35:サタの衣食住
「それではサタ、メモ。おやすみなさい」
「おやすみなさいだ。ヴィー」
「おやすみなさいませ。ヴィー様」
さて、レストランを後にし、部屋に戻ってきた俺たちは、それぞれにこなすべき事をこなし、時間になったらヴィリジアニラは自分の寝室へと向かった。
で、俺も普通の人間のフリをするなら寝室へと向かうところなのだが……。
「サタ様。周囲の状況はどうですか?」
「現状、俺の本体が観測できるレベルの騒ぎは起きていないな。それもホテル周囲だけでなく第一プライマルコロニー全体でだ。少し時間を貰えるのなら第二プライマルコロニー及び惑星グログロベータ1についても調べてくるが?」
「お願いします。代わりに電脳方面についてはお任せくださいませ。メモのスペックで探れる範囲になりますが、探れるだけ探っておきます」
「頼む」
この場には俺の正体を知っている人間しか居ないし、気にしなくてもいいか。
それよりもまずはヴィリジアニラが感知した脅威を探る事だな。
現時点で何かが起きているのに、それを感知できませんでしたってのは、護衛としては駄目駄目だろう。
「そう言えばサタ様。一応聞いておくのですが、サタ様は睡眠、排泄、食事の必要性はどの程度なのですか? その辺りが普通の人間と異なるのはここ数日でメモもヴィー様も察していますが、違い方によっては対応が必要になりますので」
「ん? ああ、話してなかったか。一応は睡眠も排泄も食事も可能だ。だが必要性はないな。俺はその気になれば何千時間でも起きていられるし、大も小もしないし、食事だって摂らなくてもいい。なにせ宇宙怪獣だからな」
「流石ですね」
なお、俺が睡眠、排泄、食事を必要としない理由はちゃんとある。
まず睡眠は、こっちに居る俺は人形なので、眠気を覚えたら作り直せばいいだけ。
そして調べてくれたセイリョー社の研究者曰く、本体は脳みそを10個以上持っているとかで、順繰りに眠る事で体の活動を休めずに脳だけは寝ることが可能になっているようだ。
排泄については、そもそもこっちに居る俺が食べたものは、位相空間に居る俺の本体へと送られているようになっている。
で、俺が持つmodの作用で、排泄物、老廃物の類は100%分解されて再利用可能になっている。
なので排泄は不要になっている。
で、食事だが……コロニーサイズの化け物の飯が人間サイズで足りるなど本来ならあり得ないのだ。
と言うわけで、この点についても俺の本体が持つmodの作用で賄っている。
ちなみかつついでだが、俺は服についても人形を作る時に一緒に作っているので、生きるだけならば、極論俺は衣食住の全てを必要としていないのだ。
だがそれでも食事は楽しいので食べるし、落ち着いて体を休められる場所は欲しいので部屋は貰うし、多少のおしゃれをしたい気持ちはあるので時々服だけ作り直すのだが。
「そう言うメモクシの方はどうなんだ? アンドロイドだって最低限の休息は必要だろう?」
「その通りです。メモにも最低限の休息と補給は必要です。具体的には週に一度程度は一時間ほどのメンテナンスとデータ整理の時間が欲しいですね」
「なるほど」
「ですが、それはそれとして、100時間程度は無補給かつ連続で活動可能な状態には常にしてあります。帝国は基本的には平和ですが、常に安全ではありませんから」
「まあ確かにそれくらいの備えは要るか。本当に派手な事故になると三日三晩くらいはフル活動しないといけないのはあり得るしな」
「はい」
どうやらメモクシも俺ほどではないが、休息が必要でない体であるらしい
流石は機械の体と言うべきなのかもな。
長期間の安定性では生体の方が勝つが、短期間なら機械は強い。
「……。これで記事はよし、と」
「ホテル『エディブル・クリセンマム』の記事ですか?」
「ああ。唐突なグログロベータ星系編の開始に加え、ヴィーと言うパトロンが付き、明らかな高級ホテルに高級レストランってのは記事として美味しい面は十分にあるからな。俺の表の収入源でもあるし、書ける時にきちんと書いて送っておかないと」
さて、そうしている間に先ほどのレストランでの食事の記事を書けたので上げておく。
「この記事でヴィー様の言った脅威に反応はあると思いますか?」
「直ぐにはないだろ。表に出て、反応があって……まあ、時間はかかる」
「そうですか」
ちなみに俺の記事はヒラトラツグミ星系のサーバーにデータが保存され、そこから各地の購入者……主にヒラトラツグミ星系とセイリョーコロニーの住民がダウンロードすると言う形になっている。
そして星系間の距離は超光速通信技術を以ってしても一瞬では済まないような時間がかかるものである。
なので……まあ、いつもに購入者たちの手元に届くのは数日後とかかもしれない。
なんなら記事に対する読者の反応が俺の手元に届くのも同様であるだろうし……うーん、やはり星系が違うと言うのは、色々と難儀だな。
「だがまあ、全く動きが無いと言うのも考えづらいだろうな。ヴィーの隣にメモクシと言うメイドが居る中で、明らかに傭兵家業を営んでいる人造人間が加わるんだ。それなりに頭がある奴なら、計画の変更くらいは考えるはず。その変更に伴う動きを事前に察知できれば、こっちが有利になるが……」
「それがヴィー様の言う脅威に繋がっている保証はまた別、ですか?」
「そうなんだよな。今既に変更に動いているなら、脅威で無くなっていそうな気もするし。まあ、護衛なんだ。何が起きても割り込めるようにしておくさ」
「お願いします」
なお、ヴィリジアニラの顔と名前を俺の記事に出すのは本人も了承済みである。
これは記事の売り上げを伸ばす意味でも、ヴィリジアニラの囮役をこなす意味でも有効だと判断されたからだな。
さて、そんな事をしている間にも夜は更けていった。
衣食住が適当でも何とかなってしまう。
これが宇宙怪獣クオリティです。