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5:『ツメバケイ号』

本日五話目です。

「それでは三日間よろしくお願いします」

「うむ。船長として、どちらもいい記事が書けることを祈ってるよ」

 船員さんに連れられてまず訪れたのは船長室。

 そこで俺たちは『ツメバケイ号』の船長さんと顔合わせをし、改めて注意事項などを伝えられた。

 まあ、その内容を要約してしまえば、『三日間、お互いに仲良くしましょうね』、『変なことはしないように。したら最悪宇宙遊泳ツアーだから』、『取材は事前に許可した範囲でお願いね』ぐらいなものであり、当たり前の話でもある。


「さて、此処がウチの食堂だな。船員も此処を使う。何が出てくるかは時間帯と担当次第。で、こっちはサタ様とヴィリジアニラ様の二人にだけ渡すものだが、客向けの食堂の使用券8回分。メモクシ様については三日分のエネルギーパックだな」

 続けてやってきたのは食堂。

 20人ほどが一度に入れるサイズの食堂であり、厨房では二人ほどの人が働いている。

 壁には船の外が見れる大きな窓が設置されているが、今はまだコロニーのドッグ内を映しているだけだ。

 で、渡されたのが食堂の使用券8回分。


「一応聞いておきます。もしも、9回目以降の食事が欲しくなった場合は?」

「その場合は追加料金をもらう事になるな。尤も、金を払っても物がなければ食わせられない以上、増やせるのはどんなに多くても二回か三回ってところだな。あ、水くらいならおかしな量で無ければ無料だ」

「なるほど」

 ちなみに提示された料金は一食追加ごとに15バニラポンドほど。

 普通にコロニーにある大企業運営のファミリー向けレストランで外食一回……よりは少し高いか。

 安くて美味いで有名な『ジャスミノイデス』だと満足するまで食べても10バニラポンドくらいだしな。


「ああー、それとだ。事前申請が無かった以上、アレが食えねぇ。これが食えねぇってのは無しだし、アレルギー関係への配慮もなしだ。船である以上、調整したくても出来ないからな」

「それは当然の事ですね。私は何でもいただけますので大丈夫です」

「俺も大丈夫です」

 厨房の中で今料理されているのは……匂いと見た目からしてヒラトラツグミ星系で一般的な大型家禽を丸焼きにしたものっぽいかな?

 食べられるようになるのは船が出発したらか。

 うん、とても良い匂いがしているし、『ツメバケイ号』が出発したら昼食にはちょうどいい時間になるし、食べに行こう。


「じゃあ次だな。こっちは遊戯室だ」

 『ツメバケイ号』の中を歩くこと少し。

 ちょうど食堂の反対側にある部屋にやってきた。

 そこは船員さんの言葉通りに遊戯室になっていて、ルームランナー数台、FPS系のゲームが3タイトル、簡単なAIがディーラーを代わってくれるトランプもあるようだ。

 それに外を見れる窓も設置されているな。

 人影は……現在非番の時間帯であるらしい船員さんが遊んでいるらしく、何人か居る。

 ただ、そんな遊戯室で一番目立つのは……。


「これはまた立派なナインキュービックの台ですね」

「船長の趣味でな。六人対戦まで出来るガチ台だ」

 9×9×9の盤をホログラムで表現する盤上遊戯の一種、ナインキュービックだ。

 ナインキュービックは自分で27の駒を選び、配置し、動かし、相手の大将駒を討つことを目的としたチェスや将棋に似た盤上遊戯であり、その盤は普通は1立方メートルもないサイズなのだが……『ツメバケイ号』の遊戯室に設置されているのは一辺が3メートル近い特大サイズ。

 これは観戦をしやすいが、うん、完全に趣味だからこそのサイズだな。

 間違っても一般的なサイズの盤ではない。


「船長様はお強いのですか?」

「少なくとも素人相手に負けた姿は見たことねえな。場合によっては二対一の一側で普通に勝ったりもしてる」

「それは……お強いですね。数的不利の状況はそれだけで厳しくなるはずですのに」

 ちなみにナインキュービックは宇宙空間での艦隊決戦を元に作られた遊戯であり、乱数要素を加えればバニラ宇宙帝国の軍学校の簡易盤上演習で用いられる事もある代物でもある。

 この盤は……うわ、乱数要素の追加も可能だし、マイナールールの追加も可能だし、オリジナル駒も入れられるようになってる。

 見た目から分かっていたが、本当に一般的なものではないな。


「興味があるなら船長が休みの時間に挑んでみて下せえ。ウチは三交代制、8時間働いて16時間休むって形になってますから、休みの時間に誘えば喜んで乗ってくると思いますよ」

「では、その気になりましたら」

 ヴィリジアニラは船員さんの言葉に微笑んでいる。

 どうやらヴィリジアニラはそれなりにナインキュービックの腕に自信があるようだ。

 やはりヴィリジアニラは貴族関係者のようだ。


「ボソボソ(ちなみにサタ。自信があるなら少額だが賭けもありだぞ)」

「ボソボソ(無理無理。公式の駒だけでも700種類を超えるゲームなんだぞ。そんなゲームの大型盤を持っていて、腕を磨いているのと戦えるか。こっちは定石すら最低限だぞ)」

「ボソボソ(ま、そうだよな。俺も自分とよくやる連中が好んでいる駒の動きくらいしか分からねえし、定石も似たようなもの。ガチ連中とやり合うのは無理だ)」

「「はっはっは、でっすよねー」」

「?」

 近寄ってきた船員さんがヴィリジアニラたちに見えないように手で円を作りつつ、微笑みかけてくる。

 うん、この手の船内で行われる対戦ゲームではだいたい賭けも一緒に行われるわけで、今俺はそういう事をしないかと誘われている状態なのだ。

 が、ヴィリジアニラと言う明らかに貴族な人間が居るので、表立って誘う事が出来ない感じなのだろう。

 当然ながら断る。

 ナインキュービックはそんなに強くないので、カモられる未来しか見えない。

 ついでに言えば、ナインキュービックは腕がいいもの同士だと普通に数時間がかりになるので、そんな時間を取っていられないと言うのもある。


「後はそれぞれの部屋だな。ヴィリジアニラ様とメモクシ様は申請通りに二人で一部屋になってます。狭い部屋ですが、そこはまあ、諦めてください」

「あら、可愛い部屋ですね」

「問題ありません」

「ふむふむ、なるほど。トイレ、風呂はそれぞれ個別に、と」

 そして最後にそれぞれの個室を案内されて、船内の案内は終了となった。

 勿論、『ツメバケイ号』が貨客船である以上、他にも操舵室、動力室、貨物室、船員の私室、何なら万が一に備えた戦闘関係の諸々もあるわけだが、そこは客を入れる場所ではないので、案内する必要もないという事なのだろう。


 では、これまでの部分をちょっと記事にまとめておくか。

 『ツメバケイ号』は貨客船として上等の部類に入るのを前提に色々と書かないとな。

次回は0時更新予定となっております。

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