72:お茶会に参加するメンバーの大別
「ん? 元の服装?」
「はい。着ていくものは決まりましたが、これから寝る事を考えると、あの服は相応しくないですから」
ドレッサールームに戻ると、服装が変わっていないヴィリジアニラが居た。
どうやらお茶会に着ていく衣装は決まったようだが、そういう衣装に付き物の問題として、やはり今から着ていると色々と不便なようだ。
「サタ様。メモからの頼みごとについては?」
「本体の方で作成中。明日の朝には完成する予定だ」
メモクシからの依頼については鋭意作成中である。
人形視点で細かい作業が続いているが、そこは人形が人形を作るという裏技的手法でどうにかしている。
「じゃ、今後について話すっすよ」
「では資料を映しますね」
で、そんなちょっとしたやり取りをした後にジョハリスとメモクシが今後について話すべく、それぞれに資料を示す。
映されたのは惑星フラレタンボ1の地図とフラレタンボ伯爵のお茶会が行われる会場周辺の地図。
地図には何処を何時通るのかや、お茶会で何が行われるのかについても書かれている。
そして、例の猟奇殺人事件を含め、周辺で起きた事件や危険なポイントについての記載もある。
「まあ、基本的には普通に訪れて、普通に話をして、普通に去る。だな」
「そうですね。私たちに求められている役割は宇宙怪獣ブラックフォールシャークについての情報をフラレタンボ伯爵に話すことだけです。お茶会の役割は他にもありますが、私たちには関わりない事ですから」
さて、色々と確認したところ、帝国での貴族階級におけるお茶会の役割は様々だ。
単純にお茶と茶菓子を楽しむのはもちろんのこと。
情報交換の場として会話を行う。
本格的な交渉の前段階、折衝を密かに行うための場。
流行を作り出し、広げる場。
他にも俺が知らないだけで色々な役割があるようだ。
確かなのは、お茶会でやり取りされることは基本的に主催者の許可を得ているものか、主催者に知られても構わないと考えているもの、と言う点ぐらいかもしれないな。
「だから、フラレタンボ伯爵以外と話す気はない。という事でいいんだよな」
「ええ、その通りです」
なお、お茶会に参加するメンバーはだいたい5種類に分類できる。
つまり……。
・先祖代々の地位と知識とmod、幼少期からの徹底的な教育によって、安定的で全体的な舵取りを行う貴族。
・民衆から能力に応じる形で選抜されて、政治の実務と細々とした部分を担当する官僚。
・民衆から選挙によって選ばれた、民衆の代弁者として活動をする議員。
・様々なものを生み出し、生活を支え、財政と民衆を潤す企業。
・招かれるだけの功績を上げた個人、あるいは英雄。
という事になる。
今回のお茶会でも、宇宙怪獣ブラックフォールシャークに関わる人間……つまりは軍事や安全保障の分野に関わる貴族、官僚、議員、企業、英雄がヴィリジアニラ以外に多数招かれているようだ。
うーん、貴族や官僚は分かるし、議員も民衆との距離が近いから広報として分かるし、企業も色々と開発する必要があるから分かる。
けど個人は……いや、ヴィリジアニラはある意味では個人枠なのか、別の星系に本拠がある貴族だしな。
他の個人に分類されるメンバーも惑星上の害獣駆除業者とか、宇宙怪獣の研究者とか、肩書まで見れば納得がいくな。
「私からフラレタンボ伯爵への報告は他の方の目にも触れる形で行います。その報告の途中で質問を挟むならまだしも、後で個人的にですとか、密かに、と言う形で交流を求める方々は取り合わなくて結構です。その時点でもう宇宙怪獣に関する情報は出せるものは全部出しているはずですから」
「分かった」
つまり、フラレタンボ伯爵との交流が終わった時点でヴィリジアニラに声をかけてくる連中は、宇宙怪獣の一件以外が目的だから取り合わなくていい、という事だな。
まあ、宇宙怪獣以外が目的となれば、良くて何かしらの商品の売り込みや別星系への販路拡大と言ったもの、悪ければ二人きりになる事で良からぬ噂を立てようとかって話だろうからなぁ。
前者はともかく後者は洒落にならないので、警戒しておくべきだろう。
と言うか、そのためのメモクシの頼み事でもあるしな、急がないと。
「ではヴィー様。場合によっては中座されることも考えておいてください。名簿を見る限りではそのような事になるとは思いませんが、人が関わる事に絶対はありませんので」
「分かっています。その場合は状況に応じて動きましょう」
「了解。まあ、俺はどういう状況でも護衛に専念するだけだ」
なお、当たり前だが、お茶会には招待された限られたメンバーしか入ってこれないし、その限られたメンバーと言うのはほぼフラレタンボ伯爵が招いた人物だけである。
なのでお茶会で問題を起こせば、フラレタンボ伯爵の顔に泥を塗るし、その限られたメンバーだからこそ出来る話を妨害されたとして方々から恨みを買う事になる。
フラレタンボ星系統治の最高責任者はフラレタンボ伯爵であるし、限られたメンバーと言うのも有力者揃い、恨みを買った人間がフラレタンボ星系に住む人間なら、今後の居心地は大層悪くなることだろう。
だから、問題が起きる事はまず無いのだが……。
まあうん、時々、どうしてだが変なのが混ざってしまう事があるらしい。
成人資格証だって持っているはずなのに、不思議な話である。
「あ、ちなみに当日、『パンプキンウィッチ』から会場に入るための車と出ていくための車。それの運転はウチがやるからよろしくっす」
「ええ、よろしくお願いします」
ま、なんにせよ俺が当日やる事はシンプルだ。
ヴィリジアニラを守る。
ただこれだけだ。