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84:犯人を捕らえるために動き出す

「よっと」

 二か所での調査を手早く終えた俺に対してヴィリジアニラが送ってきたのは、『パンプキンウィッチ』に戻って来て欲しいと言う連絡だった。

 と言うわけで本日三度目の転移。

 俺は検死をしていた施設から、目的地に向かって大気圏内を飛行中の『パンプキンウィッチ』の船内へと移動する。


 余談だが、移動中の宇宙船に転移すると言う行為は、お互いの移動速度を考えると非常に危険な行為であるため、座標の取得か移動先の目視はほぼ必須と言っていい。


「お疲れ様です。サタ」

「ああ。と言っても大したことはしてないけどな。着眼点さえ間違えなければ、後は時間をかければフラレタンボ星系の調査機関でも十分調べられた事しかやってきてない」

「これが宇宙怪獣っすか……」

「いえ、サタ様の努力の賜物です。宇宙怪獣である事と知識の多寡と生かせるかは無関係の事柄ですから」

 さて、戻ってきたところで早速その後についてだ。

 俺は口直しの紅茶を飲みつつ、ヴィリジアニラの判断を待つ。


「さて、サタのおかげで相手の正体は割れました。しかし、捕らえるための証拠がありません。なので、どうにかして証拠を手にする必要があります。それも一刻も早く」

「そうですね。このままでは誰が何時襲われるか分かりません。犯人の動機が分からない以上、メモですら安全とは言えないでしょう」

「ウチも安全とは言えないっす。盗られるような目玉はないっすけど」

「まあ、少なくとも惑星全域が射程。プライマルコロニーも怪しい。下手をすれば星系規模が攻撃射程だからなぁ……」

 とりあえず時間をかけている余裕はない。

 俺の検査とこれまでの事件から察する限り、メーグリニアの攻撃可能範囲は惑星フラレタンボ1の全域だ。

 つまり、次に何時誰が襲われてもおかしくないのが今の状況である。


 なお、メーグリニアの攻撃射程は一人の人間ではあり得ないと断言できてしまう距離だが、宇宙怪獣なら出来て当たり前程度の射程である。

 むしろ狭いまである。

 ヴィーの許可が必要だし、それでもなお使う気は起きないが、俺もとっておきを使えば、惑星間攻撃くらいは出来るしな。


「奪われた眼球を探し出し、そちらから犯人を詰めるのは地元当局に任せます。そう言うのを集めるのに適した場所が何処かと言う情報は私たちにはありませんし、今から探る意味もありませんので」

「相手の得物が念動力なんて訳の分からない力で、獲物をその訳の分からない力で運んでいるっていいうのが厄介極まりないっすけどね。けど、消臭modも利用している以上、痕跡は確実にあるはずっすから、任せて欲しいっす」

 あ、折角だから念動力についてまとめた資料を送っておくか。

 三年位前にセイリョー社でちょろっと齧った程度だから、俺の手元には大した情報はないが、一般的なmodでもないから、フラレタンボ星系の治安維持機構の邪魔にはならないだろう。


 で、念動力だが……これは身体強化modの一種であり、超能力modとも俗に呼ばれる。

 普通の身体強化modが肉体を強化していった延長線上にあるのに対して、超能力modは念動力、発電、発火、読心、透視と言ったmodを組み込まれた生物が本来持ち合わせていない能力を得ることを目的としたmodだ。

 メリットデメリットは色々とあるが……。

 主なメリットは体に組み込まれている事で、常時使用可能であるという事。

 主なデメリットは意識一つで使えてしまうために、うっかりが非常に怖い事。


 ブームとしては1000年ほど前に一世代分くらいの期間であったのが最大であり、今では先祖返りのような形で偶々発現するか、一部の貴族、傭兵、軍人が特別な許可を得た上で新規に取り入れるぐらいだが……どちらも滅多にある事ではないな。

 なお、ブームが去った理由としてはなにせどんな超能力が合うかは個人ごとに異なるし、威力もまちまちで、それだったら誰が使っても同じ効果なブラスターmodやシールドmodの方があらゆる意味で都合が良かったと言うものである。

 そして、再ブームになる兆候もない。


 ちなみに、ヴィリジアニラの目は分類上はただの身体強化modである。

 極まりすぎて未来視なんて呼ばれるほどになり、もはや下手な超能力modよりも超能力と化しているようだが、それでも分類上は身体強化modである。

 宇宙怪獣である俺が言うのもなんだが、ものの分類とは時に理不尽なものである。


「ではヴィー様はどうなさるのですか?」

「勿論役目を果たします。つまりは囮ですね」

「狙ってくるのか?」

「メーグリニアの動機は分かりませんが、彼女が眼球に対して強い欲を抱いている可能性が高いのはこれまでの犯行から見て取れます。であれば、身体強化modの影響が傍目にも明らかなほどに特別な私の目は、彼女にとって喉から手が出るほどに欲しいものでしょう」

 なるほど、確かにメーグリニアがヴィリジアニラを狙って来る可能性はありそうだ。


「ちなみに確証もあります。サタが捜査に出ている間に確かめたのですが、今朝から『パンプキンウィッチ』を監視するように同じ衛星がカメラを向けてきているので」

「はい?」

「本当です。メモが調べたところ、メーグリニアが個人所有している衛星であると言う調べも先ほどつきました」

「えーと」

「実は『パンプキンウィッチ』、既に惑星フラレタンボ1の上を一周半近く移動してるっす。けど、その間、一瞬も衛星の映している範囲から逃れられてないっす。特殊な移動modかと思っていたっすけど、たぶん、これも念動力って奴だと思うっす」

「あ、なるほど」

 あ、はい。

 狙って来る、ではなくて、もう狙ってる、と。

 じゃあ、囮には間違いなくなりますね。


「そう言うわけですので、私たちは星系立イワーニ自然保護公園へと向かいます。そこで囮として、メーグリニアの攻撃を待ち、相手の攻撃手段を確保します。よろしくお願いしますね、二人とも」

「分かった」

「了解いたしました」

「星系外の人に頼る事になってしまって悔しいのが本音っすけど、どうか頑張ってくださいっす!」

 こうして俺たちはフラレタンボ星系立イワーニ自然保護公園へと向かう事になった。

 なので、俺は到着までの短い時間で、フラレタンボ星系立イワーニ自然保護公園がどういう場所なのかを頭に叩き込むことと共に、必要なものの作成を急ぐことにした。

なお、ヴィーは地上から衛星の目視判別が出来る模様。

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