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26:チップス&ジュース

「さて、まずはベジタブルチップスだな」

「グログロベータ星系内にあるコロニーで採れた新鮮な各種野菜を薄くスライスし、特製の植物油で揚げ、味付けを施したもの。だそうですね」

「ちなみにグログロベータ星系の名産品ですが、大手の企業による製品ですので、帝国各地の星系に輸出され売られています。なので今回はベーシックな物以外も用意する事にしました」

 ベジタブルチップス。

 袋に入ったそれは、ヒラトラツグミ星系の各地にあるお店でもよく見かけたものである。

 製造しているのはボーンボンハッチ社と言って、帝国全域にその手が及んでいる一大お菓子メーカー。

 グログロベータ星系には、ボーンボンハッチ社の原材料の生産から加工までを一手に引き受ける大規模生産コロニーがあるらしい。

 なお、もっとも有名な商品は今回のベジタブルチップスとは別の、芋を加工したお菓子である。


 さて、今回はオーソドックスな塩味、同じくオーソドックスと言える薄く砂糖をまぶしたもの、地域限定品であるらしい特殊フレーバーとして花の香りを付けたものとうま味をとにかく強めたものがあるようだ。

 まずは塩味から食べてみよう。


「元になっている野菜はジャガイモ、ニンジン、ナス、サツマイモ、カボチャ、ズッキーニ、トマト、レンコン……やっぱり色々とあるな」

「そうですね。彩も鮮やかで……美味しいですね」

 うん、いつもの味だな。

 薄切りにされた野菜を油で揚げ、塩をまぶしただけと言うシンプルな調理法から生み出される料理だけあって、素材の味がダイレクトに出ている。

 だがそれはいい事だ。

 新鮮かつ適切に処理された野菜たちのほのかな甘み、それぞれに特有の香り、そう言ったものが口の中に広がって、俺たちの舌を楽しませてくれる。


 ちなみにmodが無かった時代には、この手の製品の栄養価は加工の過程でいくらか失われてしまっていたそうだ。

 が、今はmodの働きによって栄養価のロスは最低限にまで抑えられている。

 これは私見だが、一日一袋食べれば、野菜系統についての十分な栄養を確保できるのではないだろうか。


「砂糖をまぶしたバージョンもいつも通りに美味しいな」

「本当ですね。個人的にはこちらのがおやつと言う感じがして好きです」

 続けて砂糖味。

 砂糖も含めてグログロベータ星系産であるわけだが……まあ、こちらもいつも通りの味だな。

 ただ、塩味に比べると少しだけ柔らかめにしてあるようで、味の違いを生かすように、こういう僅かな差を作り出せるところに一流企業の技と言うものを感じるな。


「ヴィー様、サタ様。こちらは花の香り、こちらはうま味増強です」

「くんくん」

「ふむふむ」

 さらに続けて地域限定と言う名のお試し商品。

 きっと、此処での売れ行きが良ければ、帝国各地へと運び出されていくこともあるような品物だ。


 さて、花の香り味は……どうやら、それぞれのベジタブルチップスの原料となる野菜、その花の香りを強めつつ付けているらしい。

 modによって香りが混ざらないようにされているのだが……。

 人を選びそうと言うか、そこまでの量は必要ないと言うか、美味しいの部類には入るのだけど、取り扱いが難しい感じの商品だな、これは。

 んー、一種類か似た匂いの数種類の野菜に限定した方がいいのでは?

 大地を感じさせる良い味なのは間違いないので、調整を頑張ってほしい。


 うま味増強味は……昆布だな。

 うん、昆布だ。

 とにかく昆布の香りが強い。

 なんと言うか、それぞれのベジタブルチップスの形をした昆布を食べているような感覚になっている。

 これは微妙に失敗している感じがあるなぁ。

 もうちょっと元の味を生かすような形でうま味を強めていただけると個人的には……と言う感じだ。


「口直しが必要だな」

「ですね」

 とりあえず口直しにフルーツジュースを飲む。

 ヴィリジアニラは普通のリンゴジュースを。

 俺は新配合と謳っていたミックスフルーツジュースを飲む。


「流石はグログロベータ星系ですね。市販品のリンゴジュースでも品種改良が進んでいます」

 なお、リンゴジュースと一口に言っても、実際の商品は何十種類にも及ぶ。

 これは使っているリンゴの品種もそうだが、優先するべきものがそれぞれの製品で違うからだ。

 今回ヴィリジアニラが選んでいるのは、大手が販売しているのど越し爽やかで水代わり……ほどではないが、とにかく飲みやすくしたものだ。

 が、物によってはとんでもなく濃厚であったり、触感がすりおろしたリンゴそのものであったり、薬に近いものであったりもする程度には、違いが存在しているのが、グログロベータ星系の単一農産物で作られたジュースと言うものである。


「ふむ……これは……10……20……いや、30か? 俺の舌でも見極めきれないな」

 さて、対して俺が飲んでいるミックスフルーツジュースだが……これは何と言うか、カオスだな。

 普通の人間とは比較にならないほど鋭敏な俺の舌で捉えた限りでは30種類以上の果実と野菜が混ぜられている。

 栄養価は上の上として、味は……品質安定化のために入れられているmodの性能が良いからか、甘めのジュースぐらいで落ち着いているな。

 これを毎日一本飲んでいれば、後はカロリーとタンパク質と脂質を適量取っていれば、栄養面は万全になりそうな感じがある。

 で、使っている果実と野菜の品質は高いレベルでまとまっているが……その高いの中で微妙にばらついているのが気になるところだな……。

 でも、俺の舌でようやく分かるレベルなら、一般的には何も問題はないのか。


 ちなみに新配合の部分は割合だったり、使っている農産物だったり、modだったりが従来品とは違うらしい。

 うん、旧作を飲んでいないから比較が出来ないな。


「まあ、何にせよ。満足だな」

「そうですね。あ、サタ、残りはお願いします」

「それはもちろん」

 なお、俺とヴィリジアニラでは当然ながら胃の容量がまるで別物なので、ヴィリジアニラが満足した後に残ったベジタブルチップスを片付けるのは俺だ。

 捨てる? そんな勿体ない真似をするわけがない。

 ドカ食い? きちんと味わって食べますとも。

 食い過ぎ? 本体がコロニーサイズなんで、この程度は誤差です。

 と言うわけで、何事もなく完食である。


 うん、とても美味しかった。

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