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29:ロケットコーン

「戻ったぞ、と」

「お帰りなさい。サタ」

「何を訊かれましたか? サタ様」

 当然だが、事情聴取はそれぞれ個別に行われることになった。

 とは言え、内容については……。


「ほぼ昨日の焼き直しだな。時間が経って証言に変化が無いか、追加で気が付いた事が無いかを聞かれた感じだ。後は……modの解析能力の信用性がどの程度かは訊かれたな。まあ、普通に答えてお終いだけど。ヴィーとメモクシは?」

「私も似たようなものですね。身体強化modの詳細については個人情報という事で、諜報部隊としての権力も使って誤魔化せていただきましたが」

「メモは視覚データの再提供を求められました。未加工証明済みのものを渡したので、男が刃物を抜いて飛びかかっているのをヴィー様が認識してから動き出したことは証明できるでしょう」

 まあ、大した内容じゃないな。

 そして、此処からについては警察及びグログロベータ星系の治安維持に関わる各部隊のお仕事だ。

 成人資格証も持たないような男はどうでもいいと言えばどうでもいいが、限定的であってもシールドmodを無効化する刃物については、何としてでも探るはずだ。


「と。いや、よく考えたら普通に答えてお終いじゃなかった。二人にも話しておくべき追加情報があった」

「ナイフの出所がグログロベータ星系の何処か、と言う話ですか?」

「正解。きちんと解析したわけじゃないが、昨日よりも少し念入りに調べさせてもらった限りでは、根っこの部分にグログロベータ星系のSwがあるように俺は感じた。個人か企業かは流石に分からないけどな」

「なるほど」

 なお、もしもあの刃物を刃先から持ち手までくまなく舐めさせてもらえれば、もっと詳細な情報を……少なくとも俺が知る企業や組織のmodとの類似があるかぐらいは答えられたとは思うが……このレベルで正確なmod解析が出来る事は迂闊には出せないものなので、黙っておく。

 ヴィリジアニラとメモクシも、俺の判断が妥当であると分かっているので、同様だ。

 なにせ、下手に明かしてしまうと、産業スパイだなんだと簡単に言われてしまうし、否定も出来ないからな。


『お知らせします。グログロベータ星系名物、ロケットコーンが当艦の側方を通過すると予測されました。ご覧になられたい方は……』

「お」

「これは見ものですね」

「……」

 と、ここで艦内アナウンス。

 どうやら星系外にも観光名物として知られているロケットコーンが近くを通りかかるようだ。

 と言うわけで、俺は人間の体を窓に寄せつつ、本体の方の目も凝らし始める。

 ヴィリジアニラもこれについては興味があるのか、窓際の方に寄っていく。

 メモクシは……我関せずと言った様子だな。


「ではメモ。私たちが見ている間にロケットコーンの説明を」

「かしこまりました」

 だが、我関せずでも、ヴィリジアニラの要望で解説はしてくれるようだ。


「ロケットコーンとはイネ科トウモロコシ属の植物を元に発生したグログロベータ星系の固有植物です。見た目はただのトウモロコシですが、その大きさは地面から頂点までで、10メートルを超える長さにまで成長します」

 ん、んー、見えてきたな。

 確かに何かが、この船の側方を通りかかっている。


「特徴としては、宇宙空間でも、根を張る岩石製の小惑星と恒星からの光、この二つがあれば生育する事。熟したロケットコーンは自らの子孫を残すために、別の小惑星へ向けて自らをロケットのように射出する事です」

 見えた。

 トウモロコシだ!

 皮付きのトウモロコシ……普通のならば可食部位となるそれが、茎と繋がっている部分から青い光を放ちつつ宇宙空間を突き進んでいる!


「ロケットコーンは食用植物です。なので、大半のロケットコーンは発射直前のものを収穫します。しかし、安全な軌道で敢えて放たれた一部はこうして宇宙空間に飛び立ち、我々が目撃する事になるようです」

 あー、でも、これ以上は彼我のスピードの都合から近づいてこないみたいだな。

 もう少し近づいて見たいが……無理そうか。

 なお、スピードについては、こっちが一時的に超高速航行を切っていてもなおこちらのが速い。

 まあ、向こうはただの植物である上に飛行方法は原始的なものだから、当然と言えるか。


「あら、全ては収穫しないのですか?」

「観光名物、防衛システム、一部住民への直送などなどの面から、一部のロケットコーンは敢えて収穫していないようですね。小惑星帯農場の外にまで飛び立ったロケットコーンの軌道については、公開データとしてグログロベータ星系内に存在する全ての公式な船に伝達されているので、それでも問題は無いようです」

「なるほど」

「ん? という事は、今ここで見えているロケットコーンは誰かが収穫して食べても?」

「ラベル付きでない場合は法律上は問題ないようですね。ただ、相手のサイズ、外皮の硬さ、速さなどの問題から、宇宙空間を飛ぶものを直接捕らえる方は極めて稀なようです。ちなみに味については宇宙空間を飛んでいたものの方が高級食材として卸されていることから、保証はされていると思います」

「ふうむ……」

 うーん、距離があるのが本当に残念で仕方がない。

 もう少し距離が近ければ、ヴィリジアニラに頼むことで一時的に本体を出して回収するんだが……。

 あ、光的に分離したっぽいな。

 多段ロケット機構なのか、うーん、もっと近くで見たかった。

 

「ちなみに最終的にはグログロベータ星系の恒星に落下。蒸発して終わりになるそうです。稀に外宇宙まで飛び出す個体も居るようですが……そちらもグログロベータ星系のSw範囲外に出たところで枯死してしまうようですね。また、この枯死は収穫されてからSw範囲外に出しても起きる、現状克服できていない問題のようです」

「つまり、グログロベータ星系内でしか味わえない珍味でもあるわけか」

「なるほど。何処かで食べてみたいですね」

 さて、そんな事を言っている間にも船はロケットコーンから離れ、超高速航行に戻り、やがてグログロベータ星系の第一プライマルコロニー……球体状の大型コロニーへと到着したのだった。

宇宙空間を飛翔する巨大トウモロコシなんてあり得ない?

ある得るのが本作の世界観です。


09/19誤字訂正

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