40:ヴィリジアニラが見る街並み ※
本話はヴィー視点となっております
「さて、これで後は街を見ながらホテルに帰還か?」
「ええ、その予定です」
今日の工場見学は非常に有用なものでした。
ティーフリズ社が問題のない企業である事は確認できましたし、サタのmodについての知識が一般人とはかけ離れたものであることも改めて確認できましたから。
後でティーフリズ社については、表立った問題が見受けられなかったと、諜報部隊には報告を上げておきましょう。
サタのmod知識については……サタ本人の素質もあるのでしょうけど、セイリョー社の技術力と教育能力を窺えますね。
ただ、セイリョー社の監査は位置が位置だけに機会があれば、ですね。
「ただ小腹も空いていますから、表通りから少し離れて、地元の方しか知らなさそうな飲食店を探してみましょうか」
「分かった。注意を払っておく」
「ヴィー様。油断はしないようにお願いします」
また、今日の用事は工場見学ではありません。
ティーフリズ社のmod製造工場があるのは、第一プライマルコロニーの一般市民が暮らしている区域の中にあり、ホテル『エディブル・クリセンマム』から向かうのであれば、自然と居住区になっている場所を通ります。
これを利用し、徒歩で向かう事によって、市民の暮らしぶりや一般商店の様子を観察することも私の仕事になっています。
なので、帰り道は行きとは違う道を通る事で、より多くの情報を集められるようにします。
「二人とも、警戒し過ぎでは? 脅威が去った気配はないですけど、差し迫っている気配もないですよ」
「ヴィー様がそう言った時こそむしろ危ないとメモは記録していますので」
「表通りから少し離れてで、地元民も通らない裏通りに入ってしまった。と言う経験は俺にもあるからな。脅威関係なく注意は必要だろ。どっちにとっても」
サタが私の少し前を歩き、メモが私の少し後ろを歩きます。
どうやら未来視の件で警戒させてしまっているようです。
その未来視はこれまでの経験から今はまだ大丈夫そうな感じなのですけど……これは私にしか分からない感覚なので、共有できないのは仕方が無いですね。
それに、メモの言う事にも心当たりがありますし、サタの経験もその通りと言うほかないものなので、私も出来る範囲での注意は払っておくとしましょうか。
「うーん、飲食店。飲食店……」
さて、街の中を歩いていると色々なものが目に入ってきます。
飲食店についてはサタとメモに任せて、私も見るべきものを見ましょうか。
例えば待ちゆく人々のこちらを一瞬警戒するも、こちらが会釈をすると同時にあちらも会釈を返して、警戒を緩める姿。
コロニーの中と言えども絶対安全とはいかないので、見知らぬ姿を見かけたならば普通の反応ですね。
これが無警戒だったり、敵意だったり、もっと得体のしれない何かだと、実行された動きによってはこちらも相応の対処をする必要があるのですけど、そういう事はないようで何よりです。
やはり、この辺りはまだ治安もいいようですね。
例えば書店。
店頭には料金を払えば即座に情報端末へとダウンロードが出来る書籍の表紙が並べられています。
店内にも同様に即時ダウンロードが可能な書籍の一覧がジャンル、出版社、作者の名前、タイトルと言った分類の下に並べられていますね。
ここで注意を払うのは売れ筋になっている本の内容です。
このお店だと……帝国中で人気がある漫画の最新刊、雑誌の最新号といったよく見かけるものから、グログロベータ星系らしいと言えばいいのか、農業関連の本や野菜や果物を使った料理のレシピ本が並んでいますね。
あ、ロケットコーンの生態について詳しく書かれた本などもありますね。
でも特に怪しい本は見えません。
「ん? 発禁処分の本でもあったのか?」
「サタ、そんなものはそもそもデータの形では取り扱われないと思いますよ」
「そういう本は表紙やタイトルにもそうは書いていないかと」
「ま、それはそうだよな」
なお、帝国ではほとんど全ての思想を許容していますし、許容されない思想も実行に移さないのであれば黙認。
本として書く程度ならば、許容されない思想も許されます。
表現の自由と言うものがありますので。
なので、此処で言う発禁処分の本と言うのは、modの製造方法だとか、地元政府中枢の地図だとか、そう言う安全管理の観点から見て無制限に閲覧させるわけにはいかないものという事になります。
尤も、ギガロク宙賊団のような一部宙賊が違法mod技術を有している点から考えるに、どこかでそう言うデータあるいは製本された物体が出回っている可能性はあるのですが。
それはそれとして、折角なので帝国諜報部隊のフロント企業が出版している女性向け雑誌は購入しておきましょう。
此処で私が購入しておけば、私の足跡として何かあった時の記録になりますから。
「ん?」
「サタ、どうしましたか?」
「いい匂いがするな。これは……ラーメンだ。それも野菜たっぷり系の奴だ」
「ラーメン……ちょうどいいですね。では、昼食としてそちらへ向かいましょう」
と、ここでサタが地元密着型らしきラーメン店を見つけたので、そちらへ向かいます。
私はラーメンには詳しくないのですが、野菜を中心にダシを取った醤油ラーメンと言うものらしく、麺はグログロベータ星系産の小麦から作られたもの、具材は様々な野菜をそれぞれに適した調理法で仕上げたもの、肉に見えたものも大豆から作られた代用肉とのことでした。
ですが、modを一切使わずに仕上げられたその味は非常に美味であり、一口食べる度に野菜、スープ、麺のうまみが口の中に広がり、十分すぎるほどの満腹感と満足感を覚えるものでした。
流石はサタです。
サタも無言で味わって幸せを噛み締めているようなので、私も今は味わう事に専念しますが、後でしっかりと褒めないといけませんね。
本当に満足しました。