80:お茶会を終えて ※
今回はヴィー視点となっております。
「ふぅ。お茶会は無事に終わりましたね」
「だな。なんと言うか疲れた」
「それはサタ様が慣れていないからですね。目的は果たせましたし、例の連続猟奇殺人事件についても怪しい人物が浮かび上がりましたから、上々だったとメモは思います」
ホテルに着いた私は一度『パンプキンウィッチ』に移動し、衣服を普段着に戻します。
ただ、サタが贈ってくれた髪飾りについては、まだ状況が状況であるため、着けたままにしておきます。
「うーん。アレに慣れたいとは思えないな。と言うか、お茶会でアレという事は、利益が相反する者同士での話し合いとか、慣れていない人間だと胃に穴が開くんじゃないか」
「適性の無い方がそういう場に赴くと、トラウマになる事もあるとは聞きますね」
「サタ。安心してください。私も今日のような場はそこまで好きではないですから」
しかし疲れました。
バニラゲンルート子爵家の名前を出している以上は、言い間違いや言質の類は取られないようにしなければいけません。
それに、一部の人は私が皇帝陛下の庶子として扱われていることも知っているので、そういう方たちを失望させないように立ち回らなければいけないので、そちらにも気を使っていました。
結果、今の私はホテルの自室でサタとメモ以外には見せられないようなだらけ具合を見せています。
「それでこの後は?」
「私たち自身については……明日以降はフィーカンド社の缶詰工場、フラレスーデン社の菓子工場、スフィプールホテルのレジャー施設を含めた、惑星フラレタンボ1の地上にある施設の見学と視察になりますね」
「移動手段については、都市内では車。都市外では『パンプキンウィッチ』を活用する事になります。どうやら諜報部隊の上の方は、ジョハリス様はメモたちがフラレタンボ星系内に居る限りは専属とするつもりのようです」
サタの言葉を受けて、私は明日以降の予定を決めるべく惑星フラレタンボ1の地図と、惑星上に工場や施設を持つ企業の情報を眺めていきます。
幸いにしてジョハリスさんと『パンプキンウィッチ』があるので、これまでに訪れた星系のように移動手段の確保に苦労するという事は考えなくてもいいようです。
「連続猟奇殺人事件については、俺たちは待つだけでいいんだよな」
「と言うより、待つ以上の事をするわけにはいきませんね。フラレタンボ星系の治安維持を取り仕切っている帝国軍と警察の面子もありますから。それでも、襲われたのなら反撃はします」
「当然ですね。ヴィー様を傷つけさせるわけにはいきませんから」
連続猟奇殺人事件については、私の目で見る限りではメーグリニア嬢が関わっている事はほぼ間違いありません。
ただ、この目で見た結果として、関連があると認識しているだけなので、第三者が納得できるような証拠はゼロ。
よって、彼女が怪しいと伝える事しか出来ませんし、してはいけません。
証拠もないのに逮捕をするなど、ただの犯罪行為であり、帝国の治安と安寧を守るものとして絶対にやってはいけない事ですから。
「……。ちなみにホテルで事が収まるまで数日大人しくしていると言うのは?」
「それは……止めておいた方がよさそうですね。どうしてか、そうするつもりになった途端に、脅威が飛躍的に強まったように見えますから」
「大人しくしたら状況悪化って事は、やっぱりどこかで何かは起きているのか」
「そう考えてよさそうですね……」
なお、サタの指摘を受けるまで気づいていなかった選択肢を見たところ、一気に危険が増すのが見えたので、どうやら無意識的に、その選択肢は外していたようです。
私自身の目ではありますが、相変わらずよく分からない性能をしています。
「ところでメモ。スペファーナ家については?」
「調べました。今出します」
動かざるを得ないなら、少しでも相手の情報を得てから動くべきでしょう。
メモが私の求めに応じて、お茶会から今までの短い時間で調べられたスペファーナ男爵家についての情報を出します。
「スペファーナ家は本人も言っていたように、フラレタンボ星系に詰める帝国軍の軍事研究部門を統率している家の一つのようですね。特に重視していると言いますか、主に研究しているのは観測に関わる分野のようです」
「へー、という事は、あの宇宙怪獣の写真をたくさん持ってた人が務めてるレンズメーカーとも?」
「テヒローカクオー社ですね。もちろん関係があるようです」
ふむふむなるほど。
現スペファーナ男爵はメーグリニア嬢の父親で、彼女は二人の兄と弟を一人持つ、スペファーナ男爵家の一人娘。
『宇宙怪獣教』の信徒であることは公言していて、宇宙怪獣の観測と探求を望んでいることも明らかである。
勉学は惑星フラレタンボ1で初等から大学までであり、フラレタンボ星系外へ出たことは数度ある。
経歴上怪しい点は見つからないし、長期間行方知れずになっていたようなこともない、と。
なお、今日のお茶会でスペファーナ男爵の名代としてあいさつ回りをしていた件については、スペファーナ男爵は今日のお茶会では裏の方で宇宙怪獣対策について話し合っていて、表に出てこれるような状況ではなかったからという事のようです。
つまり、簡単に調べられる範囲では、少し宇宙怪獣に興味があるだけで、真っ白な人間、と言う結論になるようです。
「うーん、外したかしら? でも、私の目は変わらず彼女が犯人と告げているのよね……でも、そもそもとしてどうやって彼女は捜査の目から逃れて……」
「ヴィー様。明日の為にも今日はもうお眠りください」
「……。そうね。そうするわ」
どうにも分からない事がある、そんな思いを抱えたまま、私はベッドに入り、目を瞑りました。