48:三位一体対ロケットコーン
「では、順番に確認をしていきましょう」
流石は軍の諜報部隊で、皇室の関係者と言うべきか。
ヴィリジアニラの名前と身分を提示する事で、トリティカムファクトリーの管理室に立ち入る事は簡単にできた。
で、そこでコロニー内の現状について俺が情報収集をしつつ、メモクシがコロニーの外壁に取り付けられているカメラの情報を回収し、ヴィリジアニラの目でそれを解析。
同時に俺の本体でコロニー周辺の宙域を見回った。
だが、此処で一つの問題が起きた。
「こちらに向かってきているロケットコーンにはシールド貫通効果が付与されている可能性が高く、一発でも見逃すわけにはいきません。二人ともこれはいいですね」
「ああ。だが、通常のロケットコーンなら確認できる推進剤の噴出光は確認できず。また、コロニー周囲を観察するカメラ程度ではロケットコーン本体の確認も出来ず、か。距離があるとはいえ厄介な話だな」
「推進剤が見えないのは既に慣性飛行に移行しているからでしょう。本体が見えないのは距離か……何かしらの隠蔽が行われている可能性もありますね。なんにせよ、位置が分からなければサタ様の力も使いようがありません」
向かってきているはずのロケットコーンが見つからないのだ。
見つけさえすれば俺の力で何とでもなる筈なのだが、見つからなければ俺の力ではどうしようもない。
なお、俺はコロニー周辺を観察するカメラ程度と言ったが、決して安物ではないし、低解像度でもない。
比較対象と探す相手が普通でないから、そういう言葉になってしまうだけである。
閑話休題。
ではどうやって見えないロケットコーンを見つけるのか。
そんなものは決まっている。
「ええ、その通りです。なので私が肉眼で見つけます」
「頼んだ。見つけさえすれば、俺が何とかして見せる」
「スクーターの操縦はお任せください」
ヴィリジアニラの目だ。
生半可なカメラなど相手にならないほどに優れたヴィリジアニラの目で以って、こちらに迫ってくるロケットコーンを見つけ出すのだ。
が、ヴィリジアニラが一人でコロニーの外に向かっても仕方がない。
なので、コロニー外で活動するための三人乗りスクーターを、アンドロイドなのでそのままの服装で問題ないメモクシが操縦。
その後ろに宇宙服を身にまとったヴィリジアニラが着席して観測。
さらにその後ろに、偽装の為に宇宙服を身にまとった俺が座り、ヴィリジアニラが見つけ出したロケットコーンを処理する事になる。
「ではサタ。私、ヴィリジアニラ・エン・バニラゲンルート・P・バニラシドの名の下に、サタ・コモン・セーテクス・L・セイリョーの真なる力の開放を許可します。事態の解決のために力を貸してください」
「仰せのままに、てな」
と言うわけで準備完了。
出発前に宇宙服の下にある鵺のマークにヴィリジアニラが手を当て、宣言し、俺の能力を解放する。
これで後は見つけるだけだな。
「では出発します」
そして、メモクシの操縦でスクーターは企業コロニーの港から出発。
modの働きによって空気が保持されているエリアから、空気が存在していないエリアへと移動する。
此処からは普段と違って通信機による会話になるな。
「さて、俺の目だと惑星や恒星、コロニーは分かってもロケットコーンは分からないな」
『メモの目でも同様ですね。現状では見つけられません』
『急ぎましょう。もしも慣性飛行に移行しているのなら、それは既に十分に加速しているという事。であれば、普通のカメラでは認識した時点で着弾直前と言う速さになっているかもしれませんから』
無数の星々が輝く、絶対零度に0気圧に放射線と言う普通の人間が即死するには十分すぎる条件が整った暗黒空間。
そんな空間をメモクシは音もなく動くスクーターを操って移動し、軌跡に光を残していく。
『サタ様。サタ様のヘルメットにはヴィー様が指定した場所を映し出す機能を付けてありますので、それを参考にしてください』
「分かってる」
向かう先はロケットコーンの小惑星帯農場がある方向。
真っすぐに飛んでくるなら、そちらから向かってくるはずだからだ。
ただ、相手がロケットコーンの改造技術を有している以上、軌道の変更程度は可能であると考えられるので……見つかるのがベストだが、見つからないと言って油断は出来ないだろう。
『見つけた!』
そして、その方向へ着いたところでヴィリジアニラが叫び、俺のヘルメットに距離付きのマーキングが映る。
俺の目ではそこに何があるかは見えないが、ヴィリジアニラがあると言ったなら、そこに何かがああるのだ。
なので俺はマーキングが映ると同時に腕を伸ばし、手を広げ……掴む。
「よし、掴んだ!」
『流石です、サタ』
『まずは一本ですね。サタ様』
うん、掴んだ。
俺の本体で掴めるほどに近づいたのに、それでもなおはっきりと目視できないのだが……確かに掴んだ。
そして、掴んだそれは直ぐに俺の本体が居る空間へと引きずり込んだ。
これで無力化成功だ。
で、相手の正体を探る意味でも本体で引きずり込んだロケットコーンをかじってみたのだが……。
「……」
『サタ様、検査結果は?』
『サタ、どうかしましたか?』
俺は自分が感じ取ったものに思わず頬が引き攣った。
「一体どこの馬鹿だ。並の技術じゃないぞ……」
『『!?』』
かじったロケットコーンには改造なんて言葉が生温く思えるほどの改造が施されていたからだ。