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77:訪ねてきた人物は?

「お初お目にかかります。ヴィリジアニラ様」

 さて、スーツを着た5人の男性が近づいてきたわけだが……。

 まずは代表者っぽい男性が挨拶をする。

 で、順に用件を告げていく。


「私はフィーカンド社の社長でして……」

 一人目はフィーカンド社と言う、フラレタンボ星系の魚を用いた缶詰食品を作っている企業の人間だな。


「私はフラレスーデン社の取締役の……」

 二人目はフラレスーデン社と言う、フラレタンボ星系でメジャーな穀物である米を用いたお菓子を製造販売している企業の人間だ。


 この二人は食品に関係する企業という事で、今回のお茶会に呼ばれた人間だな。

 と言っても、兵站にそこまで関わる人間ではないので、裏には呼ばれない立場だ。


 で、どうやらヴィリジアニラの各星系での表向きの活動……観光や食事を重視していると言うのは案外知られている事であるらしい。

 同じお茶会に呼ばれていて、ヴィリジアニラは一見暇そうにしている。

 ならば、折角の機会という事で、時間や興味が合うならば自社を見学しませんかと、ヴィリジアニラに誘いをかけてきたようだ。

 一人で来なかったのは……まあ、今の使用人たちに囲まれているヴィリジアニラの姿を見れば分からなくもないな。


「私はスフィプールホテルの総支配人でして……」

 三人目はスフィプールホテルと言うホテルの人間。

 フラレタンボ星系のSwを生かしたレジャー施設であるらしく、地元民からの人気もそれなりだが、それだけでは……と、考えているところに、フラレタンボ星系の外からやってきたヴィリジアニラの存在を知り、営業をかけてきたようだ。

 宇宙怪獣には関係ない人物のようだが……休息のための施設と考えれば、軍と無関係とは言えなくもないか。


「なるほど。そういう事でしたら、記事内容の忖度は出来ませんし、こちらの用事もあるので必ずとはなりませんが、機会があればお伺いさせていただきます」

「おお、ありがとうございます」

 と言うわけでヴィリジアニラはその三人の要請を受け入れる事にした。

 うん、この三人の営業はマトモだったし、受け入れても何も問題はないな。

 観光先としても悪くはなさそうだしな。


「さて、そろそろよろしいかな? 私はニリアニポッツ星系のスペースフライトレースのレーサーで……」

「お引き取りを」

「え……」

「二度同じことを言わせるのですか?」

 で、四人目だが……こいつは駄目だった。

 えーと、ニリアニポッツ星系と言うと、フラレタンボ星系の次に向かう星系だったな。

 そこでプロレーサーとして活躍しているらしい人間だったのだが、名乗りを上げた直後にヴィリジアニラを口説こうとして、速攻で拒否された。

 そして、拒否された後も口説こうとしたため、使用人たちによって運び出されていった。


 流石はフラレタンボ伯爵家に仕える使用人と言うべきか、全員がそうではないようだが、一部は身体強化modを使いこなし、多少の荒事もこなせるようだ。


 なお、そんな男とは思っていなかったのか、他の四人の男たちは誰もが唖然としていた。

 まあ、偶々その場で会って、向かう先が同じだっただけの相手の事なんて詳しくは知らないよなぁ……うん。


「それで貴方は?」

「あ、はい。私はレンズメーカーのテヒローカクオー社に勤めている者でして、この度はヴィリジアニラ様に宇宙怪獣ブラックフォールシャークについてお尋ねしたく参ったのです」

 さて五人目。

 この人は会社の営業ではなく、趣味の都合でヴィリジアニラを尋ねたらしい。

 なんでも、趣味で天体観測をしていて、遠方の天体に生息している大型宇宙怪獣の観測もしているそうだ。

 だが当然ながら、間近と言えるほどに宇宙怪獣に近づいたことはないし、詳しくもない。


 そんなところで今回のニュースを聞き、少しでも宇宙怪獣について知りたいと、この場にやってきたようだ。


「申し訳ありませんが、私が知っているのはフラレタンボ伯爵に話したので全てですので、貴方のご希望には沿えないと思います」

 と言っても、ヴィリジアニラは既に話せることは話し終えているので、渡せる情報はない。


「そうですか。貴重なご時間を割いていただきありがとうございます」

「あ、ちょっと待った。ヴィーからじゃなくて俺からの頼みになるんだが、観測した宇宙怪獣の写真とか映像はあるのか? あるなら見てみたいんだが」

「ああそれなら、こちらにございます。ご覧になられますか?」

「ええ是非。ありがとうございます」

 むしろ、彼が持っている情報の方が有用かもしれない。

 そう判断して、俺は彼が情報端末で出した映像を見ることにする。

 今回の件に関係があるためなのか、他の三人に、ヴィリジアニラ、メモクシ、使用人たちの目も映像に向けられている。


「こちら、我が社の最新製レンズも利用した画像になりまして、フラレタンボ星系から20光年ほど離れた場所にある別星系を映したものですね。だいたい20年分ほどありまして……」

「「「……」」」

 結果から言わせてもらうと……俺たちが持っている情報よりもよっぽど有用だった。

 この人物、フラレタンボ星系からは出たことが無く、趣味を多くの人に語った事もない。

 しかし、自社製品の性能調査の一環も兼ねて、天体観測と宇宙怪獣観測は地道にほぼ毎日やっていたそうだ。

 のだが、それだけに特定の方向を穿ち続けていたわけで、その穿っていた方向が偶々よかったらしい。

 彼が出した映像には惑星サイズの宇宙怪獣が何頭も映っていたのである。

 しかも、俺が知らないような個体も含めてだ。


 勿論、フラレタンボ星系から20光年離れた距離にある星系という事は、この星系に撮られた宇宙怪獣が居たのは、映像が撮られた日時よりも更に二十年も前の事になる。

 だが、超光速航行が可能な宇宙怪獣にとっては20光年とはそこまで大した距離ではない。

 その程度の距離しか離れていない場所に惑星サイズの宇宙怪獣が何頭も居るとは……フラレタンボ星系のSwが宇宙怪獣避けに偏るのも納得しかない光景だった。


「この方を今すぐ伯爵の下へ送って差し上げて。私よりもよほど重要人物よ」

「「「かしこまりました」」」

「へ? え?」

「大丈夫です。貴方のお持ちの情報が正しく高く買われるだけですので」

「は、はあ……えと、その、ありがとうございます?」

 そんなわけで彼はフラレタンボ伯爵家の使用人たちに護衛されて、伯爵の下へと向かっていった。

 彼の情報によって宇宙怪獣についてどの程度明らかになるのかは分からないが、この上なく貴重な情報となる事だけは間違いないだろう。


「世の中、思いもよらぬところに意外な人材が隠れているものね」

「全くだな。まさかあんなにとは……」

「同意します。ヴィー様」

「「「……」」」

 思わぬ事態を受けたヴィリジアニラの言葉に、このテーブルの周囲に居る全員が頷いたのは言うまでもない。

11/02誤字訂正

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