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65:脅威はいずこより?

「あーうん、確認。脅威は迫って来てる」

「はい」

 俺の言葉にヴィリジアニラが頷く。


「規模は不明」

「ええ、分かりません。私個人をターゲットにしている程度のものなのか、他の誰かをターゲットにしているものなのか、グログロベータ星系の時のように星系全体に及ぶものなのか、どれが起きてもおかしくはないです」

「ついでに時期も不明」

「そうですね。分かりません」

「つまりはいつも通りであるとメモは言っておきます」

 うん、確かにメモクシの言う通り、いつものヴィリジアニラの未来視ではあるな。

 脅威の規模、種類、時期、どれもが不明で、ただただ迫って来ていて対処をしなければ拙い事になるという奴だ。


「でも今回は切っ掛けは明確なんだな」

「そうですね。此処、フラレタンボ星系のガイドコロニーに着いて、宇宙怪獣ブラックフォールシャークについての事情聴取を受けたところで私の未来視は危機を訴え始めました。なので確実に危険を呼び込む命名権の行使は拒否しましたし、情報を各所に出そうとすると脅威が加速するのも感じました。よって、宇宙怪獣ブラックフォールシャークに何かしらの関係があるのは確実と見ていいです」

「なるほど」

 だが、脅威を感じ始めた状況からして、宇宙怪獣ブラックフォールシャークとの関連性がある可能性は高い。


「けれど、俺が見た限り宇宙怪獣ブラックフォールシャークは通常の空間に出てくるような宇宙怪獣じゃないし、警邏部隊も帝国軍もまずは観測手段を整える事から始めることになる。となれば、次に干渉できるのは……少なくとも月単位で先だ。それがヴィーの未来視に引っかかるかは分からないが……たぶん、引っ掛からないんじゃないか?」

「そうですね。それで未来視が脅威を訴えるのは妙だと思います。それに未来視が脅威を訴えるパターンを今、改めて思い返してみると……私が誰かの目に触れるような動きをしたときに増している気がしますね」

「なるほど」

 しかし、宇宙怪獣ブラックフォールシャーク自身が動く可能性が低いとなれば……やっぱり、脅威自体は別にありそうだな。

 と言うか、この流れだとだ。


「これ、第一候補は宇宙怪獣の情報を伝えに来たヴィーを脅威の主が認識して襲い掛かってくる、と言う奴じゃないか? 具体的な動機までは分からないが」

「それはどう……」

「ヴィー様ならあり得ますね。見た目が美しいというだけで寄ってくる愚か者は居ますから。むしろ問題なのは、メモとサタ様が揃っていてなお、ヴィー様が脅威と無意識に判断しているような相手が居るという事です」

「……。後者は確かにそうですね」

 ヴィリジアニラ当人は否定しようとしたが、一番あり得るのはそれだよなぁ。

 ヴィリジアニラの姿を見て一目惚れして、自分と同じ子爵位だからと手籠めにしようとする同格の子爵とか、可能性は極めて低いけれど、居ないとは断言できないだろ。

 むしろ問題なのはメモの言う通り、俺とメモが揃い、ヴィリジアニラが本来の爵位を持ち出したとしてもなお脅威になると判断されている事だな。

 この時点で単純な出力で言えばグログロベータ星系の一件並みになってしまうし、搦手ならば相当面倒くさい手を打たれる事が予測できる。

 うん、油断はできないな。


「ちょっとフラレタンボ星系地元のニュースを見るか」

「そうですね。何かあるかもしれません」

「少しお待ちください。出します。ヴィー様、サタ様」

 ではちょっと確認。

 えーと、まずフラレタンボ星系は……。

 人が普通に居住している惑星は惑星フラレタンボ1のみ。

 惑星フラレタンボ1の近くに、ウニみたいな形をしているプライマルコロニーが一つ。

 その他サブコロニーが幾つか存在。

 ガイドコロニーは俺たちが今居るものも含めて……3つ?

 グログロベータ星系行き、ニリアニポッツ星系行き、後は……廃棄はされていないが、使用不可になっているガイドコロニー?

 また妙なものがあるな。

 まあ、今は関係なさそうか。

 それよりもニュースの方だな。


「トップニュースは宇宙怪獣ブラックフォールシャーク出現と命名」

「当然ですね」

「まあ、星系全体に関わると普通は判断されるしな」

 トップニュースは俺たちも関わっている件。


「次のニュースは惑星フラレタンボ1の地上で起きている連続猟奇殺人のようですね。今、諜報部隊にも確認を取りましたが、被害者は生きたまま目をくり抜かれているそうです」

「もうこれじゃん、明らかに……」

「あ、脅威の方向がだいぶ定まった感じがありますね。なので、これが関係しているのは確実ですね……はい」

 次のニュースは……バニラ宇宙帝国では非常に珍しいとも言える、犯人の正体が未だに掴めていない連続猟奇殺人のニュース。

 どうやら、惑星フラレタンボでは現在、生きたまま目をくり抜かれた上で殺されるという猟奇殺人事件が発生していて、犯人は逃走中と言うか捕捉も出来ておらず、被害者の数だけが増えていっているようだ。

 現在の死者は17名。

 うん、やっぱり実際の脅威は別のものだったか。


「だが珍しいな。普通なら現場とその周囲のカメラでも解析すれば、犯行現場そのものは映っていなくても、容疑者くらいは容易に特定できるし、容疑者を特定できれば解決までそうはかからないんだが」

「そうですね。今の帝国の技術相手に隠れ潜むと言うのは、『黒の根』のような組織ならばともかく、個人ではかなり難しいと思うのですが……」

「その何かこそが私が無意識にでも脅威と感じている部分なのかもしれませんね」

 ニュースから考える限り、武力によって容易に手を出せない状況を作り出すことで自身の安全を確保するのではなく、何かしらの策で自身の安全を確保しているタイプの犯人。

 あるいは何かしらの組織に属していて、その組織の手引きによる安全の確保をしている。

 なるほど、その策または組織によっては厄介そうではある。

 やはり油断は出来なさそうだ。


 その後、他のニュース……惑星フラレタンボで水稲の収穫が行われたとか、レジャー施設が賑わっているだとか、グログロベータ星系の一件についてだとか、も確認していったが、特に怪しいニュースは見つけられなかった。

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