47:緊急ニュース
「さて、午後も引き続き工場見学で?」
「ええ、その予定です。サタがさっきまで食べていたショートブレッドを作っている場所も……」
俺とヴィリジアニラは暖かい麦茶を飲んで一息つく。
これで昼食は終わりだ。
と言うわけで、ヴィリジアニラが午後の予定を口にする。
ギュイイィィ! ギュイイィィ! ギュイイイィィィ!!
そして、それを遮るように敢えて耳障りにされたアラーム音が食堂に鳴り響く。
「「!?」」
アラームを受けて直ぐに俺とメモクシはヴィリジアニラを守るように立ち、周囲へと注意を向ける。
大半の人間の視線はアラームの音源であるモニターあるいは自分の情報端末に向けられている。
一部の人間……恐らくは護衛と警備を仕事として居る面々はこれから何が起きてもいいように警戒すると共に、避難経路の確認を始めている。
「……」
ヴィリジアニラが複数あるモニターへ目を向ける。
モニターに映っていた画面はこれまではそれぞれのモニターごとに異なる映像を流していたが、今は一つのニュース番組……緊急時の通達専用の番組だけを映している。
『緊急ニュースです。グログロベータ星系の小惑星帯農場にあるロケットコーン農場の一つが『帝国人民解放戦線』を名乗るテロリストによって占拠されました』
「テロ? 珍しいな」
「そうですね。二重の意味で珍しいです」
「ロケットコーン農場ですか。メモは少し調べます」
テロ事件の発生は珍しい。
そして、それが解決される前に報道されるのはもっと珍しい。
テロリストの目的の一つに売名行為がある事に加え、報道によってテロリスト側に情報を渡してしまう可能性があるからだ。
しかも占拠されたのがロケットコーン農場とは……。
メモクシが既に調べているようだが、緊急通達番組のことも併せて考えると嫌な予感しかしないな。
で、残念ながら嫌な予感は的中するらしい。
『テロリストたちの要求は不明ですが、犯人たちは自らの本気を示すためと称し、既に十数発のロケットコーンを発射しているようです。現在、治安維持部隊が発射されたロケットコーンの破壊を試みていますが、全てのロケットコーンの軌道を確認する事は出来ておりません』
周囲がざわついていくのを感じる。
『よって、グログロベータ星系内に存在している全コロニー、全惑星、全宇宙船に緊急事態の発生が通達されました。この放送を目にしている方々は速やかに自らと周囲の命を守るための行動を開始してください。繰り返します。グログロベータ星系内に緊急事態の発生が通達されました。この放送を……』
「ご安心ください! トリティカムファクトリーには此処にいる皆様を収容してなお余裕がある避難区域がございます! 時間にも余裕がございます! 係員の指示に従って、ゆっくりと安全に移動を開始してください!」
そして、そのざわつきが爆発しそうになる直前にトリティカムファクトリーの従業員の言葉によって、ざわつきが萎んだ。
これなら大丈夫そうだな。
食堂に居た人たちはゆっくりと移動を始める。
「ヴィー様。確認が取れました。確かにロケットコーン農場が占拠されています」
「そう。その先は非音声でお願い」
「はい」
メモクシからヴィリジアニラと俺の情報端末に情報が送られてきて、ヴィリジアニラは周囲からは絶対に見えないであろう最小サイズのモニターでそれを確認。
俺も本体の方で情報を確認する。
なるほど。
占拠されたロケットコーン農場は一つではなく三つ。
しかし、三つのうち二つは軍と治安維持部隊が事前に情報を得ていたようで、事が起こり切る前に制圧済み。
だが、残る一つは行動そのものが突発的だったとかで、抑えきれなかったようだ。
おまけに突発的に行動を起こすような連中だけあって、行動も刹那的と言うか衝動的と言うか……厄介なことに速攻でロケットコーンを打ち上げられてしまったようだ。
で、打ち上げられたロケットコーンの大半は既に撃墜済みであるが……数本が行方不明。
発射角度などから予測する限りでは、トリティカムファクトリーの企業コロニー……つまりはこちらに向かってきている可能性が高いとのこと。
「ヴィー様、サタ様、続報です」
「……。なるほど。ここでそう繋がりますか」
「なんて嫌な繋がりと言うか……どこの誰だ? 実行犯は衝動的でも、計画した奴は相当だぞ」
続報は打ち上げられたロケットコーンに細工が行われている可能性が高いと言うもの。
具体的に言えば、例のシールド貫通modを持つ金属がロケットコーン全体を薄く包んでいる可能性が高いそうだ。
それはつまり、今飛んできているロケットコーンが企業コロニーに直撃した場合……企業コロニーをスペースデブリや小惑星の衝突から守ってくれているシールドを貫通して破壊をもたらす可能性が高いという事になる。
「サタ、メモ。トリティカムファクトリーの管理室へ向かいます。ロケットコーンの迎撃を試みましょう」
「仰せのままに。ヴィー」
「仰せのままに。ヴィー様」
なるほど、これがヴィリジアニラが感じ続けていた脅威の正体。
だから俺たちがここに居るのが最善であるとヴィリジアニラの目は告げた。
であるならば、此処からは俺の仕事だな。
さあ、収穫の時間だ。
10/07誤字訂正