66:フラレタンボ星系での予定
「ではヴィー様、サタ様。これからについて整理を」
「分かりました」
「分かった」
さて、脅威の一端が掴めたところでこれからについてだ。
「まず、明日と明後日については、このままガイドコロニーに滞在し、帝国軍警邏部隊からの事情聴取を受けることになります」
「分かった」
今日事情聴取を受けたのに、また明日も? と思われそうな話だが、これには当然理由がある。
一つは今日の事情聴取の結果から新たに生まれた疑問点や矛盾点について尋ねるため。
もう一つは俺たちの側が落ち着いたことで思い出した部分について話すため。
これだ。
事情を訊くという行為には、事件直後だからこそ聞ける話もあれば、事件から時間が経ったからこそ聞ける話もあるという事だ。
勿論、どちらのタイミングでも誤解、錯誤、言い間違いなどなどあり得るが……そこを見極めるのはプロである訊く側であり、俺たちに出来るのは噓を吐かずに答える事である。
「また、事情聴取の合間に帝国軍の技術者によるヴィー様とサタ様に対する簡易の検査が行われます」
「宇宙怪獣ブラックフォールシャーク感知の為の機械またはmodを作るためですね」
「はい。とは言え、ガイドコロニーであるこの場で出来る事には限りがありますので、簡易も簡易、本当に最低限のものになるでしょう」
「まあ、俺のmodとか解析も無理だろうなぁ……」
対宇宙怪獣ブラックフォールシャークの感知については……まだまだ難しいんじゃないかなぁ。
作らないという選択肢が無いのは先述の通りなので、やれる事からやっていきましょう案件という事で、俺たちが暇な間に最低限の検査はやってしまおう、と言う話なのだろうけど。
「事情聴取を終えた後はフラレタンボ伯爵が主催するお茶会へ参加するために惑星フラレタンボ1へと向かいます。この際には諜報部隊が用意した宇宙船に乗って、一日かけて向かう事になります」
「フラレタンボ星系のプライマルコロニーには?」
「向かいません。惑星に直接降下する事が既に許可されています。また、惑星に着いてからは専用車両での移動が予定されています」
「ふーん……」
プライマルコロニーを経由せず、直接惑星に降下か……どうやらフラレタンボ伯爵は割と真面目に焦っているのかもしれない。
まあ、その気持ちは分かる。
小さな惑星ほどもある宇宙怪獣が直ぐ近くに居るんだから、少しでも多くかつ正確な情報を仕入れたいのだろう。
ただ……実は宇宙怪獣ブラックフォールシャーク自身の性質を抜きにしても、フラレタンボ星系に限っては安全だと思うんだよな。
これについては俺以外には把握していなさそうな案件だけど……後で話せばいいな。
それよりもだ。
「ところでお茶会となると流石にドレスコードの類とかあるよな。どうなんだ?」
「流石にありますね。ですが、ヴィー様の服はもちろんのこと、サタ様が着用する服についても、諜報部隊が用意する船に積まれていますのでご安心を」
「なるほど。着くまで一日あるって言うし、それなら間に合うか」
「その他必要な品についても一通り積載しているとの事なので、問題はないでしょう」
どうやらお茶会の支度については問題ないらしい。
俺は貴族のお茶会についてはあまり詳しくないのだが、参加するとなれば衣装、化粧、手土産などなどで大変らしいからなぁ。
今回は本当に急だから手土産は情報だけで事足りるだろうけど、それ以外をどうするのかと思っていたら、ちゃんと向こうが用意してくれるようだ。
流石は伯爵。
伯爵として任じられるだけあって、しっかりとしている。
「問題となるのは、この予定でもヴィー様の目が脅威を認識していたという事です」
「それってどう考えても軍や貴族に内通者が居るか、相手が規格外の化け物かの二択にならないか? 少なくとも検査かお茶会に何かしらの形で関われているよな」
「そういう事になると思います。今も脅威そのものは感じていますから」
「今もか……」
だが、そんな伯爵の目を盗んでいる猟奇殺人犯は居るし、それがヴィリジアニラに関わるような脅威になっている可能性も高い、と。
もうこの時点でほぼほぼ二択だな。
であれば、出来れば組織であってくれた方が助かるな。
異常な個だと俺でも対処できない可能性があるが、優れた集団なら最悪は力技でどうとでもなる。
「なお、フラレタンボ伯爵とのお茶会が終わった後には通常任務に移行。つまりは惑星フラレタンボ1とプライマルコロニーの視察を行いつつ、囮として各地を動き回ります」
「なるほど」
「出来る事ならば気兼ねなく視察が出来るようになっているといいですね。サタ、メモ」
「だな」
「そうですね」
その後はグログロベータ星系の時と同じように動く、と。
じゃあ、ガイドコロニーから惑星に向かう一日の間に、見たいもの食べたいものを改めてリストアップしておかないとな。
「以上になります。何か質問などはありますか?」
「私はありませんね。サタは?」
「大丈夫だ。まあ、思い浮かんだら、その時に口を出す」
と言うわけで予定確認終了。
そして、その頃にはちょうどいい時間になっていたという事で、俺たちはガイドコロニー内に存在している普段は職員が使っている食堂へと向かう事にした。
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