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9:貴族について

本日四話目でございます。

「良い客、悪い客?」

「ええ、今後の旅の参考にさせていただこうと思いまして。話しても問題ないならよろしくお願いします」

 遊戯室にやってきた俺は早速、船員さんたちに質問をしていく。

 と言っても、ただ質問するだけではなく、遊戯室に備え付けられているレクリエーション……具体的に言えばAIディーラー付きのトランプで遊びながらだ。

 なお、ヴィリジアニラ付きのメイドであるメモクシの目があるので、咎められると面倒になる賭けの類は無しである。

 ガイノイドである彼女なら体内に映像記録装置の一つや二つ積んでいてもおかしくはないからな。


 と言うわけで、ポーカーで適当に遊びつつ話を聞いていく。


「ワンペア。良い客はやっぱりマナーがいい客だな。悪い客はその逆」

「ブタですね。うーん、もう少し具体的に」

「同じくブタ。んー、汚さない、暴れない辺りか?」

「ツーペアだ。まあ、その辺だよな。追加するなら金払いがいい客とか変な文句を言わない客」

 ふむ。

 まあ、当然と言えば当然だよな。

 貨客船に相乗りさせてもらっている身分なのだから、不必要に汚さない、暴れないは社会人としては当然と言える。

 金払いが良ければそれだけ儲けになるし、変な文句を言わない客と言うのは分別を弁えている客なのだから、船員としては困らない、と言う話なのだろう。


「次のゲームだ。お、フラッシュ」

「うーん、またブタですね」

「お前さん、さては弱いな。あ、またツーペアだ」

「俺もツーペア。あ、こういう客もありな」

 ツーペアを出した船員の片方がヴィリジアニラに見えないように胸の辺りで手を動かす。

 うんまあ、美人が居ればそれだけで場が華やぐって話だな。

 聞き咎められないように、俺も含めて全員黙って頷くわけだが。

 なお、俺個人としては個人の美醜にはそこまで拘りがないが、周囲に賛同することで話を進めやすくなるから、一緒に頷くのである。


「ネクストゲーム。ブタか」

「そう言えば昔居たよな。客室に大量の卵をぶちまけていったヤバい客。あ、スリーカードだ」

「居た居た。ああいう客はどれだけ金払いが良くてもお断りだな。ワンペア」

「その人、成人資格証持ってたんです? あ、あー……ロイヤルストレートフラッシュ、それもスペードの」

「「「!?」」」

 俺の札に全員の目が向く。


「なるほど。極端なタイプか」

「賭け無しで正解だったな。こりゃあ」

「イカサマなしで出した奴、俺、初めて見たよ」

「ははははは……」

 周囲がざわつくが……まあ、こういう時には毎度のことである。

 不意にこういう事があるから、賭け事は怖い。

 で、ざわつきつつ、イカサマが無かったを確かめるべく顔を寄せるのもいつものことなわけで……。


「ところでサタさんよ。アンタの目から見てヴィリジアニラ様ってのはどうなんだ?」

 そういう時を見計らって質問をする目敏いものが居るのも、またいつものことである。


「少なくとも本人とお付きはマトモでしょう。後、誰かに追われている感じもないですね。そういう人はだいたい少なからず焦っていますし。隠し事は……あるにしてもこちらには関わりのない範囲かと。とりあえず犯罪の片棒云々はないですね」

「ま、そうだよな。ウチの船員一同、誰が見てもそんな感じだ」

 俺たちはこっそりヴィリジアニラの方へと視線をやる。

 すると、ちょうど待機時間に入ったのだろう、遊戯室に船長がやってきたらしく、二人はナインキュービックで一戦するようだ。


「だからこそ、その先を聞きたい。そっちはヴィリジアニラ様の正体をどう見てる? それともしもこれから何かが起きるとしたら、何が起きる?」

「と言われても……うーん……」

 ヴィリジアニラのお付きであるメモクシは……ヴィリジアニラの背後に居るな。

 盤面を静かに見つめている辺り、やっぱり記録装置の一つや二つくらいは積んでそうな気がする。

 なので俺は声を潜めて答える。


「正体について貴族関係者。少なくとも子爵以上の家の人間だとは思います。これまでの動きを見る限り。ただ、何かが起きるとしたら、政敵辺りから攻撃くらいしか思いつかないですね」

「子爵……男爵はないんだな」

「ないと思います。むしろ子爵家よりは伯爵家の関係者とかの方があると思っているくらいです。身に着けているmodのグレードや身体強化modが常時発動している辺り」

「なるほどなぁ……」

 帝国には皇室と貴族と言うものが存在している。

 これは文明が宇宙にまで広がるに当たって、指導者層の権力の絶対化と指導者層の基礎能力の向上によって生じた地位の差と言うものである。

 地位は上から順に皇室、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵となっていて、フルネームを名乗る際にはこの地位も表すことになる。

 また、上の地位にある人間ほどmodによる各種強化が進んでいて、人間離れした情報処理能力などを持っていると考えていい。


「じゃ、再開で。スリーカード」

「分かりました。ブタァ……」

「まあ、連続では来ないよな。ストレート」

「本当に極端なんだな。ワンペア」

 なお、俺たち平民はそんな貴族の能力に憧れを抱きつつも、貴族になりたいと考えるのは極一部だけである。

 なにせ貴族たちは優れた能力を持っているが故に、それだけ大量の仕事を任され、休日以外は仕事に忙殺されているのが大半であると俺たち平民は知っているからだ。

 それと、頭のおかしい貴族の割合が圧倒的に少ないこと、平民の意見は官僚や議会を通じて上にまできちんと伝わること、平民の生活がだいたい安定していることもあって、だいたいの平民は貴族に対して畏敬の念を抱いているのが、帝国と言う国の現状である。


「ま、俺たちとしては何事もないことを祈りつつ、何かあった時は出たところ勝負をするしかないか。ワンペア」

「そうなるでしょうね。あ、俺は白兵戦しか出来ないんで、手伝える状況ならともかく、そうでない時は基本的に部屋か脱出ポッドで大人しくしてますね。ワンペア」

「おう、それで頼むわ。ツーペア」

「下手に動かれる方が邪魔だしな。ワンペア」

 気が付けばヴィリジアニラと船長のナインキュービックによる対局は、ヴィリジアニラ側に圧倒的に有利な状況へ傾いているようだ。

 打ち筋は素人目で見た感じだとシンプルでスタンダードな王道の打ち筋と言う感じか?

 近接駒、砲駒、壁駒……鹵獲駒や自動駒のような、癖がある変な駒が混ざっているようには見えない。

 うーん、それでこの腕前、やっぱり伯爵家関係者くらいはありそうだなぁ……。


 それはそれとして、俺はこっそりと遊戯室を後にした。

 さて、また話をまとめておかないとな……。

本日分はここまで。

明日もまだ複数話更新予定となっております。

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