22:サタの正体
「知っての通り、俺の本名はサタ・コモン・セーテクス・L・セイリョー。で、名前の通りにセイリョー社のラボで製造された人造人間であり、5年の雇用期間が明けた後に平民として成人資格証を取得してる」
「そのようですね。それでセイリョー社のラボ生まれのようですが、具体的には何処のラボですか?」
「セイリョーコロニーの人造人間製造部門。つまりはセイリョー社の本社だな」
「セイリョー社の本社……mod研究の為に星系間に建造され、運営されているセイリョー社所有のコロニーでしたね」
「その通り」
まずは俺の生まれから。
と言っても、生まれた場所についてはそこまで特殊じゃないな。
セイリョー社所有のコロニーであるセイリョーコロニーは最寄りの星系であるヒラトラツグミ星系まで3光年ほど離れた辺鄙な場所にあるが、これはmod研究と試験の最中に万が一致命的事象破綻が起きた時のことを考えたら当然の位置取りだし。
セイリョー社自体もmod研究と試験について大手の会社であると同時に、オープンで、帝国の皇室、貴族、議員、官僚と言った面々との仲も悪くない、探られて痛い腹もない超ホワイト企業だ。
「ただ、俺の製造過程で何かイレギュラーがあったらしくてな。結果的に俺は普通の帝国人とは異なるOSを保有する生物として誕生。おまけにそのOSと幾つかのmodが噛み合った結果として宇宙空間でも支障なく生存できる事も判明。分類上は世にも珍しい人造の宇宙怪獣という事になったわけだ」
「なるほど」
「ちなみにヴィー様。帝国の歴史上、少なくとも表に出て来ている範囲では、人類に友好的で、対話が可能な、人造の宇宙怪獣と言うのはサタ様が初めての存在になります」
「そ、そうですか……」
ヴィリジアニラの顔が少し引き攣る。
思っていた以上に俺がとんでもない存在だと思ったのか?
でもそれを言うなら俺もなんだよなぁ。
まさかヴィリジアニラが皇室関係者とは思わなかったし。
なお、OSと言うのは……簡単に言ってしまえば、modやSwと言った局所事象改変技術が成立するために必要な土台と言ったところだ。
そして、バニラ宇宙帝国の版図を定めているものでもあり、『バニラOS』と呼ばれるOSが展開されている領域はそのままバニラ宇宙帝国の領土と言っても過言ではない。
で、宇宙怪獣と言うのは……以前どこかで言った通り、宇宙空間で活動し、単独で星系間航行が可能な生物という事になるのだが、それだけのとんでもない生物だけあって、ほぼ間違いなく独自のOSを保有展開している。
その独自のOSと『バニラOS』が干渉しあい、時には事象破綻も起こすからこそ……だいたいの宇宙怪獣は獰猛で危険なのだ。
それこそ各星系間に存在する航路、その一部が付近に生息する宇宙怪獣の動向で変わることもある程度には。
「ま、大丈夫大丈夫。セイリョー社でも俺が宇宙怪獣だって知っているのは極一部。俺だって普段はほぼ完璧に帝国人に偽装しているからな。ヴィーたちが喋らなければ、そう広がりはしない」
「そうですね。陛下も知っているでしょうが、放置しているのが現状でしょう。私としても、害がなく、帝国の一臣民として暮らしていただけるのなら、宇宙怪獣だからと対応を変える必要性は感じませんね」
なお、セイリョー社の人造人間製造部門の研究者たちがとても善い人々で、俺をきちんと人として扱い教育してくれたので、俺は数少ない友好的宇宙怪獣である。
友好的だからと言って誰も彼も無差別に助けようと思うほどのお人よしではないが。
「さて、セイリョー社で五年雇われて、帝国法に従って帝国の一臣民となり、成人資格も手に入れた俺はヒラトラツグミ星系へ移動した。この時は……確か、試験も兼ねて単独航行して、向こうのプライマルコロニーに文字通りの単身で移動したんだったかな」
「なるほど。つまりサタは超光速航行も超高速航行も出来るわけですね」
「出来る。何ならゲートを介さずに転移も出来る。条件は色々とあるけどな」
「流石は宇宙怪獣ですね……」
さて話の続き。
俺の航行能力に関しては……まあ、その気になれば一人で帝国中どころが銀河の外に飛び出すことだって出来る。
当てのないの航海なんてしたら先に精神が死ぬからやらないが、可能か否かで言えば可能だ。
「ま、転移も宇宙航行も緊急事態かヴィーの要請以外でやる気はないけどな。座標指定が面倒だし、宇宙空間じゃ食える飯に限りがあるし、方々から疑惑の目を向けられるしで、俺個人としては旨味がないんだよ」
「そうですか。ではそのままの方向でお願いします。個人で転移が出来ると言うのは、私と言う制御者が居ても、要らぬ不安を招きそうですから」
「ただ、一応その気になれば、ヴィーとメモクシの二人を連れて宇宙空間に逃げ出すことも出来るってのは、万が一の選択肢として覚えておいてくれ。この体じゃなくて本体の方が出てくれば、帝国軍の一部隊ぐらいなら相手に出来るぐらいの力はあるしな」
「……本体?」
俺の言葉にヴィリジアニラが首を傾げる。
ああ、そう言えばまだ言ってなかったか。
「此処にいる俺は簡単に言えば端末あるいは人形なんだよ。本体は別位相の空間に居て、そこからこの俺を操作してる」
「……。もしかしてサタの本体は宙賊の船を落とすときに出てきたあの腕……」
「正解。ついでに言えば、この端末は普通のヒューマンで言うところの髪の毛、爪、表皮の薄皮一枚ってところだから、幾ら壊れても本体への影響はほぼゼロと言っていいし、即座に新しいのを出してこれる」
「つまりほぼ不死身と考えても?」
「相手が対人間サイズの武装を使っている限りはそう考えてもらっていいな。mod兵器はOS違いでだいたい機能不全を起こすし、生物兵器・化学兵器についても、感染性・浸食性が仮にあっても端末で止まるように仕込んであるしで」
なお、これは余談になるのだが、俺の本体は俺たちが今滞在しているガイドコロニーとほぼ同じ大きさとなり、これは帝国軍がよく使っている戦艦と同じくらいの大きさという事になる。
そんなサイズなのでヴィリジアニラたちの姿は本体からは見えないのだが、ガイドコロニーに停泊中の宇宙船たちはよく見えるのが、俺の本体の視界である。
まあ、位相が違うので宇宙船の側からは俺は観測できないし、お互いに触る事は出来ないのだが。
もう一つ余談として、俺は宇宙怪獣としては最小クラスの大きさと言ってもいい。
資料で見た限り、宇宙怪獣の中には恒星サイズの化け物も居るからな。
あんなのと比べたら、俺なんてプランクトン以下だ。
「とりあえず急いで伝えておくべきはこの辺か。他にも出来る事伝えるべき事はある気もするが……細かい部分は資料が届いてからでたぶん大丈夫だと思う」
「そうですね。今はこれくらいで大丈夫だと思います。では次は私について触りを話しておきましょう。急に雇ったのは明らかですが、主の事を知っておいた方が下手な難癖を避けられると思うので」
「頼む」
さて、今度はヴィリジアニラについてだ。
いったいどんな話を聞けるだろうか?
ちなみにサタの本体はヤギの角と蝙蝠の翼が生えたメンダコを想像すると近い(実際にはもうちょっと色々加わるが)。