28:グログロベータ星系進入
「第一プライマルコロニーへの移動付きになるとは嬉しい話ですね」
「正に情けは人の為ならず、己が為にある。と言う奴かもな」
「代わりに事情聴取を受けつつ、と言う形になりましたが……誤差の範囲だとメモは判断します」
翌日。
俺たちは警察の輸送船に乗る形でガイドコロニーを出発し、一日かけて目的地であるグログロベータ星系の第一プライマルコロニーへと移動する事になった。
グログロベータ星系へ進入する際の待機施設利用については、昨日の一件を受けて警察と帝国軍諜報部隊の間で色々と取引があったのか、特殊な警察の輸送船を利用することで代用。
おかげで追加の事情聴取を受けつつではあるが、スムーズかつ時短をしつつ、第一プライマルコロニーへと向かう事が出来るようになったのである。
「さて、此処からはグログロベータ星系のSwの影響範囲内になるわけですけど……」
「おっと」
と言うわけで俺は警察の輸送船に乗るべく、ガイドコロニー内の専用港の通路を歩いていたわけだが……グログロベータ星系のSwの影響範囲内に入ると同時に俺の体から甘ったるい香りが漂い始めてしまった。
「軽度の事象破綻ですね」
「だな。ちょっと待ってくれ。調整する」
この甘い香りはOSから異なる俺の体と、グログロベータ星系のSwが干渉しあった結果、modが競合し、特に噛み合いの悪い部分で事象破綻が発生。
その結果が匂いと言う形で出力されている。
現時点でこれという事は俺が体の出力を上げたり、何か妙なことをすれば、更なる事象破綻が発生することになり、悪臭、爆発、消滅と言った現象が起きることになる。
「調整ですか。普通の人間には絶対に出来ない行為ですね」
「だろうな。でもこれが出来るからこそ、俺は帝国に居られるわけだ」
と言うわけで、俺の体を構築しているmodの内容をちょっと調整。
出来ることに変わりはないが、グログロベータ星系のSwに適合している形に改めていく。
なお、勿論と言うか、普通の人間には自分の体を構築しているmodを弄るなんてことは出来ない。
それをやるためには専用の設備が必要となる。
なので、普通の人間は道具にmodを込めて使っているわけだな。
そして、何代もmodによる改変を肉体に施していると、生まれながらにmodを保有しているなんてことにもなるわけだが……。
「と、そう言えば、ヴィーの目は生まれつきか?」
「ええ、生まれつきです。生まれた時から目の周りにビリジアン色の燐光が生じていて、だからヴィリジアニラと言う名前を付けたと母が言っていました」
うん、分かり易い例が隣に居たな。
ヴィリジアニラの目はmodの影響でくすんだ青みの緑色……ビリジアン色の燐光を纏っているのだが、これは後付けではなく生まれつきであるらしい。
流石は貴族と言うべきか、皇帝の庶子と言うべきか……後者のが強いか。
誰の目にも明らかにmodの影響が出ている人間は貴族でも珍しいしな。
「そう言えば私のmodの効果についてはサタに話しましたか?」
「聞いてないな。でも、だいたい予想はつくから、現状では聞かなくても大丈夫だ」
「流石ですね」
ヴィリジアニラのmodの効果については……まあ、昨日の目が良い発言からだいたい察しが付く。
単純な視力強化に始まり、危険物への反射的な認識、彼我の攻撃軌道の予測、シールドmodの働きの予測、少なくともこの辺は確実に持っているはずだ。
他にも望遠、暗視、可視光範囲の拡張とかもあるかもしれないが……本人が口にしない限りは気にしなくていいな。
こういうのは個人情報の類だから、無理に探るようなものじゃない。
「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」
「分かりました」
そうこうしている内に俺たちは目的の船に到着し、警官の方の案内で乗船。
窓付きのコンテナとでも評せそうな感じの部屋に通される。
どうやら、万が一の際には部屋ごと宇宙空間に投棄して、安全を確保できるようになっている部屋であるらしい。
そんな部屋が必要なのかって?
これは憶測でしかないが、体内に植物の種子を隠し持って密輸しようとした奴とか、昔居たのではなかろうか?
その種子がグログロベータ星系のSwで爆発的に成長し……やがては船丸ごと緑の海に沈んだとか。
うーん、B級映画、C級映画な匂いがプンプンとするが、犯罪を犯す連中の頭は分からないし……いや、このパターンだと趣味かそういう食べ物だったかで、普通の種子を丸呑みにしていたのパターンもあるか。
「サタ? 妙な顔をしていますが、どうしたのですか?」
「いや、グログロベータ星系の観光ガイド記事として、一応、星系内に進入する数日前からは食事に気を付けて、種子の類を丸呑みにしたりしないように気を付けましょう。とか、書いておいた方がいいかなと」
「そんな人は……」
「妥当ですね。今調べましたが、メモが調べた限りでは毎年数名程度は種子丸のみによる事故を起こすようです。そうなってしまうと、急いでSwの範囲外に対処するか、酷い場合には緊急手術を行う事になるようで、地味に問題になっているようですね」
「居るみたいですね。考えてみればそれが種子とは知らずに飲み込んでしまっている場合もありそうですし、気を付けた方がよさそうですね」
「ああ、やっぱり居るのか。じゃあ、注意事項として書いておこう」
表の仕事の記事として書くべきことが見つかったので、書いておこう。
この手の注意事項はそれぞれの星系、惑星、コロニーごとに異なる話も多いからな。
需要の有無にかかわらず、安全な旅行の為にはしっかりと書いておくべきだろう。
なお、グログロベータ星系の食べ物は、地元だけあってそういう心配はまず要らない。
ちゃんと取り除かれるか、発芽しないように処理されているものばかりである。