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73:惑星フラレタンボ1への着陸

『『パンプキンウィッチ』、惑星フラレタンボ1の大気圏に突入するっす』

 翌日。

 俺たちが乗る『パンプキンウィッチ』は何事もなく惑星フラレタンボ1の地表に向かって降下を始めた。


 さて、本体で船の外を見てみれば……。

 海が特殊な状態になっている惑星であるため、飛行能力を有さない船の類は見えない。

 川は川で玉が敷き詰められて蠢いており、時々突然球体が発生しては、元からあった球体を弾き飛ばしている。

 農業や工場にしても、Swに対応するように独自の規格や手順が採用されているように見える。


 うーん、こういう光景を見るとだ。

 宇宙怪獣対策にはなっているのだろうけど、フラレタンボ星系のSwは発展の阻害もしているように感じるな。

 ただ、Swの構造的に弄る事も簡単ではないんだろうな、恐らく。


「サタ様。ヴィー様の準備が整いました。後は例のものをお渡しいただければ完成です」

「……」

 と、ここでメモクシに連れられたヴィリジアニラが姿を現す。

 現わして……思わず見惚れた。


「サタ?」

「サタ様?」

 ヴィリジアニラは自身の目が纏う青緑色の燐光に合わせるように、青と緑を基本としたドレスを身に纏っていた。

 ドレスの装飾は緻密で美しく、バニラの花をモチーフにした紋章も含まれている。

 その他の装飾品も手が込んだものであり、とても急に用意したものには見えないだろう。


 だが驚くべきは、そんな衣装にヴィリジアニラが全く見劣りしていない事だ。

 金色の髪の毛は輝くようで、肌も玉のように艶やか。

 目の燐光も普段より輝いているように見える。

 普段よりも念入りに施されているらしい化粧と、甘い香りの香水も合わさって、元から美しい姿をしているのに更に美しくなっている。


 そして、普段よりも気合が入っているのか、姿勢や所作も普段以上に洗練されているし、心の在り方を示すかのように輝いている。

 それこそ宇宙怪獣と言う根本がヒューマンとは異なる俺であっても思わず見惚れてしまうほどに。


「お、あ、うん。普段から綺麗なんだが、見惚れてた」

「ありがとうございます。サタ」

「……」

 俺の言葉にヴィリジアニラは嬉しそうに答え、メモクシは機械知性らしからぬドヤ顔をヴィリジアニラの背後で浮かべている。


「それでサタ様。メモが頼んだものは?」

「ああ、完成してる。これだな」

 さて、ヴィリジアニラは普段から右側頭部に渦巻き型の髪飾りを付けていて、これは今も変わらない。

 で、今俺が取り出したのは、その髪飾りとほぼ同型の髪飾り。

 違いとしては、元からあるのが黒よりの茶色一色であるのに対して、俺が出したのは見る角度によっては銀色や虹色に見えることもある点だろうか。


「……。微妙に生暖かいですね」

「まあ、俺の本体と繋がっているものだからな。そこを誤魔化すにはちょっと時間が足りなかった。今回は我慢してくれ」

 ヴィリジアニラが俺が取り出した髪飾りを左側頭部に着ける。

 これで頭の両側に渦巻き型の角飾りを付けることになり、ヴィリジアニラのふわふわとした髪の毛も合わせると、一見ヒツジのように見えなくもないな。


「いえ、折角なのでこのままでいきましょう。温かみがある方が何と言いますか……安心しますので」

「そうか?」

「ええ、そうです」

 ヴィリジアニラはどことなく嬉しそうにしている。

 着けている本人がそう言うのなら……そのままでいいか。


「サタ様。それでメモが求めた機能は搭載されているのですか?」

「そっちは問題なしだ。それを付けている限り、俺は常にヴィーの位置を把握できるし、即時でエーテルスペースへ退避させることも出来る。何かしらの理由で退避が出来なくても、俺の本体が使っているシールドを展開することも出来るな」

「流石ですサタ様」

「ありがとうございます。これでおおよその事態には対処できそうですね」

 さて、俺が渡した髪飾りだが、俺の本体の方で作り出した、ある種の人形である。

 つまり、俺の一部だ。

 だから、髪飾りの座標からヴィリジアニラの位置把握、髪飾りごとヴィリジアニラの移動、シールドの展開と言ったことが可能になっている。

 そして、ヴィリジアニラの頭と接触していて外から見えない部分には、俺の首筋にあるものと同じ鵺の入れ墨が彫ってあるので、後はヴィリジアニラが宣言さえすれば、何時でも何処でも俺の能力を解放できるようになっている。

 なお、髪飾り自体の強度も、並のブラスターmodや実弾程度ではびくともしないぐらいである。


 うん、これで対処できない事態は……もはやお茶会どころではないだろう。

 と言うわけで、ヴィリジアニラの準備は完了だ。


「それでサタの格好は……」

「普通にスーツだな。と言っても、俺の本体の方で改めて編んだ奴だから、既製品とは色々別物だけどな」

 ちなみに俺はヴィリジアニラの護衛として参加するのだが、服装は見た目だけなら普通のスーツである。

 中身の人形含めて、俺の本体から改めて作ったものなので、桁違いに強固だし、身体能力も高いが。

 残る普段との違いは……武装でもある伸縮自在総チタン製スティックを体内に複数本仕込んであるくらいだろうか。

 つまり、準備完了だ。


「メモも準備は整っています」

 メモクシは見た目は普段通り。

 ただ、ヴィリジアニラが寝ている間にデュプリケーターで色々と作っていたのは知っているので、中身は色々と変わっているかもしれない。


『あー……事情を知っているウチが言うのもアレっすけど、ヴィリジアニラ様たちは戦争か何かに赴くんすか? どう見てもお茶会に赴く人たちの会話じゃないっすよ』

「ある意味そうですね。現代貴族にとってはお茶会こそが最も華やかな戦場ですから」

「まあ、ヴィーの目が危険を告げているみたいだからな。お茶会そのものなのか、その後なのかは分からないが」

「油断は出来ませんので。メモのこれまでの経験から考えて」

『これまでに何があったんすか……あ、それはそれとして着陸するっす』

 そうして『パンプキンウィッチ』は惑星フラレタンボ1、今晩、お茶会終了後にヴィリジアニラが泊まる予定のホテルに併設されている着陸用スペースに着陸した。

余談ですが。

大気圏突入の際に生じる超高温・高圧はmodによって解決されています。

このmodはバニラ宇宙帝国の宇宙船では一般的装備であり、あまりにも当たり前過ぎて、作中人物たちは気にもしません。

余談でした。

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