27:通り魔事件
「さてこの後は?」
食事を終えた俺はヴィリジアニラに問いかける。
「そうですね……おやつは今さっき食べましたし、観光スポットとして有名な港湾エリアでも……」
対するヴィリジアニラの答えは最後まで続かなかった。
「っ!?」
「ん?」
「……」
ヴィリジアニラが突然動き出す。
腰の拳銃型ブラスターを抜くと、俺の背後へ銃口を向ける。
俺はそれを見て反射的にヴィリジアニラの銃の射線から身をどかしつつ、射線の先にあるものを見る。
メモクシもヴィリジアニラと俺が動き出すのと同時に動き出し、臨戦態勢を整える。
「死……」
射線の先に見えたのは、建物の間にある細い路地。
そこでは男が刃物を振りかざすと、男に背中を向けて歩いている女性に向かって刃物を振り下ろそうとしている状況が広がっていた。
女性は男に気づいていない。
しかも、どういう理由かシールドmodも機能していない。
このままでは確実に惨劇が起きるだろう。
「させません!」
「「!?」」
だからヴィリジアニラは動いたのだ。
ブラスターを三度撃ち、一度目で男のシールドを破壊し、二度目で男が手に持つ刃物を吹き飛ばし、三度目で非殺傷モードに変更した光線を男に直撃させて意識を奪う。
「「「キャアアアァァァァァッ!?」」」
突然の発砲音と爆発音に叫び声が上がる。
「サタ!」
「言われずとも!」
その中で俺は駆け、気絶している男に近づき、四肢を伸ばさせる形で地面に伏せさせるように体を動かすと共にボディチェック。
刃物以外の危険物を持っていない事を確かめる。
と同時に、顔に付いている汗にも触れておき、俺の能力でもって簡易検査。
うん、報告事項ありだな。
後は被害にあいそうになっていた女性を男から遠ざけ、周囲に更なる危険が無いかもとりあえず見える範囲で見ておく。
俺の専門とはだいぶ異なるので、完璧な知識があるわけではないが……うん、とりあえずは大丈夫そうだな。
と、刃物についても対処。
男が跳ね起きた程度では届かないような、少し離れた場所に飛ばしておこう。
後、飛ばす際に触る事で、modの簡易検査もしておく。
これは……こっちも報告事項だな。
「帝国軍です。緊急事態と判断したため、無警告での制圧に動きました。容疑者は既に拘束されています。ご安心くださいませ」
俺の行動中にメモクシが声を張り上げ、何処かからか取り出したホログラムによって自分たちの所属を明らかにする。
うん、嘘は言ってないな。
諜報部隊ではあるが、帝国軍には変わらないのだし。
そして、ヴィリジアニラはメモクシを連れてこちらに近づいてくる。
「大丈夫でしたか? 今、警察は呼んでいますので、安心してくださいね」
「は、はい……」
ヴィリジアニラが被害者女性に声をかける。
「それでその、この男に見覚えは?」
「え、えーと……見覚えは……ないですね……」
見覚えが無い。
となると通り魔か?
あるいは此奴が裏側の人間で、誰かからか女性の暗殺を依頼されたとかもあり得るか。
まあ、その辺の細かいところを探るのは治安維持を担当する人たちの仕事だな。
「警察だ!」
と、噂をすれば影だな。
と言うわけで、俺はやってきた警官の人と男の拘束を代わり、男は本格的に拘束されていく。
現行犯であることは明らかなので、安易に拘束が緩められることはないだろう。
で、この間にヴィリジアニラが把握している範囲で状況を話し、メモクシは自分の視覚データのコピーを渡している。
「サタ。拘束をしている最中に気になった事はありますか?」
「二点あるな」
で、俺も報告するべき事項を話しておく。
「一つ、あの男だが、ドラッグを使用している可能性が高い。汗にドラッグ特有の物質が混ざっていた。何由来のドラッグまでかは分からないが」
「ドラッグですか。嘆かわしいですね」
「もう一つ、あの男の使っていたナイフだが、違法modが仕込まれていた。出力は低めだったが、シールドmodの無効化modだ。こっちは裏の人間だからと言って早々手に入るようなものじゃないぞ」
「それはまた、随分と危険なものが出て来ましたね」
前者は……薬を使っているから犯罪を起こしたのか、犯罪を起こすために薬を使ったのかは分からないが、とりあえず強力な興奮剤や自制心の解除のような作用を持った薬を使っていたのは確かだな。
後者は……ぶっちゃけヤバい。
シールドmodは帝国の殆どの人間が持っていて、日常的に利用しているmodであり、安全を維持するのに欠かせないものだ。
それをすり抜けられるmodなど、使い方によっては危険極まりない。
まあ、触って調べた限りだと、使い捨てで、無効化できるシールドのグレードにも限界があって、他にも条件が色々とありそうな欠陥品だが……それでも危険なことには変わりない。
絶対に出所を調べて対処するべきものだろう。
「……。至急、捜査をさせていただきます。それと、念のための事情聴取を行いたいので、本官にご同行していただけるでしょうか」
「分かりました。同行させていただきます」
その後、俺たちは簡単な取り調べを受け、それらが終わるころにはホテルに帰る時間になってしまっていた。
「しかし、ヴィーは良く気が付いたな」
「modの力で目はとても良いんです。特に危険物はよく見えます」
「なるほど」
そういうヴィリジアニラの顔は、被害者を出さなくてよかったと言う表情と誇らしげな表情が混ざった輝かしいものだった。
なお、この後判明したこととして、犯人の男は成人資格証を持たないガイドコロニーの住人であり、いわゆる落伍者。
ドラッグは自分……正確には親の金で購入したもの。
ナイフの出元については黙秘しているが、恐らくはドラッグの売人と同様。
被害者の女性との面識はなく、自分を馬鹿にしたように見えたから襲ったとのことだった。
男は最終的には帝国法に従って処分される事だろうが……やはりナイフの出元については気になる事件という事になった。