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33:未来を測る眼

「それで? どうして俺に偵察を求めたんだ?」

 ホテル『エディブル・クリセンマム』の301号室。

 寝室が二つ存在し、リビングも別に用意されている、そんな明らかにスイートな部屋に着いた俺たちは、自分の部屋として利用する部屋を決めたところで話をすることにした。


 ちなみにウェルカムサービス的なものとして、花茶が用意されていたので、俺もヴィーもそれを飲んでいる。

 うーん、ジャスミンの花の香りによるリラックス効果が素晴らしいな。

 透明な茶器の中で花が鮮やかに開く姿も見ていて美しい。

 とても落ち着くな。


「そうですね……。まず前提として、私の目には様々な身体強化modが生まれつき入っています」

「それは前に聞いたな」

「私が持つmodの詳細な内容については省きますが……そのmod群の中には未来視とでも呼ぶべき効果を発揮しているものがあります」

「未来視……」

 さて、ヴィリジアニラが何を気にしているかの話だな。

 まず、今回の話はヴィリジアニラが持っているmodに起因しているもののようだ。


「それは文字通りに未来を見るものか? それとも現状を観測、解析した結果として未来が予見できると言うものか?」

「後者です。ただし、私が理解できていない、無意識的に処理している情報も解析には利用されているらしく、結果しか私には窺えません」

「なるほど」

 未来視のmodか。

 まあ、前者は原理的にあり得ないから、後者なのは当然と言えるな。

 しかし、ヴィリジアニラ自身も知覚していない、気が付いていない、無意識に取得した情報も使っての解析とは……。


「なんと言うか、疲れそうな話だな。それはつまり、理由も分からずに不意に危険が迫っている事だけ通知されるって事だろ?」

「その通りです。実際、原因がはっきりしない時は疲れますね」

「ちなみにですが、メモが把握している限りでは、ヴィー様の目の確度は90%を超えますので、発動したならば信用して行動して問題はありません。少なくとも警戒はするべきでしょう」

「ふむふむ。で、その未来視がつい先ほど訴えかけてきた。だから俺に偵察を頼んだと言うのが、さっきの話だったわけか」

「そういう事ですね」

 うんまあ、諜報部隊、それも囮として動く立場としてはありがたい能力なんだろうけど、疲れそうな能力だな。


「もう一つちなみに申し上げますと、ヴィー様は能力と血筋を抜きにし、立ち回りに注意をしても、トラブルに遭遇する事が多いです。メモが知る限り、今の帝国では犯罪に巻き込まれるのは一生に数度あれば多い方なのですが、ヴィー様が遭遇した犯罪件数はその10倍は優にありますので」

「メモ……それは確かにそうだけれど……」

「ああ。そっちもそっちであるのね。でもまあ、それはそう言う人間もいるってのは俺は知っているからなぁ……俺も遭遇する方だし」

 おまけにトラブル体質でもある、と。


「でもそうなるとだ。警戒は確かにしておくべきだが……。いや、そもそもヴィーの未来視が俺に反応している可能性もあるんじゃないか? 俺はそう言うのだぞ?」

「その点については既に調整済みです。生体に組み込まれ、常時発動しているmodの利点にして欠点は慣れる事ですから。サタの存在を私の目は既に脅威とは捉えてないです」

「そうなのか」

 なお、俺の影響はない模様。


「サタ」

「ん?」

「私の目はサタを脅威として捉えていません。私自身が理解できている範囲でも脅威は認識できていません。ですが、私の未来視ははっきりと何かしらの脅威が迫っている事を私に伝えてきています」

「……」

「脅威と言うのがどの程度の規模のものなのかも、私たちが関われる範囲での事なのかも分かりません。ですが、それでも脅威が迫っているのは確かで、脅威の結果として帝国臣民の生活が脅かされる可能性は大いにあります」

 気が付けば俺もメモもヴィリジアニラの前に立ち、背筋を伸ばしている。

 自然とこう言う立ち振る舞いをしたいと思わせるのだから、ヴィリジアニラの中に流れる皇帝の血と言うのは確かなものだと思う。


「ですので、何かが起きた時にはお願いします。サタ、貴方の力で帝国臣民を助けてあげてください」

「仰せのままに。ヴィー」

 そして、自分の領地と言うか、関係が深い相手でなくても善き人々が相手であれば助けようとするのは、正に帝国貴族としてのあるべき姿と言えるだろう。

 うん、ヴィリジアニラが俺の契約者であるのは本当に幸いだと言えるな。


「ただ……」

「ただ?」

「第一はヴィーの安全だ。そこは分かっておいてくれ」

「……。分かりました。心得ておきます」

 だからこそ優先順位ははっきりと明言しておくが。

 人の命に貴賤はないが、守る時の順番は存在しているのだ。


「さて、何が起きるのかは分からないが夕食の時間だ。食べるものを食べてエネルギーを補給しておかないと、いざと言う時に動くことも出来ない。と言うわけで食べに行こう」

「そうですね。それは確かにそうです。では、向かいましょうか」

「分かりました。お供いたします」

 さて、今日の夕食は何だろうか?

 ヴィリジアニラの未来視が感じた脅威に対応するべく、俺は本体でホテル周囲の警戒をしつつも、ホテルの最上階にあるレストランへと向かった。

09/23誤字訂正

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