85:イワーニ自然公園
本日は三話更新となります。
こちらは一話目です。
フラレタンボ星系立イワーニ自然保護公園とは。
まず、フラレタンボ星系立と言う事は、フラレタンボ星系の統治機構が定めて、管理運用をしていると言う事だ。
イワーニについてはシンプルに地名。
自然保護公園とは……簡単に言えば、これ以上人間の手を加えないと決めたエリアだな。
この辺、少々面倒くさい話なのだが……。
まず、バニラ宇宙帝国で現在、人間が普通に暮らしている星と言うのは、大半がテラフォーミングの結果として人が住めるようになった惑星である。
テラフォーミングとは、Swや惑星開拓用の特殊かつ大規模なmodを活用する事によって、人が住めない惑星を人が住めるように改造する事である。
この改造は多岐かつ恒久的なもので、地形変動、気温、気候、果ては重力にまで干渉する事もある。
つまり、テラフォーミングが行われた時点で、その惑星は既に本来の惑星とは別物であり、自然そのままとは言い難い。
なので、自然保護公園とは、自然そのままのエリアと言う意味ではなく、これ以上人間の手を加えないと決めたエリアだと定義されるのだ。
そんなわけで余談になるが、一部の主義主張をしている人間の中には、こんなものは自然公園ではない! なんて叫ぶのも居る。
面倒くさいとはそういう事なのだ。
閑話休題。
「さて、まずは少し奥まで進みましょうか」
「分かった。この辺だとまだアレだしな」
「お供いたします」
『頑張るっす。『パンプキンウィッチ』の中から、応援してるっす』
さて、俺たちはフラレタンボ星系立イワーニ自然保護公園……略称イワーニ公園に着いた。
ジョハリスは『パンプキンウィッチ』に中で待機。
俺とヴィリジアニラは手ぶらかつ動きやすいいつも通りの格好で外へ。
メモクシは小さめのアタッシュケースを抱えた姿で外へ出る。
「流石にすぐさま仕掛けてはこないか」
「『パンプキンウィッチ』の何かを警戒しているのかもしれませんね」
イワーニ公園の奥へと俺たちは向かう。
なお、ジョハリス曰く、イワーニ公園は自然保護公園と定められた場所だが、観光客を呼び込むために安全性と快適性の為に最低限の手は入っているらしい。
だが、フラレタンボ星系自体が田舎星系で、地元の人間にとっては多少珍しい程度であるため、客足は伸び悩んでいるとか……。
うん、知りたくなかった、そんな情報。
でも現に俺たち以外にイワーニ公園に居る人は疎らである。
「そう言えば、フラレタンボ星系の木はどれも背丈が低めみたいですね」
「たぶんSwの影響だな。一定量以上になった液体が球体を形成するのは生物体内でも同じだから、大きくなり過ぎないように淘汰圧がかかるんだろ」
「なるほど」
俺たちは高さが3メートルほどしかない木々の横を木漏れ日を浴びながら歩いていく。
地面には周囲の木々のものと思しき木の実が時折転がっている他、自然と出来上がった道の両脇には青々とした草が生え揃っている。
人間以外の生物は……リスやネズミと言った小型の動物に始まり、猪や鹿、果てには熊や狼の類が居るようだ。
勿論、昆虫の類は大量に生息している。
彼らは俺たちに寄ってきたりはしない。
今の人間は基本的にシールドmodによって守られていて、爪も牙も通らない。
そして、反撃のブラスターmodによる攻撃は防げず避けられないと知っているからだ。
「そう言えばヴィー様、サタ様。フラレタンボ星系のSwについては改修が検討されるそうです。フラレタンボ星系のSwは宇宙怪獣対策になりますが、それと同じくらいに発展を阻害している面があるそうですから」
「そうですか。それは数年……いえ、下手をすれば十数年がかりの大事業になりそうですね」
「まあ、短くてもそんなものだろうな。と言うか、解析だけでも何年かかる事やらだ。複雑すぎて俺には表面しか分からなかったし」
「ですが、成し遂げれば帝国叡智賞へのノミネートもあり得るでしょう。上手くいけば、今後帝国が宇宙怪獣に脅かされる事がなくなるかもしれません」
「なるといいなぁ。星系間移動の超光速航行の度に宇宙怪獣ブラックフォールシャークやアレに準ずる化け物に襲われない事を祈るのはちょっと胃や心臓に悪い」
「宇宙怪獣がそれを言うんですか?」
「言うとも」
そうして歩いていく内に奇妙な造形物……球体に小さなとげを幾つもくっつけたような造形の岩が柱や壁のように聳えているのが見え始めてくる。
アレがイワーニ公園が、自然保護公園と指定されるようになった理由。
イワーニ奇岩地帯だ。
「まるでウニですね」
「栗と言ってもいいかもしれないぞ」
「サボテンかもしれません」
イワーニ奇岩地帯はイワーニ公園の中心部に存在しているエリアだ。
先述の通り、球体に小さなとげを幾つもくっつけたような……つまりはウニ、栗、サボテンに似た造形の岩が、柱や壁のように聳えていたり、植物のように生えていたりする。
中には橋のようにアーチを形成しているものもあれば、球体同士の隙間によって原始的な家屋のような形になっているものもある。
また、岩なので普通の植物の根が内部に張るような事はないが、表面の幾らかを覆うと共に空に向かって枝葉を伸ばして、奇妙なオブジェクトのようになっているものもあるようだ。
専門家によれば、フラレタンボ星系のSwとテラフォーミングの結果として、このような天然の芸術品が生成されたのだろうとのことだが……。
これは正にフラレタンボ星系だからこその光景だろうな。
他の星系で自然に作り出されるような光景ではないだろう。
「さてヴィー様、サタ様。この先がイワーニ自然公園で最も有名な『混ぜられる棘の杯』です」
「ああ、あれか」
「少し楽しみですね」
俺たちは上空からこちらを見ているであろう衛星から身を隠すことなく移動を続ける。
荒い礫が積もって出来たかのような坂を上り、岩の壁の上へと登る。
そうして見えてきたのは……。
「なるほど。これがそうなんだな」
幾つもの奇岩が組み合わさってコップのような形を取り、雨水を蓄え、蓄えた雨水がSwの影響で球体となり、風が吹くことによって球体がかき混ぜ続けられている、奇妙な湖だった。
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