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68:宇宙怪獣が嫌がる星系

「フラレタンボ星系のSwは宇宙怪獣に影響を与えるかもしれない?」

「ああ。ただ、この三日間で暇を見て検証をしていた感じだと、かもしれないじゃなくて、ある、だな。フラレタンボ星系のSwの影響は」

「具体的な話をお願いします。サタ様」

 さて、フラレタンボ星系のガイドコロニーにやってきて丸二日経った。

 それはつまり宇宙怪獣ブラックフォールシャークと遭遇した一件についての事情聴取が終わり、その合間の俺とヴィリジアニラの簡易検査も終わったという事である。

 まあ、前者も後者も大したことはなかった。

 事情聴取については新規にこちらから話すことはなく、相手からの質問については普通に返しただけ。

 簡易検査については本当に簡易だったので、新規技術の開発がやっぱり必要そうだという結論に至っただけである。


 で、今は惑星フラレタンボ1に向かうための宇宙船が港にやってくるのを待っている状態である。

 そして、今ならば周囲の耳もないという事で、俺はフラレタンボ星系のSwについて感じている事を話すことにした。


「フラレタンボ星系のSwは一定体積以上の液体が球体となって、他の液体と混ざらない。だろ」

「ええそうね。それで?」

「このSwなんだが、どうにも生物の体内にも結構な影響を与えているみたいでな。こっちの人形の体なら影響は出ないんだが、本体の方だとかなりの不快感を生じる。それこそ、この場にはあまり長居はしたくないなと感じるぐらいにはな」

 俺の本体はエーテルスペースに居る。

 なので、リアルスペースであるこちらからの影響は排除しようと思えば幾らでも排除できる。

 逆に言えば、受け入れようと思えば受け入れられるので、それで試しに受け入れてみたところ……まあ、本当に不快だった。


「サタ様のOSは『バニラOS』と異なる筈ですが、それでもですか」

「それでもだな。どうやって作られたのかも分からないくらいにSwが複雑肥大化したせいなのか、だいたいのOSで普通に作用するようになっているらしい」

 たぶんだが血管内で血液が球体となって、酸素や栄養のやり取りが上手くいかなくなると共に、神経の圧迫が起きているのではないだろうか?

 もちろん、完全な適用はさせなかったので、血管や細胞が破れたりはしていないが、それでも不快なものは不快だった。


 なお、俺の本体がコロニーサイズであっても末端の血管は人間とそう変わらない……はずである。

 なんなら、他の宇宙怪獣もその辺は変わらないはずである。

 つまり、俺に効果があるならば、他の宇宙怪獣にもある程度の効果はある事だろう。


「で、そうやって不快感を与えてくるSwが展開されている領域となると……まあ、知性が無いタイプの宇宙怪獣なら、近寄ってくること自体を忌避するようになるだろうな」

「「……」」

「しかもSwの対象が液体であって水ではないからだろうなぁ。たぶん、液体窒素とか溶岩とか、その辺りでも量が十分なら球体になる。となれば、それらを栄養を運ぶための媒体にしている宇宙怪獣であっても効果があるだろうな」

 俺の言葉にヴィリジアニラとメモクシは色々と察したらしい。

 まあ、宇宙怪獣に効果があるようなSwが展開されていて、開拓初期の記録は失われていて、何かしらの大規模な騒動が起きていたことまでは間違いないとなれば……察する事は容易だろう。


「つまり、フラレタンボ星系のSwは宇宙怪獣に抵抗するため。と言うわけですね」

「逆説。開拓初期の騒動は宇宙怪獣が原因という事になりますね」

「ま、証拠なんて何もない。Swの影響を受けたたった一体の宇宙怪獣の推測でしかないけどな」

 肯定する証拠はない。

 ただ、否定する証拠もない。


「ところでサタ。フラレタンボ星系のSwはハイパースペースへの影響は?」

「あるっぽいな。だから宇宙怪獣ブラックフォールシャークはフラレタンボ星系のSw圏内には近づいてこないと思う」

「なるほど。だから今この場で話したのね。フラレタンボ伯爵にとっては望ましい情報だろうから」

「それもある」

 とりあえず確かなのは、理性の無い宇宙怪獣ならばまずフラレタンボ星系には近づいてこない。

 あっても、近くまで来たところで進路を変更する可能性が高い、と言う点だ。


「ただまあ、俺がこうしてこの場に居る以上、絶対安全と言うわけではないけどな」

「それはそうでしょうね。絶対安全になるほどだったら、多少の記録は残っていたでしょうし」

「サイズや生態によってはSwが効果を示さない事もある、という事ですか」

 なお、フラレタンボ星系のSwはあくまでも一定体積以上の液体が対象であるため、栄養伝達の媒体が液体ではなく気体やエネルギーを直接だったり、一定体積以下の液体だけでやり取りしていれば無効化できてしまう。

 そして、OS違いによる効果の軽減や拒絶まで考えれば、俺のように無効化する手段を持っていたり、不快感を無視して行動したり、そもそもとして圧倒的な力を持っていれば……まあ、無力である。


「いずれにせよ、伯爵には伝えておきましょう。それに諜報部隊と……技術部にも」

「そうですね。情報を送っておきます」

「頼んだ」

 さて、そうやって話している間に、俺の本体はガイドコロニーへと一隻の宇宙船が近づいてくるを見つけた。

 どうやら、迎えの船が来たらしい。

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