前へ次へ
50/319

50:歓迎とは知っていてこそである ※

本話はヴィー視点となっております

「ありがとうございます! ヴィリジアニラ……」

「近づくな」

「さ……ま……?」

 メモの操るスクーターが港に着地します。

 私は笑顔を浮かべて、サタは険しい顔で、メモは無表情でスクーターから降りると、企業コロニーの関係者と思しき一団に目を向けます。

 そして、一団の中から男性が喜びの顔で近づいてくると、サタが素早くチタン製の棒を手に持ち構えます。


「メモクシ。こいつらに状況終了の報告は?」

「まだしていません。騒動の大本であるロケットコーンの農場についてもまだ未解決ですので、警戒が解かれている事もないでしょう。そもそも……このコロニーにロケットコーンが接近中であることを知っているのは管理室の面々とスクーターの貸し出しに関わった数名だけです。貴方たちはそのどちらでもありませんね」

 集まっていた人々の顔が青ざめていきます。

 ただ、その表情の大半はどうしてこうなっているのか理解出来ないと言うもの。

 なるほど、大半の方々は扇動されただけの無関係な方のようですね。


「わ、私たちは……」

「こっちとしても敵とまでは思ってない。だから、ゆっくりと、不審な動きをせずに、コロニーの中へと戻れ。事情は後で聞く」

「わ、分かりまし……」

 怪しいのは……ああ居ました。

 今の疲れた目でこういう事はやりたくないのですけれど、そこへ向かうなら容赦は出来ませんね。


「ギャアッ!?」

「……た?」

「ヴィー!?」

 と言うわけで無警告発砲です。


「暴徒鎮圧用のロボットたちにこっそりと近づく。この状況下でそれを見逃すとでも?」

「それはまあ、見逃せないよな」

「妥当な判断ですね」

 殺傷状態にしたブラスターでシールドを剥がし、その後に非殺傷状態にしたブラスターを男に直撃させて、倒します。

 そうして倒れた男が立って居たのは、本来ならば暴徒鎮圧用のロボットたちを緊急起動するための装置。

 今の状況下で起動したならば、ロボットたちは企業の人間ではない私たちに襲い掛かってくることでしょう。

 起動したところで今のサタとメモに敵うとは思えませんが、止められるものは止めておくべきと判断したので、抑えます。


「さて、もう一度言うぞ。コロニー内に戻れ」

「わ、分かりました!」

 残った人たち……恐らくは今倒れている男に煽られただけであろう人たちがコロニーの中へと入っていきます。

 そして、倒れた男についてはサタが捕縛した上で、企業コロニー側の警備員……管理室の人たちからもお墨付きの人によって、警察か軍が着くまで拘束されることになりました。


「ま、今の奴は使い捨ての末端だろうな。幹部なら、本来なら木っ端微塵になっていたこの場に留まっているはずがない」

「そうですね。妥当なところでは、トリティカムファクトリーの保有する何かしらの技術をテロリストに売り払った人間が破れかぶれで、と言うところでしょうか」

「問題は一人だったのか、複数だったのか、他の企業はどうなのか……ま、そこら辺はもう俺たちの関与するところじゃないか」

 私たちは港近くの一室へととりあえず移動します。

 そこでメモがベンチにクッションを置いて簡易の休憩所を作り、私はそこで横になると、目を瞑ります。

 流石に今回は目を使い過ぎましたね。

 微かにですが、目が熱を持っているような感覚もあります。


「サタ様。ロケットコーンに使われていたmodについての情報をメモに送っていただけますか? 諜報部隊と共有しておきますので」

「分かった」

 私が休んでいる間にサタとメモは情報の共有を済ませておくようです。

 二人は宇宙怪獣とガイノイドなので、私とは体力が段違いだと言うのは分かるのですが……こういう時に一人だけ休まざるを得ないと言うのは少し悔しいですね。


「何故味についての記載が?」

「能力上、食うのが一番解析しやすいから。で、あまりにも不味かったから、思わず書いてた。こういう面でも今回の黒幕を俺は許せない」

「……。そう言えば、ロケットコーンの味は美味しいと言うのが一般的な評価でしたね」

「今回の件が解決したら、ちゃんとしたロケットコーンを食いたい……」

 そう言えば、サタの本体が居る空間にロケットコーンを送ってしまって大丈夫だったのでしょうか?

 OSからして異なる空間であるようなので、送り込まれたロケットコーンは直ぐに枯死してしまうのでしょうけど、それでも瞬時ではないはず。

 一応聞いてみましょうか。


「サタ。サタの本体が居る空間にロケットコーンを送ってしまいましたが、大丈夫だったのですか?」

「ん? ああ、その心配なら不要だ。俺が居る空間はあの程度の爆発でどうにかなるような空間じゃないし、俺本体も同様だ。味はクソみたいなものだったが、量と栄養はしっかりとある食料止まりだよ」

「そうですか。ならよかったですが」

 どうやら大丈夫だったようです。


「と、そう言えば、かじったロケットコーンから得た情報で相手の居る場所……少なくとも関係先には直接殴り込むことも出来そうだが……どうする?」

「それは……どうしましょうか?」

「サタ様。それは発射された農場という事ですか?」

「分からん。取得できたのは座標だけだからな。グログロベータ星系内の何処かとしか判別できない。それに俺の認識に基づく座標だから、帝国軍との共有も図れない。ただ……」

「ただ?」

「今回のロケットコーンで、恒星や惑星があるわけでもないのに、此処にだけは向かわないようにと指定されていた場所だからな。何かしらの意図がある事だけは確実だ」

「なるほど。興味深い話ですね」

 高確率で相手の本陣であろう場所へ直接乗り込むことが出来る、ですか。

 流石は宇宙怪獣としか言いようがありませんね。

 ロケットコーンの失敗で犯人たちが逃げ出してしまう可能性も考えるのであれば……。


「メモ、本部に連絡して、情報と私の位置のトレースを共有して」

「分かりました。ヴィー様」

「サタ。必要な準備を教えて。目の熱がある程度引いたら向かいます」

「……。分かった」

 向かいましょう。

 出来るだけ早く。

10/10誤字訂正

前へ次へ目次