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63:フラレタンボ星系ガイドコロニー

「頼みますから、今後乗る余所様の船も含めて、こういう事は今回限りにしてくださいよ。助けられた側が何を言っているんだという話なのは自覚してますが、それでも心臓に悪すぎますんで」

「ぜ、善処はさせていただきます」

「本当に頼みますよ……」

 幸いにして『ディップソース号』の船長に対する事情説明は簡単に終わった。

 素晴らしきはヴィリジアニラの地位と弁論能力、救ったという事実、迷惑料に慰謝料と言う名の修繕費、それと賢明なる船長の頭である。


「とりあえず帝国軍の警邏部隊は呼びましたんで、あいつらが来たら一緒にフラレタンボ星系へ向かいましょう。あの化け物相手に軍が居た程度でどうにかなるとは思えませんがね」

「分かりました。従わせていただきます」

 ちなみに、今現在俺は頭に濡れタオルを乗せた上で、ベッドで横になっている。

 本体の方もエーテルスペースで全身を脱力させて伸ばしている状態である。

 あんな化け物と対峙し、全員の命運を背負ったので、流石に疲労が激しいのである。


「ふぅ……。サタ、調子は?」

「肉体的には問題なし。でも精神的には厳しい感じだ……。ちょっと眠りたい」

「分かりました。では少し眠っていてください。私とメモもこの部屋に留まっていますから、サタが寝ていても大丈夫なはずです」

「じゃあ少し寝る……」

 そんなわけで俺は完全に意識を落とし、俺としては非常に珍しい事だが、完全に眠った。



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「ん……起きた……」

「ヴィー様。サタ様が起きたようです」

「ありがとうメモ。調子はどうですか?」

 で、夢とやらを見ることもなく眠り、起きた。


「調子は……とりあえずは大丈夫そうだな。現状は?」

「巨大宇宙怪獣から襲われてから15時間ほどが経過。間もなく、帝国軍の警邏部隊に連れられる形でフラレタンボ星系側のガイドコロニーに着くところですね」

「なるほど……」

 頭は……スッキリしてる。

 体も……いい感じだな。

 ただ、どちらも万全とまではいかない感じではある。

 まあ、後は普段通りにしていれば本調子までは戻ってくるか。


「む……」

「サタ?」

 と、ここでフラレタンボ星系のSwの範囲内に入ったらしい。

 俺の体から軽度の事象破綻に伴う甘い香りが漂い始める。

 おまけにフラレタンボ星系のSwの影響なのか、微妙に体が動かしづらいというか、地味に嫌な感じがするな。

 資料と言うか、表面上の現象だけを見ている分には面白いとしか思わない内容だったのだが……こうなるのか。


「ちょっと待ってくれ。体の調整をする」

「そうですね。匂いがしてきていますし」

「しかし、ヴィーたちには影響が出てないのか。なるほど……」

「どういうことでしょうか? サタ様」

「あーまあ、落ち着いたタイミングで俺視点からのフラレタンボ星系のSwについては話す」

 とりあえずグログロベータ星系のSwに合わせていた俺の体を再作成。

 フラレタンボ星系のSwに合わせた仕様に変更する。

 見た目は変わりないが……まあ、普段より少々乾いている感じだな。


「それよりも、求められるんだろ? あの宇宙怪獣についての情報」

「はい。求められます。私とメモが手にした情報については既に警邏部隊へ渡しています。あ、サタ自身については渡さなくて大丈夫です。私が従えている宇宙怪獣なので詮索無用という形で話を通しておきましたから」

「分かった。ありがとうな、ヴィー」

「いいえ、こういう時の為の契約ですから」

 さて、話は変わって、あの巨大宇宙怪獣についてか。

 アレなぁ……アレはなぁ……。


「それでサタ。あの巨大宇宙怪獣についてはどう考えますか?」

「んー……とりあえず現生人類には対処不可能だから、出会わないようにお祈りするしかないな」

「断言しますね」

「断言する。相手のOSの強度が『バニラOS』とは比較にならないほどに強固で、内容もたぶん徹底的に相手側に有利になるようになっているからな。その時点でもうどうにもならない」

 俺はメモクシから情報端末を受け取ると、俺の本体から見た巨大宇宙怪獣について絵付きで描いていく。

 ちなみにヴィリジアニラとメモクシ視点では、殆ど巨大な虹色の光が降ってきているようにしか見えなかったらしい。


「おまけにサイズが俺の本体の100倍以上、つまりは小さめの惑星サイズ。そして、ハイパースペース内を自由自在に泳ぎ回れる能力持ち。これをどうにか出来るなら、帝国は宇宙怪獣に悩まされてないだろ」

「それは確かにそうですが……」

 と言うわけで絵と文章が完成。

 絵については……ジンベエザメと呼ばれるような鮫が近い形だろうか。

 まあ、大きすぎる上にほぼ一瞬だったので、細かい部分はまるで見えなかったのだが。


「幸いと言うか、逆説的な話になるが……アレがもっと積極的に動き回って宇宙船を飲み込んでいるなら、今頃帝国は壊滅しているはず。だから、アレに飲み込まれるのは原因不明の事故扱いで済ませられるくらいには低い確率になるはずだ。なので、積極的に討伐する必要は……たぶんない」

「なるほど。それは希望が持てそうな話ですね」

「その万が一が怖いとメモは言っておきます」

 良い点は相手が大きすぎて、こっちの事なんて認識していないであろう点か。

 悪い点は相手が大きすぎて、ヴィーの目と俺ぐらいの転移能力が無いと、回避が出来ない点だな。

 うん、正に天災、正に宇宙怪獣だ。

 アレと比較したら、やっぱり俺なんてまだまだだし、蟹とか海藻人間とかはモドキだよ、うん。


「ところでサタがあの大きさになるのは……」

「うーん、早くても数千年は先の話じゃないか? 正直、あそこまで大きくなれる素養が俺にあるのかすら分からない」

「なるほど」

 なんにせよ、俺たちは生き残った。

 今はその幸運を噛み締めるとしよう。

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