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52:証拠隠滅

本日は四話更新になります。

こちらは二話目です。

「クリア」

 施設の制圧は順調に進んでいった。

 人影が無かった上に、ブービートラップや戦闘用ロボットの類もなかったからだ。

 ただ、先ほどまで誰かが居たことは間違いないのだろう。

 居住区には放置されてから一時間程度とみられる飲みかけの飲料が残されていたし、倉庫からは貴重品を急いで持ち出したかのような跡が見受けられた。

 インフラ周りは……まあ、最低限レベルで異常もなかったので放置している。


「それでサタ。誰かが脱出した様子は?」

「無し。兆候も見られないぐらいだ」

「なるほど。では、順当に行けばこの先ですね」

 そうして制圧を進めていった結果。

 最後の一部屋になったのは、外部と唯一繋がっているであろう発着場代わりの部屋だ。


「すぅ……サタ!」

「おうっ!」

 ヴィリジアニラが部屋の扉を開け、俺が部屋の中へ飛び込み、素早く周囲を見渡して危険が無いかをまずはチェック。

 部屋の中にあるのは……外部に繋がっているであろうハッチ、燃料入れと思しきタンク、最低限の整備を行うためであろうパーツと器具が入っていそうな大型チェスト、それから……戦闘機とも呼ばれる、全長が20メートルほどの小型の宇宙船。


 ゴキッ、バキッ、ブヂュッ……。


「一足遅かったみたいだな」

 戦闘機のコクピット内には何か植物のようなものが蠢いていた。

 そして、今まさに何かを締め上げ、押し潰し、挽き砕いているような音が植物の内側から響いている。


「そのようですね。証拠隠滅でしょうか?」

「証拠隠滅……まあ、そうではあるんだろうな」

 戦闘機と言うのが人間が使うもの。

 さっきまで人間が居た様子がある事。

 この二点を考えれば、植物によって潰されているものが何かは考えるまでもないだろう。


 だがそれでもはっきり言うならば、ロケットコーンに魔改造を施した何者かが、絞め潰されているのだろう。

 そうして絞め潰したなら、死体は植物の栄養として分解吸収され、毛の一本すら後には残らないに違いない。

 証拠隠滅としては極めて優れた方法と言える。


「そうではある?」

「たぶんだが黒幕にとっては実行者の処分は既定路線だってことだ。今回のテロの成否にかかわらずな」

「それは……そういう事ですか。確かにそうですね。私たちは普通ではない手段でこの施設を知り、普通ではない手段で踏み込んでいるわけですから」

「ああ、俺たちが来たから処分したとは考えづらい。まあ、成功すればグログロベータ星系全体が滅んでいてもおかしくないテロ事件なんだ。黒幕としては自分に繋がる手掛かりは僅かにでも残したくなかったんだろうな」

 同時に今回の件の黒幕の思考が垣間見える。

 潰されている奴がどの程度の情報を持っていたのかは分からないが、グログロベータ星系が滅んだ後に万が一にも自分にまで捜査の手が及ばないようにしているのだろう。

 しかしこうなると、クリティカルな情報は機械に残さず、潰されている奴にしか渡していないとか、渡していても偽の情報とか、そういう事が普通にありそうだ。

 それでも何かを探り出せるかもしれないから、確保できるものは確保しておくわけだが。


「それでサタ。私たちはこれからどうするべきだと思いますか? もうしばらくすれば、手の空いている軍の部隊が私の位置座標を元にやってくると思うので、私としては施設の隠蔽解除以外にやる事はないと思っているのですが」

「どうするもこうするも、ヴィーの言ったこと以外にやる事があるとは思えないな。施設そのものは制圧済みで、インフラ周りに異常が無いのも確かめて……っ!?」

 不意に嫌な気配がした。


「サタ?」

「『ツメバケイ号』の時の蟹モドキに似た気配がした」

「っ!?」

 ヴィリジアニラが戦闘態勢を整えると同時に、俺も棒を構えつつ嫌な気配の出所……戦闘機内にある植物の方へと目を向ける。

 この嫌な気配は……うん、間違いないな。

 『ツメバケイ号』が宙賊に襲われた件、より正確に言えば、襲ってきた宙賊の船を制圧した後に起きた件と同じ気配がしている。

 何かが空間跳躍を利用して力を送り込み、嫌な気配がした場所にあるものを変質させていっている。

 この世に当たり前にあるものから、俺と同じように本来ならばこの世にあらざるものへと変化をさせていっている。

 悪意を以って、害意を以って、敵意を以って変貌させていく。


「これは……ある意味では黒幕に繋がる情報を得たと考えてもいいのでしょうか?」

「たぶんな。と言うか、あの蟹モドキを生み出すような力の所有者が何人も居るとは思いたくない。幾ら帝国が広いと言ってもな」

 変貌が終わると同時に戦闘機の中から何かが這いずり出てくる。

 それと同時に軽度の事象破綻が周囲で発生している事を示すように、腐敗臭にも似た臭いが立ち込めてくる。

 やはり宇宙怪獣……いや、こいつのOSと『バニラOS』にそこまでの差があるように感じられないし、自身の構成modを制御出来ているようにも思えないから、サイズ面も合わせて宇宙怪獣モドキと言うところか?


「逃げられますか? あるいは宇宙空間に出しますか?」

「どっちも止めておいた方が無難だろうな。逃げれば折角確保した他の証拠を壊されるし、宇宙空間に出したら……たぶん、この施設内では制限されていたグログロベータ星系のSwの影響を受けて急成長し、手が付けられなくなると思う」

「……。黒幕視点では今回の件は隙を生じぬ二段構えだったという事ですか」

「前門のロケットコーン、後門の宇宙怪獣モドキて事だな。実に悪辣だ」

 なんにせよだ。

 出てきたそれは、海藻の塊を人間の形にまとめ上げたような生物だった。

 多少両腕は長いが、人間との形の差異はそれぐらいだ。

 表皮のメインになっているのは横幅が広く、表面にぬめりのある海藻で、内側には細い海藻と大量の人間の目玉が詰められているようだった。

 戦闘機の中で発生したからか、戦闘機の装甲板を外骨格や爪のように張り付けている部分も見られる。

 とりあえず仮称で海藻人間とでも呼んでおくか。


「ゴブウウウゥゥゥ!」

「来るぞ!」

「はい!」

 そして海藻人間は床の上を素早く滑りつつ手を振り上げ、俺たちへと向かってきた。

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