61:フラレタンボ星系へ
「さて到着だな」
「そうですね」
数日後。
フラレタンボ星系までの旅路において必要なものの手配を終えた俺たちは、グログロベータ星系の第一プライマルコロニーを後にした。
そして、まず向かったのはフラレタンボ星系に繋がる超光速航路を利用するためのガイドビーコン、それへのアクセスが出来るガイドコロニーである。
「ヴィー様。旅程の確認をします。メモたちはこれからフラレタンボ星系行の貨客船に乗り込み……」
で、このガイドコロニーから出る貨客船に乗ってフラレタンボ星系へ向かうわけだが……。
普通の貨客船では丸二日、ハイパースペース内を航行する事になるらしいし、日に数本出る程度でほとんどは荷物。
高速船はそもそも出ていない。
何と言うか、流石は田舎星系とか呼ばれてしまう事だけはある。
ちなみに田舎星系と辺境星系は全くの別物である。
田舎星系はフラレタンボ星系のように、交通の便が良くないなどの理由から開発が遅れ、情報の伝達にもラグが生じるようになってしまった星系のこと。
辺境星系は帝国の版図拡大における最前線であり、帝国が特に力を入れている星系であれば十分に発展した星系よりも賑わっている事もある星系である。
なお、この話で行くなら、グログロベータ星系が開発済みの賑わっている星系で、ヒラトラツグミ星系は可もなく不可もなくな普通の星系である。
閑話休題。
「お名前と身分証の提示をお願いします」
「分かりました」
ヴィリジアニラが三人分の身分証明をして、俺たちは貨客船に乗り込む。
ちなみに船名は『ディップソース号』。
この日、グログロベータ星系側から出発する船の中では最も安全で質がいいと俺とメモクシの二人が判断した船である。
「……」
「ヴィー?」
「ヴィー様?」
で、そんな『ディップソース号』に乗り込み、俺たち三人に割り当てられた部屋へ移動。
一息ついたところで船がハイパースペースに乗り込んで超光速航行に移行したのだが……そこでヴィリジアニラが唐突に虚空を眺めるような表情を見せた。
えーと、なんだったか、古いネットミームで宇宙猫とか呼ばれるような……そんな表情だ。
「サタ。力の解放をしておきましょう。今すぐに」
「え、あ、うん。分かった」
「私、ヴィリジアニラ・エン・バニラゲンルート・P・バニラシドの名の下に、サタ・コモン・セーテクス・L・セイリョーの真なる力の開放を許可します。何が起きるかは分かりませんが、何かが起こります。船ごと私たちを守るために力を貸してください」
「う、承った」
そして、スカーフの下に隠してあるセイリョー社の社章を模したタトゥーにヴィリジアニラが触れ、俺の力が開放された。
これで制限がなくなった俺は宇宙怪獣としての力を十全に振るう事が出来る。
出来るのだが……。
「え、宇宙怪獣の力が必要な事態とか何が起きるんだ。ヴィー」
「分かりません。ただ、『ディップソース号』に乗り込んだ時点で不確かだった脅威の気配が、超光速航行に移行した途端に明確で逃れ得ないものになったと感じました。なので、超光速航行中か、終わった直後か、そのどちらかで何かが起きる事だけは確実です」
「……」
どうやら何かが起きるらしい。
それもヴィリジアニラの目が、事態発生から後出しで俺の力を解放していては間に合わないと判断するような事態が。
うん、正直に言えば、この時点でもう何が来るのか半分くらい予想できてしまった気がする。
だが、そうでない可能性も出来れば追っておきたい。
「メモクシ。グログロベータ星系とフラレタンボ星系の間の航路で起こった事件事故ってどんなのがある? 後、可能ならフラレタンボ星系にもう一つある航路でも同様の情報が欲しい」
「少々お待ちください。一応ダウンロードはしましたが、今はもう直ぐには使わないだろうと圧縮していましたので……こちらがそうですね」
「私も改めて見ますね」
一番最新なのは……ギガロク宙賊団残党が正面衝突の事故を起こした一件だな。
それ以前となると……年に一回ぐらいのペースで宙賊の被害が発生するか、乗員のミスで事故にはならなかったが重大なインシデントを発生させているかのどちらかな感じか。
これは他の航路とも大して変わらないな。
他の航路との違いは……。
「行方を絶つ? 後はフラレタンボ星系の黎明期のデータが上手く残ってない感じだな」
「そうですね。航行中の船が一切の痕跡を残さずに行方を絶ち、解決もされていないと言うのがフラレタンボ星系に繋がる航路では何度か起きています」
「データが残っていないのは……どうにもフラレタンボ星系の黎明期に大規模な混乱があった感じか」
未解決消失事件の割合が僅かに高いのと、黎明期のデータが外からでは取得しづらいぐらいには残っていない、これか。
ああうん、これはもう確定で良さそうだな。
と言うか、これが事実なら、そりゃあ田舎星系にもなると言うか、何と言うか……。
船の手配に専念し過ぎていたな、次からこっち方面にも最低限、目を通しておくか。
「サタ。何が来るかの予想は付きましたか?」
「うんまあ、付いた」
とりあえず何が来るかは分かった。
分かったなら、何とかはなる。
たぶん。
「宇宙怪獣が来るな。それも船を一飲みに出来るような馬鹿でかい奴が」
「やっぱりですか……」
「まあ、分かってました。ヴィー様の行動で」
十中八九、宇宙怪獣が来ます。
それも蟹や海藻人間のようなモドキではなく本物が。
俺のような雑魚ではなく、長く長く生き続けている化け物が。
「やり過ごし第一で動くから、そのつもりでいてくれ」
「分かりました」
うん、勝てないので、やり過ごすか逃げる前提で動こう。
俺は何時でも動けるように周囲を警戒し始めた。
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