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87:メーグリニアの攻勢

本日は三話更新となります。

こちらは三話目になります。

「サタ様、来ます」

「分かってる!」

 『混ぜられる棘の杯』から不自然な軌道で以って飛び出した水球は、ヴィリジアニラにほぼ密着するように立っている俺たち三人へと向かってくる。

 その軌道は前後左右だけでなく、上からもで、普通の人間ならば逃げようがない状況だ。


 うん、やはりシールドmod、それに環境安定modと言う帝国民なら誰しもが使っているmodの欠点……大量の水による窒息は防げないと言うのをメーグリニアは理解して、突いてきているな。


「おらぁ!」

 が、そんな穴を通させないために俺が居るのだ。

 俺が腕を振ると同時に、水球の一つが弾け飛ぶ。


「らららららあっ!」

 続けて何度か目の前を殴り飛ばすかのように腕を伸ばしては縮める。

 そして、その動きに合わせて次々に水球が弾け飛んでいき、俺たちに向かってきていた水球は全て打ち砕かれる。


「よし、上手くいっているな」

「流石ですサタ」

「ありがとうございます。サタ様」

 俺がやった事はシンプルだ。

 水球に接触する形で俺の本体を一瞬だけ出現させて、その大質量、勢い、纏わせておいたmodで水球を破壊したのだ。

 そして、破壊された水球が再び集まって球体をなすことはない。

 これは俺の本体に纏わせておいたmodの効果で、一時的にフラレタンボ星系のSw及びメーグリニアの念動力modを無効化してあるからである。


「ちなみにサタ様。環境への配慮は?」

「このぐらいのmodなら一週間ぐらいで代謝されて影響がなくなるから大丈夫だ」

「では一安心ですね」

 それが分かっているのか、分かっていないのか、メーグリニアは更に水球をこちらへと向けてくる。

 それだけでなく、周囲の木々の枝葉や小石も飛ばしてくる。

 周りに他の人間が居ない事もあって、なりふり構わずと言った様子だな。

 メーグリニア当人はこの場には居ないのだが、それでも分かるくらいには飛ばしているものの動きが雑だ。


「ただヴィー、万が一の言い訳は頼む。ここは自然保護公園だからな。残らないようにはしたはずだが……フラレタンボ星系のSwは解析しきれてないからな。何か残るかもしれない」

「分かりました。その時は任せてください。その為の私の地位と権力ですから」

 だから俺も雑に対応する。

 フラレタンボ星系のSwに影響されない程度に出した本体の腕を振り回して、俺たちの周囲を薙ぎ払い、全て撃ち落とすと共に墨を撒いて、外からの干渉をできなくする。


「で、メモクシ。衛星からの映像はまだカットできてないのか?」

「どうやら現地当局は衛星そのものの確保を狙っているようです。ですが、もう少しで確保できるかと。それと、メーグリニア本人の確保も狙っているようですので、そちらが上手くいけば、その時点で攻撃は止むと思います」

「前者はともかく、後者は確保じゃなくて殺害を狙って欲しいところなんだがな。人を攻撃する事に躊躇いの無い宇宙怪獣なんて、専門の設備でもなければ抑えておけるような存在じゃないぞ」

「私もそう思います。その旨は向こうには?」

「伝えてあります。信じていただけたかや、受け入れてもらえたかは不明ですが」

 俺たち三人はメーグリニアの攻撃を撃ち落としつつ、少しずつ『混ぜられる棘の杯』から離れていく。

 それに伴って、メーグリニアが攻撃に用いるものも、水球ではなく石や枝葉が中心に……いや、小動物も混ざって来てるな。

 凄まじいスピードで飛ばされてきているので、小動物は飛ばされている最中にミンチになって、赤い塊にしか見えなくなっているが。


「と言うか拙いな」

「っ!? サタ様!」

「分かってる!」

 その事実に俺はメーグリニアにやられると拙い攻撃を一つ思いついた。

 メーグリニアも俺に一瞬遅れて気づいたのだろう。

 メモクシの体が僅かに浮かび上がり、声を上げる。

 それを受けて俺は即座に自分の周囲に墨の煙幕を展開。

 メモクシの体は地面に戻る。


「サタ、メモ。今のは?」

「メモクシの体に念動力で干渉してきたんだろう。ついでに言えば、ヴィーの体にだって破壊ではなく移動目的でなら干渉出来るだろうな。原因は分からないが、メーグリニアの奴、急速に成長してるぞ」

「突然、巨大な見えない手に掴まれたかのように、メモの意思では動けなくなりました。捩じるような挙動もありましたが、そちらはシールドで防げていたようです。ヴィー様も……どうしていいかはメモには分かりませんが、気を付けてください」

「なるほど。危険ですね」

 拙いな。

 これまでは何かしらの制限があって出来なかったであろう生物への干渉、あるいはメモクシのようなシールド持ちの存在への干渉、これらが出来るようになった時点でメーグリニアの危険度が跳ね上がった事になる。

 一瞬でも油断したら、俺はともかくヴィリジアニラとメモクシはどうなるか分かったものではない。

 これはもう、二人を連れてエーテルスペースへと逃げ込むのも手か?


「ん?」

「これは……」

 俺がそう考えていたところで、急に周囲で浮かんでいた物体たちが俺の墨とは関係なしに落ちていく。


「朗報ですヴィー様、サタ様。メーグリニアの保有する衛星が確保されたようです」

「そうか」

「乗り切った、という事ですね」

 どうやらメーグリニアがこちらを認識する手段がなくなり、念動力を伝える事が出来なくなったようだ。

 つまり、この場は乗り切ったらしい。


「じゃあ、とりあえず『パンプキンウィッチ』まで撤退して……」

「メモ。メーグリニア本人の確保は?」

「……」

 俺たち三人は『パンプキンウィッチ』を目指して移動を始める。

 勿論、万が一に備えて周囲には墨を漂わせ、カメラに映らないように注意をしつつだ。

 その移動の最中にヴィリジアニラはメモクシに問いかける。

 問いを受けたメモクシは……俺の目でも分かるぐらいに、望ましくない表情を浮かべている。


「メーグリニア・スペファーナには逃げられました。また、確保を狙った現地の人員及びスペファーナ男爵家は壊滅状態にあるとのことです」

「「!?」」

 そして、メモクシの口から発せられたのは、聞きたくない部類の言葉だった。

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