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38:三者三様の見方

「しかし、ケーラビーに発見、捕縛されたのが不法侵入者だとするならば、それはそれで妙な話になりますね」

「妙な話? どこが妙なんだ、ヴィー」

「件の侵入者たちがケーラビーの存在を知らなかった事がです」

 さて、話を戻して不法侵入者について。

 俺は特におかしいとは思わなかったが、ヴィリジアニラは何かをおかしいと思ったらしい。


「メモ。ケーラビーの情報の深度は?」

「メモのような多少知識のある諜報部隊なら問題なく、非合法の組織と手段でも普通に手に入る情報でした。何なら一般人でもうっかり手に入れることもあるでしょう。つまりはこういう警備があるから、入ってくるなよと警告するための見せ情報です」

「ん? ああ、なるほど。わざと半分くらい表に出しているって事か。つまり、本当の警備は……」

「それはメモたちが知るべきではない事です」

「アッハイ」

 どうやらケーラビーはいわゆる門番と言うか……いや、性質も考えれば番犬に近いものであり、それを潜り抜けたところに本命の警備は待ち構えているらしい。

 その本命については俺たちのような部外者が知るべきではない情報なので、俺ももうこれ以上は問わないでおこう。


「でもなるほど。確かに妙だな。どうやったかは知らないが、惑星への不法侵入を試みる事が出来るだけの技術があるのに、少し事前調査をすれば居ることが分かっているケーラビー対策すらしていなかったと言うのは妙だ」

「そういう事です。惑星への不法侵入をするなら、相応の目的がある筈。その目的を果たすためならば事前調査だって、少なくとも本人視点では抜かりなくやる筈です。なのにケーラビーに気づいていないとなると……おかしいと思いませんか?」

 問題は不法侵入者たちがずさん過ぎる点だ。

 侵入そのものが目的だったのか、惑星上で何かをする気だったのか……いずれにせよ、ずさんだ。


「んー、犯人の目的と言うか、可能性を考えてみるか。俺たちが不法侵入だと思っていただけで、ただタグをなくしただけだったとか。俺は不法侵入の瞬間を見ているわけじゃないしな」

「そもそもとして、大した技術や目的を持っていない、愉快犯としての性質が強い可能性もありますね」

「もしくは囮や捕まること自体が目的である可能性もあり得そうですね……。一応、諜報部隊の方に情報を挙げておきましょう。私たちは偶然目撃しただけですし、現地当局がこの状況を甘く見るとも思いませんが、やれるべき事はやっておきましょう」

「だな」

「ですね」

 まあ、俺たちは現場に居ないし、惑星の治安維持を担当している人間との関わりもないし、ぶっちゃけ俺が遠くから一方的に目撃しただけの話だからな。

 警戒を促す以上のことは出来ないし、するべきじゃないか。


 しかし、どれにしても捕まった連中については愚かと言う話になりそうだなぁ……。


「ところでヴィーの目が捉えている脅威とやらについては今回の情報を得てどうなったんだ?」

「むしろ強まっていますね」

「だから囮かぁ……」

「ヴィー様の目の精度からして囮はあり得そうですね……」

 どうやら今回の件を受けたヴィリジアニラの目は、脅威が去ったのではなく、むしろ存在する確率が高まったと判断したらしい。

 その事実を告げるヴィリジアニラの顔はどことなく疲れがある。

 うーん、分かってはいたことだが、本人にも制御しきれていないmodはやはり負担が大きいように感じるな。

 とは言え、それを止める気が本人に無いならば、緊急事態でもない限りは俺が止めるわけにもいかないと。


「ま、何が起きてもヴィーのことは俺が守るから安心しろ。それだけの力はある」

 となれば、俺がかけるべきは少しでも安心させられるような言葉だろう。

 まあ実際、俺をどうにか出来るような戦力なんて、最低でも帝国軍の艦隊クラスから。

 逃げるだけなら、その上のレベルでも何とかはなる。

 そこらの犯罪者、宙賊、テロリストがどうにかなるレベルではないので、そこは安心してもらいたい。


「サタ……ありがとうございます」

「ふふん。任せておけ」

 むしろ怖いのは毒物と電子機器方面からの攻撃だが……。

 前者は基本的に俺が先に飲食を取る事で毒見しているし、そもそも帝国貴族は毒見系や毒耐性系のmodは割と標準装備。

 後者については機械知性であるメモクシが居るから、そこら辺の奴じゃ相手にもならないだろう。

 つまり、ヴィリジアニラの守りは薄そうに見えて、案外しっかりとしているのだ。


「ヴィー様。今回の件については続報が手に入るように手続きをしておきます。そうすれば数日後には明らかになるでしょう」

「メモもありがとう。お願いします」

「はい、かしこまりました」

 と言うわけで、この件についてはこれくらいにしておこう。

 考えても詮無い事は、考えないのが正解である。


「それよりも惑星グログロベータ1の他の場所を見てみよう。ちょうど日の出が始まったエリアとか、日の出と実った小麦畑が組み合わさった結果として、ベタな表現だが黄金の海みたいになっているぞ」

「ふふ、本当ですね」

「サタ様……いえ、なんでもありません」

 と言うわけで、俺は別なものに目を向け始めることにした。

 惑星上に居る俺の本体視点でないと見れない光景を挙げてしまったのは内心では失敗したと思っているが、ヴィリジアニラの考えていることを変えられたので、目的は達成できたとしてよしと言っておく、そうしておく。


「ところでサタ視点だとトマト一つとかを見ることは? 真っ赤なトマトが恒星の光を反射して輝いているのが見えているのですけど」

「あ、うん。そう言うのは無理。見えない。ケーラビーとかも群れを成している時や運ばれている巣は見えるけど、個体は見えないな」

「当たり前ですが、メモも、ヴィー様も、サタ様も、見えているものがまるで別々ですね。これはこれで味わいがあるのかもしれませんが」

 その後、俺たちは惑星グログロベータ1の観察を何事もなく楽しんで、一日が過ぎ去ったのだった。


 なお、夕食は折角なのでケーラビーの蜂蜜から作った蜂蜜酒を飲んでみた。

 甘く、アルコールの苦みも少なめで、美味しかった。

 酒は好きな方ではないのだけれど、これはいいものだな、うん。

09/28誤字訂正

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