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71:船内と星系を見て回る

「いやしかし、確認すればするほどとんでもない船だな……」

 衣料品製造会社『エニウェアツー』所属、『ウォークイン』型宇宙船カスタムモデル、『パンプキンウィッチ』。

 ドレッサールームを後にした俺は亜光速航行をする船の周囲を本体で警戒しつつ、改めて『パンプキンウィッチ』の性能を確認していく。


 防御面については船長のジョハリスが言う通りで、並の宙賊では手が出せず、最新の戦艦相手でも逃げ回るだけなら何とかできるだろう。

 推力も今は敢えて絞っているようだが、超高速航行は一般的な貨客船の3倍、亜光速航行と通常航行についても、速度特化の中型船並の速さと戦闘機並みの小回りを両立しているようだ。

 攻撃面に至っては……外からは見えないように偽装されているが、艦船用ブラスターmodだけでなく実弾砲や移乗戦闘移行用の可動式衝角も備えているようだ。

 で、此処に表面の塗装を自在に変えられる変色mod、各種レーダー対策、兵器も作れるデュプリケーター、十分な物資を詰めるだけの容積があるし、ブリーフィングに使えそうな情報設備も一通り揃っている、と。


 うん、何度見返しても貴人送迎用と言う名の特殊任務船。

 各種身体強化modを積んだ人間やパワードスーツを着込んだ人間を満載すれば、並の拠点なら単騎で突っ込んで制圧とか出来る事だろう。

 まあ、帝国では十分な装備を持っている人間は貴族であることも多いし、そういう意味では貴人送迎用と言うのは決して嘘ではないんだろうな、うん。

 とりあえず記事には書けないな!


「で、そんな船がフラレタンボ星系にあるのは……まあ、十中八九、皇帝陛下の指示なんだろうな。ヴィーの父親と言うのなら、ヴィーの未来視に似た能力を持っていてもおかしくないし、皇帝の地位と権力なら周囲に同等の能力者が居ることもまた不思議じゃないしな」

 それはそれとして。

 うーん、場合によっては今後、『パンプキンウィッチ』がヴィリジアニラが星系内、星系間の移動に用いる船として下賜される可能性もあるか?


 なくはないな。

 ヒラトラツグミ星系からグログロベータ星系へ、グログロベータ星系からフラレタンボ星系へ、この二回の移動で大規模なトラブルに見舞われているし、俺が知らないだけでも似たような事例はありそうだし。

 そろそろ、ヴィリジアニラが貴族で金を積んでも、ちょっとと遠慮する貨客船が現れたっておかしくはない頃合いだ。

 それを考えて、皇帝陛下が先手を打った。

 うーん、ありそうだ。


「ま、これ以上は動きがあってからでいいな。それよりもだ」

 俺はメモクシから頼まれた事を思い出す。

 それは間違いなく難題であるが、出来るか出来ないかで言えば……出来る。

 出来るが……。


「いやこれ、こっちの俺がやる事はないな。本体案件だ。まあ、元々作りかけていたし、今後もチマチマと作っておくか。参考資料は貰っているしな」

 うん、よく考えたら、リアルスペースに居る俺がやる事はなかった。

 確認だってエーテルスペースの方でやっておけばいいんだし。


「うーん……」

 後やる事は……俺が向かいたい観光地の確認は済ませたし、実際に何処へ行くかはヴィリジアニラたちと相談して決める事。

 食事については今は特に食べたいものは思いつかない。

 情報の取り込みはメモクシからの依頼に関わるのが優先。

 フラレタンボ伯爵のお茶会に参加する時の俺の衣装については普通のスーツで良くて、これはもう作成済み。


「意外とやる事が無いな」

 休憩する必要もないからなぁ……俺。


「ま、だったら本体で惑星を外から眺めていればいいか」

 と言うわけで、折角だからと俺は本体の亜光速航行同期を切って、見えた適当な惑星を観察する事にする。

 フラレタンボ星系で人が居住している惑星は惑星フラレタンボ1のみ。

 しかし、人が住めないだけで、他にも惑星は存在している。


 例えば惑星フラレタンボP4。

 名称はフラレタンボ星系に存在している居住(prohib)禁止(ition)惑星の中で、恒星に近いものから数えて四つ目、と言う事から。

 この惑星は恒星から離れ過ぎている巨大なガス惑星である。

 ただ、核の辺りは岩石質だろうし、その上を気温や重力の都合で液体化した物体が覆っている事だろう。

 そして、液体化した物質は……フラレタンボ星系のSwの影響で球体化し、蠢いている事だろう。

 開拓できれば色々な物質とエネルギーを得られるだろうが……まあ、何十年、何百年も先の話だろうな。


 例えば惑星フラレタンボP2。

 惑星フラレタンボ1に最も近い惑星であり、岩石質の惑星。

 今もまだテラフォーミング中だとかで、その影響からなのか宇宙空間からでも確認できるサイズの台風が発生していたりする。

 で、ちょっと近づいて見れば、ガイドコロニーで見たのと同じくらいの大きさの水球が凄まじい風に煽られて、球体の形のまま飛び、着弾し、地面を砕いているように見えた。

 うーん、間違っても人が住めるような状況ではないな。


「と言うか、本当になんでこのSwで惑星とかが問題なく維持されているんだ……? 複雑化し過ぎていて、本当に訳が分からない」

 やがて見えてくるのは惑星フラレタンボ1。

 きちんと海がある惑星なのだが、その海はやはりSwの影響で大量の水球を敷き詰めたようになっており、潰れない球であるからこそ隙間が生じている。

 そして、この状態は地表だけだけでなく、地殻の内側、マントル内でも同じはず。

 水球はゆっくりと蠢いているようだが……これでよく惑星内で必要な循環などが賄えているものである。


『あーあー、サタさん。ドレッサールームに戻って来て欲しいっす。惑星降下後についての話し合いをしたいそうっす』

「と、じゃあ向かうか」

 さて、ヴィリジアニラの衣装が決まったようなので、戻るとしよう。

10/27誤字訂正

10/28文章改稿

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