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90:帝国貴族の覚悟 ※

本話はヴィー視点となっております。

「ではそのように」

「ううっ、責任重大になってしまったっす……。でも頑張るっすよ。ウチだって諜報部隊の一員っす……」

 必要な通信を終えた私は操縦席で唸っているジョハリスさんをそのままにして、サタとメモの下へと向かいます。

 どうやら二人も話を終えて、メーグリニアを探し始めているようです。


「サタ。通達があります」

 私はサタに話しかけます。

 私の表情から何かを察したのか、サタも真剣な表情をこちらに向けます。


「通達?」

「はい。フラレタンボ伯爵から今回の件についての通達です。詳細は今、サタとメモの情報端末に送りますが、簡単に言ってしまえば……最悪、フラレタンボ星系を犠牲にしてでもメーグリニアを仕留めます」

「……。ちょっと待ってくれ。文章化された通達をきちんと読み解く」

「待ってます」

 私の言葉に顔色を変えたサタが情報端末を読んでいきます。

 すると、その表情は読み進めるごとに渋いものになっていきます。

 ですが、サタの反応も当然と言えるでしょう。

 なにせ、メーグリニアを仕留めるべく、フラレタンボ伯爵は大きく動いたのですから。

 その内容の一部を挙げるのなら……。


 今から最大168時間……つまり一週間、惑星フラレタンボ1の全域に非常事態宣言及び夜間外出禁止令を発令し、不用意な外出を禁じ、最低限の仕事以外は休みとするようにしました。

 同時に無許可での惑星脱出を試みた宇宙船及びロケットに対しての攻撃許可が出され、牽制や警告を挟まずに即時撃墜が可能になりました。

 さらにはガイドコロニーを閉鎖し、フラレタンボ星系の外に出ることも、中に入る事も出来ないようにし、押し入ろうとすればやはり即時撃墜が許可されるようになりました。


 つまり、フラレタンボ星系の産業を一時的に全て止めて、フラレタンボ星系全体を閉鎖してでも、メーグリニアを仕留めにかかるという事です。


「おまけにメーグリニア討伐の為に必要なものだったと判断されれば、如何なる被害も……それこそ惑星フラレタンボ1ごと唐突に吹き飛ばしたとしても、やった人物ではなくフラレタンボ伯爵が責任を負うって……幾らなんでも覚悟が決まりすぎだろ」

 そして、最悪の場合には相打ちになったとしても殺す。

 それがフラレタンボ星系を治める貴族として、決して看過できない脅威、将来帝国に仇為すことが明らかな脅威、何としてでも倒さなければいけない脅威を発見したフラレタンボ伯爵の覚悟のようです。


「それだけ事態は逼迫(ひっぱく)しているとフラレタンボ伯爵は判断したようです」

「いやいやいや……そこまでじゃないだろ。そこまでじゃないよな? うん、“まだ”そこまでじゃない」

「まだ、ですか。つまり、サタから見ても、成長次第ではそうなり得ると見ているのですね」

「……。そこは否定できない」

 サタがバツが悪そうに返答します。

 どうやらフラレタンボ伯爵の覚悟は決して過剰なものではなかったようです。


「安心してください、サタ。流石に今すぐ惑星ごとなんて話にはなりません。そんな出力を出せるものには、相応の準備時間が必要ですから」

「逆に言えば、準備が整った時点でどうしようもなくなっていたら、惑星フラレタンボ1に住んでいる住民、育ててきた産業、守られてきた自然も含めて、みんな丸ごと、なんだろう? まるで安心できない」

「そうですね。そうなるでしょう。でもそれは決して望ましい事ではありません。誰にとっても」

「だろうな」

 フラレタンボ伯爵の対応は帝国貴族としては称賛されるものでしょう。

 相手が帝国全体の脅威になり得ると正しく判断した上で、最悪に最悪が重なり続けた場合に、どうすれば被害を最小限に抑える事が出来るかを考えた結果なのでしょうから。

 ただ、一般市民にはここまでの思想も覚悟もないでしょうし、無い方が健全ですらあります。

 なので、一般市民には連続猟奇殺人事件の犯人が確定し、それに対処するために緊急事態宣言や夜間外出禁止令、惑星外への航行禁止程度にしか現状については伝えられていませんが。


「ヴィー。もしもメーグリニアを発見した場合には、俺は現地へ直接飛んで対処するぞ。それがヴィーの安全にも繋がるはずだからな」

「許可します。フラレタンボ星系に住む人々の為にも全力を尽くしてください」

 そしてサタは……これまでの付き合いで、そんな最終手段を許容できるような人間ではないと私には分かっています。

 同時に、このような情報を伝えても慌てたり、対処を間違えるような人物でない事も分かっています。

 だから私は申し訳ないと思いつつも、それを表情には出さず、サタに命じます。


「全力か」

「ええ、全力です。何があっても私が責任を取ります。褒賞も望むものを与えます。ですから、何としてでもメーグリニアを撃滅してください」

「分かった」

 なんとしてでもメーグリニアを殺せと。


「だったら……。ヴィー。ちょっと一時間ほど留守にする」

「何処へ行くつもりですか?」

「セイリョー社に顔を出してくる。あそこなら、俺を研究してたから、汎用的な宇宙怪獣対策の一つくらいはあるかもしれない」

「分かりました。その間、こちらで情報を集めておきます」

「ああ」

 サタの姿が消えます。

 サタは以前、ヒラトラツグミ星系とセイリョー社のコロニー、この二か所の座標は取得していて、自由に飛べると言っていたので、それを利用して転移したのでしょう。

 そして、帰りは今は私が付けている髪飾りの座標へと飛ぶことで、戻ってくるはずです。


「メモ、情報収集を急いでください。まずは相手の捕捉からしなければいけません」

「かしこまりました。見つからない場合はどうしますか?」

「その時は私を囮にして誘い出します」

「……。分かりました」

 サタが何を得てくるかは分かりません。

 ですが、何があってもいいように、私たちは動き出し始めました。

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