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81:連続猟奇殺人事件

『おはようございます。本日は帝国歴……』

 フラレタンボ伯爵家でのお茶会を終え、一夜が明けた。

 夜間、俺はメモクシに頼まれていたものを引き続き作っており、メモクシはメモクシで今日の日程の調整や調べものをしているようだった。

 で、ヴィリジアニラが普通に起きて来て、さて一緒に朝食でも食べに行こうかと言う時だった。


『また事件が起こりました。本日未明、惑星フラレタンボ1の首都、フラーレンパッディの路上にて男性が襲われて死亡。死亡した男性からは両目が奪われていたとのことです』

「!?」

「え……」

「……」

 情報源の一つと言う事で点けておいたテレビから、新たな連続猟奇殺人事件が起きたと言うニュースが流れてきたのは。


「ヴィー様、サタ様。申し訳ありませんが、朝食は『パンプキンウィッチ』の中に移動してになります。今朝の事件についてメモとジョハリス様から説明がありますので」

「……。分かりました。向かいましょう」

「分かった」

 どうやら俺たちに流すべき情報があるらしい。

 俺たちはホテルをチェックアウトすると、『パンプキンウィッチ』に乗り込み、物理的、電子的に完全に隔離された空間で朝食を摂りつつ、今日の午前2時ごろに起きたらしい事件について聞くことになった。


「では、順番に説明するっす。言うまでもない事っすけど、ニュースに出していない部分の情報もあるんで、取り扱いは慎重にお願いするっす」

「分かっています」

 では事件の概要。

 まず現場はフラレタンボ星系全体の首都であり、惑星フラレタンボ1の中心地でもあるフラーレンパッディ……つまりは俺たちも居るこの街だ。

 もう少し詳細に述べるならば、スペファーナ男爵家前の路上であり、周囲に多少の店もあるある程度人通りのある道となる。

 そして被害者は……ヴィリジアニラの言葉を受けてメーグリニア・スペファーナを見張っていた帝国軍諜報部隊の部隊員である。


「申し訳ありません。私の意見のせいで犠牲を出すことになってしまって」

「ヴィリジアニラ様が気に病むことはないっすよ。ヴィリジアニラ様の意見を受け入れるか否かを決めたのはウチらっす。それでも何か思うところがあるなら、彼の犠牲を無駄にしないように、何かを見つけて欲しいっす」

「分かりました」

 被害者の状況について書かれている部分は、当然ながらニュースでやっていた範囲とは比べ物にならないぐらいに詳しい。

 えーと、氏名や年齢、これまでの経歴も書かれているが……この辺は新人を抜け出したぐらいで、特に気になる部分もないな。

 状況としては、スペファーナ男爵家前の道を歩きながら、メーグリニアの部屋の電波状況などをチェックしていたようだ。


 うん、メーグリニアの部屋の中を監視していたり、情報端末へのハッキングなどは別の人間がやっていたらしい。

 どちらも成果無しだったようだが。


「背中をチェーンソーのようなもので一撃。だが、そんな殺し方なのに犯人を目撃した人間が居ない。と言うより、犯人がそもそもこの場に居ないのか?」

「その可能性が高いっす。斬られた瞬間を見ていた市民も居るっすけど、返り血が当たった相手が居ないっすから」

 状況の続き。

 被害者は背中を突如として斬られた。

 傷口は、円軌道を描くように行き来する細かい刃物のようなもので、何度も切り裂かれたようなものであり、心臓にまで達している。

 すると当然ながら大量の血を噴き出したわけだが……。

 目撃者によれば、被害者の背中から噴き出した血は空中で何かにぶつかることもなく、路上に飛び散ったようだ。


 で、そんな状況になれば、現場は直ぐにパニック状態に陥るし、警察への通報も直ぐに行われた。

 そして、周囲に居た他の諜報部隊の隊員によって、警察が着くまで被害者に近づいた人間は限られているし、その限られた人間……つまりは救命措置などを取ろうとした人間に怪しい挙動が無いことも確認されている。

 なのに、気が付けば被害者の両目は失われていた、と。


 ちなみに被害者が諜報部隊の隊員という事で、彼は自分の前後を映す超小型カメラと録音用の超小型マイクを持っていた。

 そして、それらから得た情報は腹と脚の記憶装置で保存し、彼が死ぬか記憶装置のどちらかが破壊されたら自動で情報を送信すると言うシステムが組まれていた。

 が、カメラには怪しいものは映っておらず、マイクも異常な音を拾ったりはしていなかった。


「犯行に用いられたのは、物体を遠隔操作するようなmodでしょうか?」

「普通に考えればそうなるっす。軍用のシールドmodをぶち破って、そのまま致命傷を負わせるなんて、マトモな出力のmodじゃないっすけどね」

「おまけにチェーンソーのようなものとは言いますが、細かい刃の破片は見つかっていないようですね。目玉を奪い取った方法も当然不明。厄介ですね」

「物体の遠隔操作なぁ……。現象だけを見るなら確かにそれが一番あり得そうではあるんだが……」

 もう少し詳細を見るか。

 被害者の身長は180センチ程度だが、傷口からして刃物は斜め上から振り下ろされたような形。

 真後ろに犯人が居たなら、身長200センチくらいの大柄な人間の犯行になるな。

 まあ、返り血の軌道からして、居なかったのはほぼ確実なようだが。


 では、物体の遠隔操作modを使えばどうなるかと言う話だが……。


「難しいぞ。確かに工具の中には特定の軌道で刃物を高速移動させ続けるmodと言うのはある。けれど、アレはかなりの風切り音や振動音を伴う。そして、mod付与の対象は頻繁な交換が必要になる刃ではなく、レールの方でないといけない。だが、今回の現場ではレールはおろか、刃すら見えてない。まるで透明無音のチェーンソーが突如として振り下ろされたかのようになってる。そしてそもそも、その手のmodは構成に余裕がないから……」

「つまり、普通のmodでは無理、と言う事ですか?」

「普通どころか最新の一歩先でも無理だと思う。これだけじゃ眼球をどうやって持ち去ったのかも分からないしな」

 少なくとも俺の知識の範囲内では無理だ。

 透明無音の刃を高速回転させて、シールドmodを破壊し、破壊に伴う反発力も無視して、そのまま被害者を絶命させる、そんな事は。

 modによる現実改変にだって元手や付与先は必要だし、詰め込める限界だってある。

 セイリョー社の基準で考えるなら、少なくとも現場では軽度の事象破綻が発生していなければおかしいぐらいにはmodが重ねられている。

 が、甘い匂いも不快な臭いも報告には上がってない。

 つまり、事象破綻はこの場では起きていないという事になる。


「となれば、例の黒幕ですか?」

「……。ない、とは言えなくなってきたな」

「ん? 何の話っすか?」

「ジョハリス様。メモが説明します」

 だが、そもそもとしてmod技術無しで出来るような犯行ではない。

 となれば、もはや俺たちに思いつくのは例の黒幕……宇宙怪獣モドキすら生み出して見せる謎の技術を保有をしている者から、犯人が技術供与を受けているくらいだった。

11/06誤字訂正

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