55:テロ事件のその後・1
「さて、ヴィー様、サタ様。メモたちが事情聴取と安全確認を受けている間にある程度情報が集まったようです。なので、メモの口から話させていただきます」
「お願いします。メモ」
「頼んだ、メモクシ」
ロケットコーンテロ未遂事件、公的にはそう呼ばれている事件の発生から一週間経った。
それはつまり、俺たちが海藻人間と戦ってから一週間経ったという事でもあり、事件後に諜報部隊が用意してくれた隔離施設と病院を兼ねた場所からようやく出てこれたという事でもある。
と言うわけで、今日から俺たちはグログロベータ星系は第一プライマルコロニーの中層、関係者以外立ち入り禁止な中枢近くにある貴族向けビジネスホテルの一室に滞在する。
では、この一週間で諜報部隊、普通の軍、警察、その他情報機関が頑張った事で集められた情報について聞くとしよう。
「まず本件、ロケットコーンテロ未遂事件ですが、実行犯は本人たちも名乗った通りに『帝国人民解放戦線』です。ですが、実行犯の中でも下部の人間は金で雇われただけであり、思想への共感はないようですね」
「でも成人資格証は持っていない、と」
「はい。どうやら成人資格証を得られない人間をターゲットとした闇のリクルート組織が関わっているようです。雇われた人間の大半は他の星系の出身者だったようですから。恐らくですが、リクルート組織については『黒の根』の一派でしょう」
「嘆かわしい事ですね」
犯人たちの情報は……まあ、真正なのは一部だけで、殆どは金で雇われた連中、と。
その金で雇われた連中も異常に良い支払いに誘われて、深く考えずに乗ってしまったんだろうな。
で、引き返せないところまで来たところで、どういう事をするかを教えられ、拒否した連中は殺され、流された連中はテロを実行した、と。
そんなんだから成人資格証も手に入らないし、騙されるのだと言ってもいいだろうか?
なお、『黒の根』と言うのは簡単に言えば、帝国全土に根を張っている、違法行為によって利益を上げている裏の商会の通称である。
実態は存在せず、末端は自分たちがそうだと知らない。
と言うより、普通に真っ当な商売をしていたが、企業の上層部は『黒の根』と繋がっていた、なんてパターンもあるので、誰がそうであるかは詳しく調べていかなければ分からない。
もしかしなくても、帝国軍や諜報部隊にもそうとは知らずに協力してしまっている人間もいるだろう。
で、『黒の根』のリクルート組織と言うと……まあ、『黒の根』の中でも明らかにブラックな連中で、成人資格証を持たない人間を騙して連れ去りテロ行為に加担させた今回など可愛い方である。
普段ならば、宙賊に売り払うとか、違法な人体実験の被験者として売り払うとか、楽に死ねたならまだマシな方。
人間の仕入れにしても宙賊が誘拐したものを買い取るとか、違法な人造人間の製造装置を用いるだとか、完全に黒である。
「『帝国人民解放戦線』の動機については割愛します。聞くに堪えないので。『黒の根』についても同様ですね。彼らは金稼ぎにしか興味がありません」
まあ、どっちも分かり易い奴らではある。
宙賊連中や、亜人排斥の過激派連中と同じくらいに目的が分かり易い。
大抵の犯罪者がそうだと言ってしまえばそれまでだが……中には『宇宙怪獣教』のように訳が分からない連中も居るからなぁ……。
と、思考がずれてきたな、戻そう。
「そうですね。それよりも私たちが気にするべきは、彼らがどうやってロケットコーンの魔改造を行ったのか、魔改造の元になった技術は何処から来たのか、あの施設を使っていたのは誰だったのか、あの施設に置いてあったものがどこから来たのか、それと……あの宇宙怪獣モドキの海藻人間についてです」
「その通りだな。どっちの目的から考えても、あのロケットコーンは異常だったし、そのロケットコーンに関わりがあるであろう施設は輪をかけて異常だった」
それよりも問題なのは、俺たち三人で処理したロケットコーンの魔改造具合だ。
アレの破壊力とmod構成は、明らかにグログロベータ星系全体を滅ぼすのに十分なものだった。
そんなものを使ったのでは、一応は一般市民の解放を目的に掲げている『帝国人民解放戦線』は救うべき一般市民も土地も滅ぼしてしまうし、『黒の根』にとっても幾つもの企業が物理的に滅びて大損害を被ることになってしまう。
滅ぼした後の復興事業に参入する事で何かしらの利益を得ると言うのも、あのロケットコーンの危険度を考えたら厳しいものがあるだろう。
つまり、今回のテロ未遂事件では、彼らの目的にはそぐわない過剰火力が使われようとしていた、という事になる。
だから、あのロケットコーンが生み出されて使われた事自体がもうおかしいのだ。
で、それが生み出された施設に至っては、単騎でグログロベータ星系を滅ぼせそうな宇宙怪獣モドキが居たわけでだ。
そんなのが手札に在って、制御が利くなら、今回のテロ事件など起こっていない訳でだ。
もうどう考えても、魔改造の元になったのはどちらの組織でもない、もっとヤバい何かだと判断せざるを得ない。
ヴィリジアニラが気にするのは当然のことだろう。
「では、その辺りについても、メモが順を追って説明させていただきます」
さて、その辺りについて諜報部隊は何処まで掴んだのか。
俺はじっくり聞くことにした。