89:OSとはなんぞや?
「こいつは酷いな……」
「そうですね。正に壊滅と言う状況になってます」
「メーグリニアが暴れ始めた時点で男爵家の中に居たと思われる人間に生存者は確認されていないようです」
俺たちは『パンプキンウィッチ』の中に避難。
その後直ぐに、『パンプキンウィッチ』は離陸した。
で、ある程度の安全が確保できたと判断したタイミングで、俺は本体で、ヴィリジアニラはメモクシが出してくれた現地近くのカメラでスペファーナ男爵家の様子を確認した。
スペファーナ男爵家は……廃墟としか言いようのない状態になっていた。
「『パンプキンウィッチ』の外装色及び船舶番号の変更が完了したっす。これで諜報部隊に裏切り者が居ない限りは、『パンプキンウィッチ』改め『クールコカトリス』を追える人間は早々居ないっすよ」
「ありがとうございます。しかし、分かってはいた事ですが……下手な団体に知られたら、本当に面倒ごとになりそうな船ですね」
「否定はしないっす。なので、ヴィリジアニラ様も取り扱いには注意して欲しいっす。見つかった相手次第じゃ怒られるじゃすまないっすからね」
「そうですか。そう言えばこれからについてですが……」
ヴィリジアニラとジョハリスの会話の内容は……まあ、スルーしておく。
どこかに行ってしまったからな。
今それよりも気にするべきはメーグリニアが何処へ行ったかだ。
とりあえず地上に居る感じはしない。
何処からもOSが異なるが故に発生する嫌な感じがしないからだ。
メーグリニアが俺のようにその辺を隠せるよう、既になっている可能性もあるが……政府の動きの方が早いな。
メーグリニアには極めて危険な人物として、街頭モニターなどへ指名手配の映像が出されるように、既に手配されている。
この状況でメーグリニアが地上に姿を現しているなら、俺でも分かるぐらいの騒ぎが既に起きている事だろう。
「地下か?」
「可能性としてはあり得ますね。フラレタンボ星系の地下はSwに対応した下水道を配備する都合上、極めて大きな下水路が存在しているとのことですから」
であれば地下かと思ったのだが、メモクシから賛同の声が上がる。
なるほど、直径10メートル近い下水の球体が生じてしまっても流せるようになっていると言うのなら、人間サイズであるメーグリニア一人くらいなら何の問題もなく入り込めることだろう。
下水の球体にせよ、本人の移動にせよ、家一つ廃墟に出来るだけの念動力があるのなら、どうとでもなるだろうしな。
「それとサタ様。こちら、メーグリニア確保に向かった部隊が残した音声データおよび画像データになります」
「よく残ってたな。と言うかもう解析されたのか?」
「突入した隊員が身に着けていた記録装置が、メインとサブ、二つの記録媒体を持つと同時に、どちらかが破壊されるとその時点で情報を発信し、情報の回収を完了できるようになっている。そんな諜報部隊でお馴染みの双子システムになっていたようです」
「あ、なるほど」
メモクシが俺の情報端末にデータを送ってくる。
そこにはメーグリニアの姿と言動が映っているわけだが……。
「それでサタ様。サタ様はメーグリニアの現状をどう判断しますか?」
「カメラ越しでの断定は難しい。けれど、なりたてだが、もう宇宙怪獣モドキじゃなくて宇宙怪獣そのものになっている感じだな。少なくとも人間でない事だけは確かだ」
「言動。特に特別な目が欠かせないと言うものについては?」
「……」
まあ、相手がヤバい事だけはよく分かる。
そして、今後もヴィリジアニラを狙って来る可能性が高いであろうことも分かる。
ただ、特別な目こそが必要だと言う言動についてはなぁ……。
「そもそもとしての話から始めるが、宇宙怪獣ってのは『バニラOS』とは異なるOSを保有し、宇宙空間でも独力で生存及び活動が可能な存在だ」
「そうですね」
「そして、OSが異なるという事は、根本的なルールからして別物の存在であるという事。つまり、OSの保有者が白と言えば、黒だろうが虹だろうが白になる。だから、宇宙怪獣と化したメーグリニアが特別な目が必要だと言ったのであれば、メーグリニアにとっては特別な目が必要なんだろう」
「なるほど。逆に言えばサタ様には要らないと」
「要らないな。美味しく調理された大型魚類の目玉焼きとかなら食べてみたいが、それだって趣味趣向の範疇程度。俺もメーグリニアも宇宙怪獣だが、体を支えるためのルールも強くなるためのルールも全くの別物だ」
まあ、メーグリニアにとっては必要なんだろう。
メーグリニアの中でしか通用しない話だが。
「話を変えます。例の黒幕の手以外で人間が宇宙怪獣になるようなことがあり得ると思いますか?」
「分からないとしか返せないな。俺はセイリョー社の人造人間として生まれるはずだったのに、なぜか宇宙怪獣として生まれてしまった。modのプロであるセイリョー社の研究者が五年かけて調べても、なぜ俺が宇宙怪獣として生まれたのかは分からなかった。だから……」
「だから?」
「例の黒幕関係なしに、切っ掛けさえあれば人間が宇宙怪獣になり得る、と言う仮説を俺は否定できない」
「そうですか」
例の黒幕は人間を任意のタイミングで宇宙怪獣モドキに出来る、これは間違いない。
だが、それは人間が何かしらのきっかけで宇宙怪獣になる可能性を否定するものではない。
だから、今回の件に例の黒幕が関わっているかは分からない。
例の黒幕が干渉する際の空間跳躍を行ったような感覚も感じていないしな。
「と言うかだ。『バニラOS』周りはバニラ宇宙帝国の帝室が管理しているって話じゃなかったか? となれば、ちょっと知識がある程度のアマチュアが関われる分野じゃない。いや、そもそも俺よりもむしろヴィリジアニラの方が情報を得れる分野じゃないか?」
「いいえ、ヴィー様でも難しいと思います。『バニラOS』については、皇帝陛下、皇太子殿下、彼ら直属の研究者くらいしか関与が出来ないと聞いていますので」
「……。むしろ俺が知ってたらヴィーも含めて色々と危うくなる奴じゃないか」
「そうですね。サタ様が知らなくて、メモとしてはむしろ安心しました」
なんだかとんでもない地雷を踏みぬきかけた気がした。
くわばらくわばら。
「コホン。とにかく今はメーグリニアを探し出してどうにかするのが先決だな。アレの放置はどうあっても出来ない」
「そうですね。メモとサタ様で手分けして騒ぎが起きていないか探ってみましょう」
俺は本体で、メモクシは惑星フラレタンボ1各地のカメラで、メーグリニアの姿を探し始める。
メーグリニアがヴィリジアニラを狙って何時か仕掛けてくることは確実であり、今回に限っては襲われるのを待っていては、こちらが不利になるからだ。
「サタ。通達があります」
そして、そうやって探し始めた俺のところに、何かしらの覚悟を決めたようなヴィリジアニラが話しかけてきた。
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