53:宇宙怪獣モドキ・海藻人間
本日は四話更新になります。
こちらは三話目です。
「ゴッン……」
「速いな」
海藻人間の動きは速かった。
普通の人間ならば、仮に見る事が出来ていても、対処に体の動きが追い付かなかっただろう。
「だがそれだけだ」
「ブウウゥゥ!?」
が、それだけだ。
海藻人間は俺へと装甲板の爪を振り下ろそうとしたが、それよりも早くに俺の本体の触手が出現して、海藻人間を胸を叩き、勢いそのままに壁へと叩きつける。
「そうですね」
そして、壁へと叩きつけられた衝撃で民生品の低グレード程度しかなかったシールドが剥がれたので、ヴィリジアニラがブラスターを頭部と思しき部分へ撃ち込んで追撃。
発生した熱によって海藻人間の頭部を爆散させる。
「ですが、油断は禁物だと思います」
「それは分かってる」
さて、普通の生物ならばこれで即死だ。
だが相手は宇宙怪獣モドキであり、確実に殺しきったと判断できるまで油断はできない。
なので俺は先ほど海藻人間を壁へ叩きつけた本体の触手を引き戻すと、触手に付いた海藻人間の粘液から相手の構成modを解析していく。
「ゴゴゴ……」
「ふんっ!」
「動きを止めることを優先します」
で、案の定と言うべきか、頭を失ったはずの海藻人間がシールドを復活させた上で、頭を再生させつつ再び動き出そうとした。
なので俺は棒を一閃してシールドを破壊し、ヴィリジアニラが非殺傷モードのブラスターを撃ち込んで海藻人間を痺れさせる。
「サタ、それで解析は?」
「やっぱり普通の生物ではないな。『バニラOS』とは微妙に異なるOSに、攻撃性の増幅やら再生やら宇宙環境での休眠やら色々と入ってる。とりあえずこの施設の外には出せない。出したら大部分が休眠状態に入った後に一部が膨らんで爆散、辿り着いた先で少しでも水分を得たら、そこから大増殖するっぽいぞ。当然グログロベータ星系のSw無しでもだ」
「魔改造ロケットコーンよりも危険じゃないですか……」
俺の説明と共にヴィリジアニラがブラスターを撃つ。
撃った先にあったのは最初に爆散させた海藻人間の頭部の切れ端で、撃たれた切れ端はサイズが小さかったためにそのまま消失する。
「で、ヴィーが気が付いた通り、こいつを殺しきるには細胞の一つも残さずに破壊する必要がある。毒か、物理か、熱か……まあ、方法自体は色々あるが、本当に一欠片も逃せないな」
「厄介ですね。私たちだけで手数が足りるでしょうか?」
ヴィリジアニラは更に数度ブラスターを撃ち、その度に密かに再生しようとしていた海藻人間の切れ端が焼かれていく。
俺も煙状の墨を撒く。
すると、海藻人間の切れ端は少しだけ嵩を増すも、少し増えたところで保有しているmodが一部無効化されて枯死する。
「ゴゴゴ……」
「それで本体はどうしましょうか? 切れ端と同じようにサタの墨で抑えられますか?」
「厳しいな。相手の嵩が多い上に、墨って結局は水分だからな。削る量よりも増殖する量の方が多いかもしれない。専用の毒と言うか、こいつを殺すためだけのmodも本体の方で今作っているが、一分くらいはかかると思う」
だがそうやって対処している間に海藻人間の本体は痺れから復帰し、失った頭部も再生させて立ち上がっている。
そして、この状況に対抗するためなのか、背中に戦闘機のスラスターのようにも見える物体が継ぎ足されている。
こりゃあ、時間をかければかけるほどに成長して、手が付けられなくなっていきそうだな。
後、これを墨で抑えるのは無理だ。
墨は接触した部分にしか効果が無いが、向こうが増えるのは全身のあらゆる部位で、表面積と体積じゃ、相手がわざわざ表面積を増やす工夫をしてくれなければ、増殖よりわずかに早い程度じゃ勝ち目がない。
ついでに言えば、エーテルスペースに引きずり込むのも無しだな。
何が起こるか予測が出来ない。
