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41:遭遇した事件の続報・1

「えーと、此処はこう書いて。こっちの写真はこうして……」

「文章よし。写真よし。大丈夫ですね。では編集の方へ一度お送りして……」

 さて、ティーフリズ社のmod製造工場の見学から数日経った。

 この間、他にも工場見学として農機具などに使われる金属部品の製造工場や、各種廃棄物から肥料を作る工場や、降船口から乗船口まで移動しつつ補給と整備を行われる宇宙船を見たりだとかした。

 おかげで俺の記事のネタはたっぷりと貯まっていて、ホテルに一日引きこもる今日は全力で執筆作業中である。


 また、記事には出来ないが、ヴィリジアニラの要望で他にも行っているところはある。

 第一コロニー中、場合によっては惑星グログロベータ1で出た怪我人の治療に当たる事もある大病院。

 様々な事情から親を亡くし、引き取り手も居なかった子供たちを育てている孤児院。

 どことなく忙しない感じが漂っていたので、俺たちが深く見ることで負荷を増すのを懸念し、軽く見るに留めておいた警察署。

 と言った具合だ。

 まあ、当然ながらどこも問題はなかった。


 余談だが、孤児院については、表向きは独立した慈善団体だが、裏には思いっきり帝国軍の手が入っているとのことだったので……まあきっと、あの子供たちの一部は俺たちの後輩になるのだろう、たぶん。

 ま、帝国の力になるなら悪くはない未来だと思うので、大丈夫だろう。


「ヴィー様、サタ様。報告が各所から上がってきました」

「分かりました。サタ、一度休憩をしましょうか」

「そうだな。そうするか」

 動いているのは俺たちだけではない。

 どうにもきな臭い雰囲気が第一プライマルコロニーと言うかグログロベータ星系全域で強まっているらしく、メモクシは諜報部隊、治安維持部隊、警察、地方政府と言ったところに顔を出して、俺たちが手に入れた情報を渡すと同時に、俺たちに渡しても問題ないと向こうが判断した情報を集めて来てくれている。

 では、体の休憩も兼ねて、メモクシの話を聞くとしよう。

 うーん、今日も花茶の香りがリラックスさせてくれる。


「では順番に報告を。まずはギガロク宙賊団壊滅の続報です」

「内部崩壊したって話だったか」

「そうです」

 一つ目、ギガロク宙賊団壊滅の詳細について。

 この件はギガロク宙賊団が大規模な宙賊団で、不審な点も多いから、一般的なニュースサイトには情報がまるで流れてきていない。

 なので、メモクシの話は貴重なものになるだろう。


「具体的なきっかけはまだ掴めていないようですが、部下の粛清を上が試みたのと、一部幹部の下克上の実行が噛み合ってしまったのが原因の一つのようです」

「なるほど」

「ただこの件については崩壊の原因よりもその後の方が重要ですね。ヴィー様が捕らえた宙賊と、サタ様が制圧した船に残されたデータから分かった話が出て来ています」

 メモクシ曰く。

 内部崩壊が始まると同時に幹部クラスや一部技術者は逃げ出した。

 『ツメバケイ号』に襲い掛かってきた宙賊たちもそういう連中。

 逃げた連中は帝国中に散らばって潜伏しており、各地で無法を働き始めている。

 結果、現在帝国軍と宙賊狩りを専門とするハンターは書き入れ時を迎えているらしい。


「完全に殲滅する事は出来そうですか?」

「厳しいと思われます。ギガロク宙賊団残党とでも言うべき連中は既に各地で根を張り始めています。目立った連中は刈り取れますが、市井の一人として紛れられたら、どうしても取り逃がしは生じる事でしょう」

「そして、その取り逃した連中に限って面倒な技術持ちだったりするから、そいつらが地下で育って……か。厄介だな」

「そうなります。ただ、メモたちに出来るのは残党を偶々見つけた時に、通報するか制圧するかくらいでしょう。積極的に探し回る余裕はありません」

「それは分かっています。割り切りたくはありませんが、割り切りましょう」

 これは年単位で悩まされる上に根が深い話になりそうだな。

 確かにギガロク宙賊団そのものは崩壊したかもしれないが、種は帝国中に広げられてしまった。

 一時的には平和であっても、将来に禍根を残したことは疑いようがないな。


「『ライムスツノ号』で出現した例の蟹についても続報があります」

「アレか」

 メモクシの話は続く。


「専門家の手によって改めて『ライムスツノ号』の人造人間製造装置について調査が為されました」

「ふみふむ」

「結果。人造人間製造装置は、間違いなくサタ様の手によって破壊されていた。しかし、破壊された後に例の蟹が生み出された明確な痕跡があった、だそうです。厄介なことに未知のmodが使用された痕跡もなく、専門家目線でも訳の分からない事態が起きているようです」

「「……」」

 どうやら、かなりの異常事態が起きているみたいだな。

 装置が壊されていたのに、装置から生れ落ちているって、どう考えてもおかしいだろ。


「そのため、サタ様にセイリョー社、諜報部隊、警察、帝国軍の連名で何か心当たりはないかと質問が来ています。どう返されますか?」

「どう返すも何も……俺が分かるのは当時感じたとおり、何かが空間跳躍してきて、何かしらの干渉が行われた、これだけだぞ」

「では、そう返しておきます。……。宇宙怪獣について詳しくはないかと諜報部隊から即座に次の質問が来ましたね」

「宇宙怪獣についてねぇ……」

 諜報部隊、少なくともメモクシと連絡を取り合っている誰かは割と近くに居るらしいな。

 探したりはしないが。


「悪いが俺は宇宙怪獣と言っても、イレギュラーな宇宙怪獣だ。あの蟹も宇宙怪獣に近かったが、もどき程度だった、よって、俺は一般的な宇宙怪獣がどんなのかなんて知るわけがない」

「なるほど」

「こんな追加質問が来る当たり、諜報部隊も例の蟹は宇宙怪獣関係だと捉えているんだろうが……本当に関わっているかは未確定だ。俺の情報だけを根拠に絞っているなら、視野を広げた方がいい」

「伝えておきます」

「ま、俺から言えるのはこんなところだな」

 で、例の蟹については……結局分からずじまいだな。

 どうして発生したのかも、誰が発生させたのかも不明だ。

 なんなら俺の行動が例の蟹の出現に関わっているかだって未確。

 こうなってくると、分からない事が分かりました、と言う風に言うしかないな。


「メモ。他の情報は?」

「あります。では次はガイドコロニーでの通り魔の件ですね」

 さて、話はまだあるらしい。

 聞いていこう。

10/01誤字訂正

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