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6:ヒラトラツグミの鳴き声

本日一話目でございます。

本日は宣伝を兼ねて、四話更新です。

 自分の部屋でこれまでをまとめた俺は部屋の外に出ると食堂へと向かう。


「こんにちは、ヴィリジアニラさん、メモクシさん」

「こんにちは、サタさん」

「……」

 食堂には複数人の船員さんのほか、ヴィリジアニラとメモクシも居た。

 ただ、二人の内、席についているのはヴィリジアニラだけで、メモクシはヴィリジアニラの背後で静かに立っている。

 メモクシはヴィリジアニラのメイドであるようなので、当然の立ち位置ではあるか。


「相席しても? 名乗りたいこと、少々お尋ねしたいこと、色々とありますので」

「構いません。私もサタさんに聞きたいことは少しありますから」

 俺はヴィリジアニラの向かいの席に座る。

 なお、飲み物はただの水を確保済みである。



 フイイィィィ~~~~~



 不意にトラツグミと呼ばれる鳥の鳴き声に似た音が響き渡る。


「っ!?」

 その音にヴィリジアニラは肩を竦ませる。


『正午になりました。本船『ツメバケイ号』は現時刻を以ってヒラトラツグミ星系のプライマルコロニーを出発し、グログロベータ星系のプライマルコロニーを目的地として航行を開始します』

 同時に出発のアナウンスが船内に響き渡り、周囲が少し騒がしくなると共に、食堂に設置されている窓から見える光景が少しずつ動き始める。


「ヴィリジアニラさんはヒラトラツグミ星系の鳴き声に慣れていないようで?」

「そうですね。普段は別の星系で活動していて、ヒラトラツグミ星系は今回偶々立ち寄ったに近いのです。なので、決まった時間に鳴くと分かっていても、驚いてしまいます」

 さて、先ほどのトラツグミの鳴き声のような音はヒラトラツグミ星系特有の現象で、ヒラトラツグミ星系の時間で0時と12時に星系中に同一音量の音が響くのである。

 これはヒラトラツグミ星系をヒラトラツグミ星系足らしめているSw(スターウェア)……大規模modの影響であり、ヒラトラツグミ星系の鳴き声と呼ばれている。


 いや、この言い方だと少し間違いがあるな。

 ヒラトラツグミ星系の鳴き声が正確かつ定期的に響くから、そこを0時と12時にしたと言うべきか。


 まあなんにせよだ。

 ヒラトラツグミ星系在住の人間には慣れ親しんだ現象。

 なので俺は驚きもしないし、船員さんたちも時報代わりに活動する。

 逆に身構えたり、驚いたりするのは、普段ヒラトラツグミ星系に居ない人間であると言っているようなもの、という事である。

 なお、メモクシが無反応なのは、ガイノイドで時間感覚と自己制御がしっかりとしているからであり、当然のことと言える。


「それで話と言うのは何でしょうか? サタさん」

「と、これは失礼。ではまずは改めて自己紹介を。俺はサタ・セーテクス。フリーライターをしています」

 俺はまず名乗りつつ、タブレット型情報端末に自分が書いた記事を映して、二人に見えるように示す。


「記事の内容としては飲食店と観光地の評価。今回は『ツメバケイ号』についてですね。それとフリーライター生活を始めてから、初めて別の星系に行くという事で、その旅で注意する事も含めて書く予定です」

「なるほど」

「そこで折角同じ宇宙船に乗る事になったという事で、旅慣れているであろうお二人にも注意するべき事を聞いてみようと思った次第なのです。どうでしょうか?」

「ふむふむ。そうですね……」

 俺の言葉を聞いてヴィリジアニラはメモクシに視線をやる。

 対するメモクシは微動だにしないが……ガイノイドだしな、見た目には何もしていなくても、主であるヴィリジアニラに必要な情報や意見を渡すことはできるだろう。


「その、会社規約の都合で話せないことも多いですが、やはり事前情報をしっかりと集める事や危ない場所には近づかない。と言うのはありますね。信頼できる地元民の方との繋がりも重要だと思います」

「ふむふむなるほど」

 うーん、情報はなし、と。

 俺でも分かっていると言うか、一般的な情報だけを選んで話している感じだな。

 下心の類があるとでも思われたか?

 まあ、何処の何者かを把握出来れば、何かあった時の判断材料になると思っていたので、下心が皆無と言うわけではないが。

 そして、情報が得られないなら、無理に問い詰める必要はないな。

 喫緊の危険は感じないのだから。


「あ、そうですね。サタさんに必要になるかは分かりませんが、私が執筆した記事についてどうぞ」

「ありがとうございます」

 ヴィリジアニラが執筆した記事とやらが情報端末に送られてくる。

 内容としては……割と俺が書いているものに似ているな。

 ただ、俺が一般市民向け、初心者向けに書いているとすれば、ヴィリジアニラの記事は貴族や上流階級の人間向けに書いてある感じだ。

 やっぱりどこかの貴族令嬢と言う感じがあるな。


「ところでサタさんは『ツメバケイ号』の予約は何時頃に?」

「二週間ほど前ですね。その時は俺以外に客は居ないと聞いていたので、今日は驚きました」

「そうでしたか」

 ん、俺を怪しんでいる?

 でも、どちらかと言えば、いきなりねじ込んだのはヴィリジアニラの方で、俺には裏も何も……いや、俺個人の裏はあっても、ヴィリジアニラと関連するような裏はないんだけどな。

 だが、そうやって警戒する必要がある立場にはあるとなると……俺と同じでただのフリーライターではないという事になるな。


「さ、昼食が出来たよ! 列に並びな!」

「と、昼食を受け取れるようになったようですね。一度失礼させてもらいます」

「いいえ、折角ですからご一緒させてください。私、こういう場所でのマナーがよく分からないので」

「はあ、マナーですか? んー……」

「何か?」

「いえ、何でもないです」

 まあ、ヴィリジアニラとメモクシへの警戒はやっぱり必要なさそうだな。

 俺は俺の仕事に専念して大丈夫そうだ。

 と言うわけで、俺、ヴィリジアニラ、メモクシの順番で食堂の食事の受け取り口へ向かい、使用券1回分と引き換えにトレーに乗せられた一人前分の昼食を受け取る。

 さて、記念すべき航海初日のメニューは……。


 大きめのコッペパン

 複数種の生野菜で作られたサラダ

 モーモーダックの乳卵

 マルマルダチョウの丸焼きを切り分けたもの


 うん、美味しそうだ。

 俺は自分でトレーを持って、ヴィリジアニラはメモクシがトレーを持って、元の席に戻った。

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