82:これまでに起きていた事件
「宇宙怪獣モドキ……そんなのが居るなんてマジっすか……」
「マジです。詳しく説明しますので、記録と共有の準備をお願いします」
「わ、分かったっす」
さて、メモクシがジョハリスに『ツメバケイ号』の一件と、グログロベータ星系の一件で遭遇した宇宙怪獣並びにその背後に居るであろう黒幕について説明をしてくれている。
なので、俺たちはその間にこれまでの連続猟奇殺人事件についての情報も得る事にした。
とにかく情報不足な現状では、このまま引きこもっていても脅威が強まるだけとヴィーの目が告げていても、外に出るわけにはいかなかったからだ。
そして直ぐに気付く。
「最初の犯行はこれか。惑星フラレタンボ1の山奥、猟師の男性が襲われたと」
「それ以降の犯行についても、基本的には夜間、人目及びカメラがない場所で、被害者が一人でいるところを襲っていたようですね」
「だが、段々と現場が都市に近づいてきているし、プライマルコロニーでも一件だけだが既に起きている」
「そして遂には夜間とは言え、人前で堂々と、ですか。もはや、一刻の猶予もない、と言う感じですね」
「だな。もう何時誰が何処で襲われてもおかしくない状況だ」
徐々に犯人の行動が大胆になってきている事に。
たぶんだが、自分の犯行方法に味を占めたんだろうな。
まあ、気持ちだけなら理解する。
相手が理解できない圧倒的な力で蹂躙をすると言うのは、生物的な本能に対して強い快楽をもたらすと言うのは、俺も知識では知っているからだ。
後、これまで犯人の目星がついていなかった理由も分かった。
何処のカメラやセンサーにも犯人は映っていなかったし、消臭系のmodでも使われたのか匂いによる追跡も出来ていなかったようだ。
まあ、まさか軍用シールドmodを貫けるスペックの遠隔操作modが使われているなんて思うはずもないので、仕方がない。
素人の雑な計算になるが、透明化や無音化と言った部分を排除してもなお、動力源として要求されるのが大型自動車並みで、他のmodも合わせれば宇宙船規模の動力源が必要となり、とてもではないが惑星各地で事件を起こせるとは考えづらいからだ。
「えーと、最初の事件近くで起きている別の事件と言うと……フラレタンボ星系近くで起きていたギガロク宙賊団の生き残り同士による衝突事故がありますね。生存者は無し。ただ、元が宙賊の船であったから、何人乗っていたとかの情報はない、と」
「ギガロク宙賊団……まさかとは思うが、そこにモドキが乗っていたか?」
「あり得ますね。モドキでも宇宙怪獣は宇宙怪獣です。そこから惑星フラレタンボ1へと降下して……いえでも、それならフラレタンボ星系のSwの影響を受けますね。影響を受けないようなサイズでは辿り着けないでしょうし」
「いや、回収物の方に付着していたとかはあるかもだ。だから……回収物に変な物はないな。非炭素生物の宇宙怪獣ってのもあり得なくはないが、検査結果を見る限り、本当にただの残骸か。ただ……」
俺はヴィリジアニラの方を見る。
ヴィリジアニラは俺の顔を見て、頷いている。
「何かしらの関係はある。私の目はそう告げてますね」
「密かに誰かが変なのでも持ち帰ったか? で、調査メンバーにはしっかりとスペファーナ男爵の名前もある、と」
可能性は色々と考えられる。
なので、変な事を言っても妄想にしかならないだろう。
だが、ギガロク宙賊団とモドキを生み出す黒幕の間に繋がりがあるのは確実で、そのギガロク宙賊団が起こした事故とスペファーナ男爵家の繋がりも確実になった。
スペファーナ男爵家……正確にはメーグリニア・スペファーナと連続猟奇殺人事件との繋がりはヴィリジアニラの目でしか確認できていないが……ある意味では、今朝の事件で繋がったと言えるだろう。
おまけにメーグリニアは『宇宙怪獣教』の信徒らしいので、モドキであっても遭遇すれば何かありそうな気がする。
うん、とりあえずもう犯人と宇宙怪獣モドキに何かしらの繋がりがあると言うのは、俺個人では確信を持っておこう。
その確信を持って対処した方が、安全だし確実だ。
「さて、ここからどうするかだな」
「説明、終わりました」
「はー、とんでもない大事になりそうっす……いや、今も十分大事っすけど」
「……」
さて、此処までの情報を受けて、ヴィリジアニラは何かを考えている。
メモクシの方の説明も終わったらしい。
此処からどうするかはとりあえずヴィリジアニラの判断待ちになるわけだが……。
「サタ」
「なんだ?」
「現場及び今朝の被害者の検死場所に行って、犯行に使われたmod解析の協力をお願いします。必要な許可はこっちで得ますので、全力での鑑定をお願いします」
「分かった。ついでに眼球が何処に持ち去られたのかを探ったりとかもした方がいいか?」
「可能ならばお願いします」
「了解」
とりあえず俺は捜査協力、と。
そうなると、まずは一度現場に飛んで確認。
それから検死しているところに行って、被害者の傷口あたりの血でも舐めてみるのが、一番早いか。
「それでヴィーたちは?」
「当初の予定を少し変更して、フラーレンパッディから離れた土地での視察から始めます。やはりこの場に留まり続けるのも、『パンプキンウィッチ』の中に居続けるのも良くないようなので」
「なるほど。じゃあ、終わり次第合流する」
「お願いします。それまではこちらも最大限の注意を払って行動しますから」
で、ヴィリジアニラたちとは一時別行動になると。
うん、それなら急いだほうがいいな。
相手の手口が分からない以上、安全圏が何処にあるのかだって分からないのだから。
「ヴィー様、サタ様。連絡と許可が取れました」
「じゃ、早速行ってくる」
「はい」
と言うわけで、メモクシが許可を取ってくれたところで、俺は人形が居る場所の座標を書き換える。
そして、『パンプキンウィッチ』の船内から、今朝の現場から数百メートルほど離れた人目のない路地へと転移した。