから目を通して、レポートを書くように。まあ、こっちは今回の件が終わってからで構わないよ。的外れなことは書いてないし、社の業績にも繋がっているからね。でも、研究と言うのは日進月歩なのだから、最新の内容についてのアンテナはきちんと張っておくべき。そうだろう?」

「ぴゅっ……」

 胃が縮んで変な音が出た。


「サタ、次に帰ってくる時はヴィリジアニラ殿下も連れてくると良い。此処は此処で観光のしがいがあるだろうからね」

「ソーデスネー」

 そうして実時間一時間、精神の疲れ的には十数時間に及ぶような行動の結果として、俺は二つの物品とその取扱い説明書を持って、フラレタンボ星系へと転移した。

余談ですが。

ミゼオン博士の見た目は女体化サタと言っていいくらいには、サタが普段使っている人間の姿に似ています。

サタが人形を作るに当たってモチーフにしたのが彼女なので当然なのですけどね。

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