32:コロニー中層
グログロベータ星系は第一プライマルコロニーの中層。
このコロニーが球形である事、各層が重力方向に対して水平に区切られている事。
これら二つの事情から、第一プライマルコロニー内で最も面積が広い層がここになる。
「中央は行政とライフライン周りが集中した、関係者以外立ち入り禁止の区域か」
「そうですね。私たちはお忍びですので、縁はないと考えてもいいと思います」
また、上下どちらからでも等距離である事や、最も守り易い位置であることから、この層の中心には第一プライマルコロニーの統治機関とライフライン周りの設備が集められているようだ。
外見的には……巨大な柱が街の中心に立っているように見えるな。
俺の本体なら位相空間に居る都合で誰にも気づかれることなく柱の中に入ることも出来るが……やる意味はないな。
余計な情報を得て、面倒なことになるのが関の山だろう。
ヴィリジアニラも縁が無いと言っているし、お呼ばれでもしない限りは考えなくていいだろうな。
なお、中央に関係者以外立ち入り禁止の区域がある都合上、中層は上から見た場合にはドーナツ状の形をしていると言える。
そして、サイズもサイズなので、トラムとも呼ばれる路面電車が走っていて、住民と観光客の足になっているようだ。
「で、あっち側が惑星グログロベータ1を見れる巨大窓か」
「その筈ですが……私たちの位置からでは他の建物に阻まれて見えませんね。サタには見えているのですか?」
「……。この体視点では見えてない。本体視点では見えているが」
さて、この中層の目玉と言えば、やはり惑星グログロベータ1側へと常に向けられている巨大窓だろう。
この窓はmodによって強度と透明度を大幅に増した窓であり、中層の惑星グログロベータ側は全面がこの窓になっている。
その窓に映るのは巨大な惑星の姿であり、望遠鏡などを用いれば、惑星上での活動を覗き見ることも可能となっている。
惑星グログロベータ1に降りるのは非常に面倒な手続きが必要なのは先述の通りなので……実質的に惑星観光はここからする事になるな。
まあ、今の帝国だと惑星に降りないと出来ないような何かと言うのはそう多くはないだろうから……これでもいいんだろうな。
「今更ですが、サタの本体視点はどのように見えているのですか? サイズの都合で人間サイズのものも見るのが難しいと言うのは分かっていますが」
「んー……なんと言ったものだろうなぁ……ピントが偶々合ったものは見えるんだが……とりあえず人間一人居る事が見えるのは偶々で、その人間が何をしているかはまず見えないな」
「なるほど」
「だから、大規模な事故とか事件とかが起きているのは認識できるが、何処かで特定の人物が待ち伏せをしているとか、入ってはいけない場所に人が入っているとかはまず分からないな」
俺の本体視点については……軍事的には微妙だろうな。
壁や床を無視して見ることは出来るが、出来るのは観測だけで、観察や斥候は行えない。
「では、私たちが今日泊まるホテル、『エディブル・クリセンマム』と言うホテルを見ることは?」
「その建物のおおよその位置と外観が分かっていれば見に行くことは出来るな」
「ふむふむ。では見てもらってもいいですか? ちなみに私たちが泊まる予定なのは301号室です」
「部屋の中は見えても、番号は見えないだろうなぁ」
俺はヴィリジアニラの頼みを受けて、メモクシから『エディブル・クリセンマム』と言う名前のホテルの情報を貰い、見てみる。
「えーと、あったあった。菊の花のモニュメントが特徴的な……また立派なホテルだな、おい」
「お忍びとは言え、ヴィー様に相応しいホテルの質、と言うものがありますので」
「え、これ、ドレスコードとか求められるんじゃね? 二人はともかく、俺は微妙なラインでは?」
「サタは外見からして護衛として通じるので大丈夫だと思います」
見えたのは、菊の花のモニュメントが飾られた見るからに高級そうなホテル。
と言うか、そもそもの立地が、各部屋から巨大窓を通して惑星グログロベータ1を見れる位置と言う時点で、高級宿の類である。
とりあえず俺個人だったら絶対に泊まらないと言えるホテルだ。
いやまあ、俺はそもそも取材目的以外ではホテルに泊まる必要なんてないんだが……今はそう言う話を考えている場合じゃないな。
「それよりもサタ。騒ぎの類は?」
「起きてない。平和そのものだ。と言うより、中層の何処にも問題が起きているようには見えないな」
「他の層は?」
「んー……俺の目に留まるほどのトラブルは見えないな。なんなら少し時間はかかるが、第二プライマルコロニーや惑星グログロベータ1の方も見てこようか?」
「いえ、そこまではしなくても大丈夫です」
むしろ考えるべきは、なんでこんな事をわざわざ聞くかだな。
そう言えば、ヴィリジアニラと出会ってから、ギガロク宙賊団、ガイドコロニーでの一件、と言った具合にトラブルが続いているようにも思えるが……。
「今日は安心して眠れそうですね。ヴィー様」
「メモ、その言い方は語弊を招くから……」
「……。まあ、そう言う流れの人間って居るよな。何故か」
「だからそういう事ではありませんって……。サタ、この件についてはホテルについてから話します。まずはチェックインを済ませましょう」
まあうん、メモクシの言葉が答えのような気がするな。
オレハ クワシ インダー。
ま、そうであっても、俺がやる事に変わりはないわけだがな。
そうして俺たちは何事もなくホテル『エディブル・クリセンマム』に到着し、チェックインした。
なお、ドレスコードは全く問題にされなかった。
清潔感があり、局部や危険物の露出が無ければ、とやかく言う必要はないと言う帝国らしい価値観を従業員間できちんと共有している一流ホテルらしい対応だった……。