8:航行日程
本日三話目でございます。
「もぐもぐ。ごくん。ごちそうさまでした」
さて、食事は満喫させてもらった。
流石にこのクオリティの食事が毎回必ず出てくるとは思えないが、それでもこれから三日間……単純な時間で言っても丸二日ちょっとになる旅路に出てくるものへの期待が持てる良い食事だった。
『本船『ツメバケイ号』はヒラトラツグミ星系プライマルコロニーのランディングエリアから離脱することに成功しました。これより亜光速航行に移行し、ガイドコロニーへと向かいます。到着予定時刻は帝国共通時刻で……』
「さて……」
俺は食堂備え付けの窓を見る。
そこに映っているのは、ネジ型の大型コロニーと、それに発着する無数の宇宙船。
どうやら無事にプライマルコロニーから出発できたようだ。
さて、ここらで一度改めて、三日間に及ぶ今回の『ツメバケイ号』の航行日程について確認しておくとしよう。
まず出発はヒラトラツグミ星系のプライマルコロニー。
目的地はグログロベータ星系の第一プライマルコロニー。
プライマルコロニーと言うのは、その星系内でも大きいとか、賑わっているとか、そう言う人の動きのメインになっているコロニーを指す言葉である。
つまり、今回の『ツメバケイ号』は大きなコロニーから別の星系の大きなコロニーへと求められた荷物を運ぶ仕事をしているわけである。
で、一日目の今日はグログロベータ星系への超光速航行を行えるポイント……ガイドビーコンとそれに併設されたガイドコロニーと呼ばれる施設を目指して移動している。
プライマルコロニーのランディングエリアと言う、制限がかかっているエリアも離れたので、今現在は亜光速航行と言う、光の速さの数十%と言うmod抜きでは実現不可能な速さで向かっているはずである。
そうして着いたガイドコロニーで検査を色々受けて……。
明日の二日目は丸一日超光速航行を行い、ハイパースペースと呼ばれる特殊な空間の中を移動。
グログロベータ星系側のガイドコロニーに到着することになるはずだ。
そして、着いたガイドコロニーでまた検査を受けて……。
明後日三日目の正午過ぎくらいには、グログロベータ星系のプライマルコロニーに到着。
と言う予定になっていたはずである。
「やっぱりmodの力は偉大だな……」
なお、宇宙とは広大なものであり、星系間の空間は光の速さでも何年もかかるものである。
また、一般的な物理学の範囲で話をするならば、質量のある物体が光の速さに近づくと、時間の流れが遅くなったり、重くなったり、色々と変化が生じ……とりあえず光の速さに到達することは出来ない。
が、帝国のmod技術……局所的事象改変はそんな物理学を文字通りに過去のものとした。
光の速さでも数時間かかる旅程を半日程度に抑えられるような亜光速航行技術、特定区間に限って光の速さを超えての移動を可能にした超光速航行、そんな超光速航行よりもさらに早く情報を伝達する超光速通信。
そして、それら交通のインフラを維持するためのシールドや、宇宙船の中でも地上と変わらずに生活できるようにする環境安定modに重力modなどなど。
先述の通り、今の帝国の繁栄はmodありきだと言ってしまっても過言ではないだろう。
「メモ」
「はい、ヴィー様」
で、そんなmod技術であるからこそ、民間にも降りてきた。
武力方面で話をするならブラスターmodと言う光線を放つことで殺傷を行うmodや、身体能力を向上させるmod。
保存方面で話をするなら、腐敗を起きなくさせる停止modや、自動的に清潔さを保つ洗浄mod。
加工方面で話をするなら、特定の味を付けるmodに、指定したとおりに物を刻めるmod。
そんな感じに今の帝国では庶民でもmodを活用して生活を送っている。
だからこそ中には……まあ、良からぬmodもあると言うか、正規のmodであってもよからぬ使い方をする奴も居る。
ヴィリジアニラが疑問に感じた飲食店についても十中八九そう言う輩だろう。
問題はどういう方向性であるかだが……まあ、ヴィリジアニラが腹を壊したとかって話ではなさそうだし、精々が味の改変を行ったくらいだろう。
ぶっちゃけ小物だ。
これは俺がmodの検査と調査を行うセイリョー社の人造人間だからこそ知っている話になるが、世の中には効果発動から数時間後までだいたいの毒物を無毒化するmodを用いて、有毒食材をそうとは教えず、珍味として客に紹介、食わせ、その後客が死んでも知らぬ存ぜぬを貫いたサイコパスあるいはシリアルキラーな飲食店と言うのもあるからな。
そう言うのに比べれば、食えるものを出しているだけマトモだよ、うん。
なお、件の飲食店の店主は当然ながら捕まったし、死刑に処されている。
「サタさん。この後の予定はありますか?」
「この後ですか? そうですね……遊戯室の方で船員の方々にインタビューをしようかなとは思ってます。貨客船としてはどんな客なら嬉しいかとか、逆にどんな客はお断りなのか、そういった話は船員さんに聞いてみなければ分かりませんから」
「なるほど。では、ご一緒させていただいてもよろしいでしょうか?」
「構いませんよ」
この後は夕食の時間まで、船員さんたちにインタビューをと思っていたが……。
この分だと明日改めてする必要があるかもな。
ま、とりあえず今日話せることから聞いていくとしよう。
俺とヴィリジアニラは昼食のトレーを片付けると、食堂を後にした。