54:状況終了
本日は四話更新になります。
こちらは四話目です。
「それでサタ。今の妙な色の炎は……」
「さあ? 俺も自分の脂……それもmodまで調整してよく燃えるようにしたものを燃やしたことなんて初めてだからな。海藻人間に燃え移った後に紫色になった件も含めて、何も分からない」
海藻人間は無事に燃え尽きた。
よほどの火勢だったのか、燃えた後の床材は表面から数センチ程度の深さまで溶融していて、この施設が築かれている小惑星本来のものと思しき岩石が見えてしまっている。
「それよりもヴィー。海藻人間の切れ端は残ってるか?」
「……。私の目で見る限りでは残っていませんね。確実に全てを焼き尽くしたと思います」
「そうか。なら一安心か?」
俺とヴィリジアニラは部屋の中を見て回る。
表に見える場所、物陰、海藻人間が出てきた戦闘機のコクピット内に至るまで念入りにだ。
そして、万が一に備えて、戦闘機については俺の墨を煙状にしてまぶしておき、僅かな隙間や配管内に至るまでmodの無効化を行っておく。
これはそういう場所に海藻人間の切れ端が潜んでいても困ると言うのもあるが、この戦闘機から得られる情報に重要なものが含まれている可能性があるからだ。
「メモを呼んでデータ面についての対処もしておきましょうか」
「だな」
加えてヴィリジアニラがメモクシを呼び、呼ばれたメモクシによって戦闘機が持つデータの確保を進めていく。
これでこの施設内で得られる情報は、海藻人間にされてしまった人間だけが持っていたものを除いて、一通り得る事が出来ただろう。
「ヴィー様、サタ様。諜報部隊の軍艦が到着したようです」
「ようやくですか」
「この施設については小惑星ごと確保となるようです。設備を隠蔽していた手法含めて、色々と調べたいと向こうから申し出がありました」
「ふうん。まあ、宇宙怪獣モドキを生み出す技術もそうだが、どう見ても最新鋭クラスが混ざってそうだもんな。出元を探る意味でも、リバースエンジニアリングの意味でも周りごと持っていくべきか」
本体で施設の外を見てみれば、確かに軍艦が来ているな。
この施設よりも大きいサイズの軍艦だ。
で、その軍艦から工作機械と人間が出て来ていて、小惑星を曳航できるように準備していっている。
おっと、小惑星が少し揺れたな。
「メモ、私たちはこの後どうするべきか、指示は来ていますか?」
「少々お待ちを……この発着場の扉を開けて欲しいそうです。外部からではやはり何処に出入り口があるかも、安全に開けるためのコンソールがどこに在るかも分からなそうなので」
「分かりました。宇宙空間と接するための準備は……そもそも私以外は気にする必要がありませんでしたね」
ヴィリジアニラが発着場の扉横にある機械を動かす。
すると発着場内の空気が抜かれていき、外と変わらない環境になってからゆっくりと扉が開いて、発着場と外が繋がる。
なお、俺もメモクシも念のためにヴィリジアニラの近くに寄っておき、万が一に備えておく。
『ありがとうございます。ヴィリジアニラ様。こちらは帝国軍諜報部隊、グログロベータ星系支部の三番艦……』
開けた扉から完全武装の兵士が複数人入ってくる。
そして、入ってきた兵士たちはこちらの姿を認識すると、直ぐにヴィリジアニラに向かって自分たちが何者かを告げる。
俺は聞いてもそれが正しいか分からない名乗りであるのだが、ヴィリジアニラの表情を見る限りでは正しい名乗りのようだ。
ちなみにだが、宇宙環境と同じ環境に俺とメモクシが生身のまま立っているのを見ても彼らが驚き一つ見せなかった点については、事前にこちらの情報を得ていたか、プロとして全力で平静に努めたかのどちらかだろう。
『では、ヴィリジアニラ様とお付きのお二人は艦の中へどうぞ。此処からは我々が引き継ぎます』
『分かりました。安全は確保してあるはずですが、相手の正体が掴み切れていませんので、どうかご注意を』
『かしこまりました』
で、俺たちは軍艦内へと移動。
『ツメバケイ号』の時にもかけられた各種消毒用modを浴びてから、待機部屋へと通される。
「はぁ……これでようやく一段落……ああいや、ロケットコーン農場の方はどうなっているんだ?」
「メモが調べた限りでは小惑星帯農場にあるロケットコーン農場に対して行われたテロ事件については一応は解決したようです。容疑者として100名以上の人間を拘束し、現在は逃走した人間や隠れた人間が居ないか探っているようですね」
「そうですか。随分と大規模な事件になってしまいましたね」
「まあ、星系一つ滅ぼそうと言う動きだったからな。それを考えたらむしろ少ないくらいじゃないか?」
「それは……そうかもしれませんね」
どうやら俺たちが頑張っている間に、ロケットコーン農場の件についても解決したらしい。
容疑者の数が100名を超えると言うのは……まあ、小惑星帯農場に点在しているロケットコーン農場を三つ同時に襲撃しようとしたのだから、それぐらいの人数になるのは当然のことなのだろう。
それに、農場に勤めている人間の中に裏切り者が居た可能性は当然あるだろうし、トリティカムファクトリーのようにグログロベータ星系の各企業にも裏切り者が居たに違いない。
そうして考えていけば……最終的な被疑者はまだまだ増える事だろう。
「しかし、黒幕はいったい何者なのでしょうか? グログロベータ星系そのものを滅ぼして得を得られる人間などそう多くはないと思うのですが」
「しかも、使っている技術は最新鋭。宇宙怪獣モドキを生み出した点についてはその先とすら言える。そんな技術を持っている奴は裏まで見たって、ほぼ居ないだろ」
「二人の言う通りだと思います。ですが私たちには黒幕に繋がるような情報がありませんし、手に入れるのも……」
俺たちの言葉を受けてヴィリジアニラが少し考えこむ。
そして口を開いた。
「帝星バニラシドへ向かいましょう。そこには諜報部隊の本部があって、帝国中の機密情報は通信を介したものも、そうでないもの含めて、全て集まってくるはず。ですから、そこでなら黒幕について何かしらの情報が得られるはずです」
「分かった」
「……。かしこまりました、ヴィー様」
どうやら俺たちは帝星バニラシドへと向かう事になるようだ。
うん、黒幕について気になるところでもあるが、それと同じくらい帝星バニラシドそのものが今から楽しみになってきたな。
「ただヴィー様。水を差すようで申し訳ないのですが、メモたち三人はこれから念のために一週間ほど入院、メンテナンス、事情聴取になります。相手が相手でしたので」
「「……」」
なお、向かうのが早速遠退いたようである。
10/11誤字訂正