「ではそれで、私たちは足止めに徹しましょう」
「ゴンブウゥ! ウッ!?」
最初よりもはるかに速く海藻人間が飛びかかってくる。
だが、ヴィリジアニラにはそれが見えているし、対処できる範囲であったらしい。
多段の爆発が俺の眼前で起きて、海藻人間は再び壁に叩きつけられる。
「ウゴッ!?」
そこへ俺が追撃。
周囲に切れ端が飛び散らないように、注意を払いつつ、棒で海藻人間の全身を滅多打ちにしていく。
で、更に非殺傷モードに切り替えたヴィリジアニラのブラスターが再び撃ち込まれて、体を痺れさせる。
ただ、これで稼げるのが合わせて十数秒程度と言うのが、この海藻人間がモドキであっても宇宙怪獣である証拠とも言えそうだな。
普通の生物の耐性じゃない。
「後怖いのは……」
「サタ。気づいていますので大丈夫です」
「まあ、そうだよな」
俺の目が室内にある燃料タンクに一瞬向く。
燃料と言っているが、恐らくは液体状になったエネルギーの塊。
それを海藻人間が得たらどうなるかは……考えるまでもないだろう。
なので、俺もヴィリジアニラもそれとなく注意を払っておく。
「ゴンブブブブブ」
「それよりも、次をどう凌ぐかを直ぐに考える必要があります」
「それは確かにそうだな。こりゃあ、空気すらもエネルギーにしてるか?」
そして、俺たちが注意を払っている間に海藻人間はその全身を大きく膨らませ、身長が最初の倍くらいになっているし、腕も四本に増えている。
おまけにシールドmodも強化されているように感じる。
これを抑え切る手段は……まあ、一つしかないだろうな。
「ゴンブウゥ!」
「うおらあっ!」
「はや……サタ!?」
海藻人間がヴィリジアニラに飛び掛かろうとする。
俺はそれを読んで、海藻人間とヴィリジアニラの間に割り込むと、海藻人間の体をつかみ取り、腕力で以って無理やりに海藻人間の体を抑え込む。
「くっ!」
「ゴブウウゥゥ!?」
「このまま仕留めるぞ!」
海藻人間が俺の体に根を張って水分を吸い上げてくる。
肌を突き刺し、血管の中を這い回る感覚は不快極まりなく、同時にものすごく痛い。
しかもそれが時間経過とともに増していき、人形とは言え、体があっという間にズタボロにされていく感覚は筆舌に尽くしがたいものになっていく。
が、根本的なOSが異なるために水分を吸い上げる速さも、エネルギーを吸収する力も足りていない。
力を完全に開放している今の俺ならば、短時間限定ではあるが、このまま無理やりに抑え切る事が出来る。
加えてヴィリジアニラが次々にブラスターを撃ちこんでいき、海藻人間の動きを阻害していく。
「さあ、喰らえ。折角だから体の中に直接な」
「!?」
そして、解析してから一分経過。
本体が作り上げた特製のmodが俺の体、その血液に混ぜ込まれる。
血に混ぜ込まれた以上、水分を求める海藻人間は必然的に特製modを取り込むこととなった。
「ゴブアアアアァァァッ!?」
効果は絶大だった。
海藻人間の体は内から崩れ去っていき、あっという間に全身が砂状の物体へと変化していく。
強烈な再生能力やエネルギーの生成と補給周りを停止させられて、宇宙怪獣モドキに相応しいエネルギー消費を賄えなくなった結果だ。
「ヴィー! この砂を焼け!」
「分かりました!」
だがまだ完全に死んだわけではない。
まだ水分を得れば生き返る可能性がある部分が含まれている。
直感的にそれを理解した俺は人形の体から脂を発し、ヴィリジアニラはブラスターでその脂に火を点けた。
俺の脂の影響なのか虹色混ざりの銀色に輝く火は瞬く間に俺の全身と海藻人間だった砂に燃え移り……。
「ふぅ、なんとかなったな」
「そう……みたいですね」
新たに作り出した俺の人形とヴィリジアニラの目の前で、いつの間にか紫色に変わった炎によって海藻人間だった砂は跡形もなく燃え尽きた。